2-1 触れるということ
アルストリア王国、王都オルドンのすぐ近く。
湖のほとりに、古いグレイブハル城がある。
静かで、美しくて、
――どこか不思議な城。
ここには、美しい青年と少年が暮らしている。
彼らは、錬金術が遺したホムンクルス。
だが、それを知る者は、この世界には誰もいない。
―――
アウレリウスは、人が好きだ。
ホムンクルスであるアウレリウスとセティは、老いることがない。
身体の構成は人と何ら変わらないのに、彼らはずっと、その姿のまま、長い時を生き続けている。
それがなぜなのかは、彼ら自身にも分からない。
だからアウレリウスは、人に触れ、会話をし、知りたいと願っている。
――今日も、グレイブハル城に見学者が訪れる。
城の玄関ホール手前に増設された受付室。
その小窓をのぞき込んだ客に、アウレリウスは笑顔で応えた。
「こんにちは。見学かな?
一人、六銀だよ」
差し出される銀貨。
アウレリウスは、その手にそっと自分の手を添え、反対の手で銀貨を受け取る。
見学者は、彼の芸術品のような美貌と、手に触れられたこと、指先のなめらかさ――
そのすべてに、わずかな戸惑いと驚きを覚える。
「追加料金で、城の案内もできるよ。十銀だけど、どうしようか?」
柔らかな微笑みに押され、見学者がうなずいて追加の銀貨を差し出すと、
アウレリウスはまた、丁寧にそれを受け取った。
「ありがとう。すぐ行くから、待ってて」
彼は席を立ち、背後のソファに座っていた黒髪の少年に声をかける。
「セティ、案内に行ってくるね」
そう言って、受付室を離れた彼は、玄関ホールから現れた。
真っ白なシャツに、紺のフロックコート。
細身のパンツに、黒のロングブーツ。
背で編まれた、長い金の髪。
この城の“王子”だと言われても、誰も疑わないだろう。
それほどに、華やかで洗練された立ち姿だった。
「さぁ、行こっか。
まずは回廊と正餐室を見よう。
夫人の部屋のバルコニーから見る夕焼けは、最高なんだよ。
まだ時間には早いから、夫人の部屋は最後にしようね」
アウレリウスが手を差し伸べると、
見学者は、つい、その手に自分の手を重ねてしまう。
優しく握られ、導かれていく。
その背中を、黒髪の少年――セティは、受付室の小窓から静かに見つめていた。
やがて、そっと視線を手元へ落とす。
アウレリウスは人が好きだ。
そして、彼は人に触れたがる。
老若男女の手を取り、背に触れ、
時には腰に手を添えて、行き先を示すこともある。
大抵の人は驚くが、
彼の柔和な雰囲気と笑顔に、やがてそれを許してしまう。
セティは、それをいつも静かに見ている。
彼自身も案内に出ることはあるが、
人に触れることはないし、笑顔を見せることもない。
セティは知っているのだ。
それが、アウレリウスの知る――
“ただひとつの「親愛の表現」”であることを。
そして、彼が、それしか知らないことを。




