表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
グレイブハル城の観測者  作者: かも ねぎ
正編 第十章『越えてはならない境界』
86/160

10-9 『越えてはならない境界』最終話


 アルストリア王国。アルデン暦九四八年。


 この世界には、魔法はない。 


 魔術師もいなければ、ドラキュラも、ゴブリンもいない。

 行き過ぎた産業革命が起こることもなければ、異世界から転生してきた人間が現れることもない。


 そんな、法と理が守る世界。

 ――そう、人々が信じている世界。


―――


 ホムンクルスである彼らが迎える、穏やかな、いつもの朝。


 セティが先に起きて身支度を整える頃、アウレリウスが目を覚ます。

 そしていつものように、窓辺に立つセティをそっと抱きしめ、額に短くキスを落とした。

 アウレリウスが微笑むと、セティもほんの少しだけ口角を上げる。


 二人は順に髪を整え、朝食をとり、掃除を始める。

 アウレリウスは厩へ。

 セティは主人の部屋と書斎へ。


 音を生まないグレイブハル城。

 王都はいつも霧に包まれているのに、この城は澄んで、晴れていることが多い。

 今日も、いくつもの光の層が、城を淡く抱くように揺れていた。


 掃除が終わると、二人は自然と受付室に集まる。


 アウレリウスは机に肘をつき、頭を預けるようにして眠っていた。


 そこへ、羽はたきを持ったセティがやってくる。

 セティは、アウレリウスの顔を覗き込んだ。


 ――珍しい。疲れているのかな?


 小窓の向こうには、青い空。

 悠々と渡る白い雲。

 楽しそうに飛び交う小鳥の声だけが、かすかに届く。


 アウレリウスの手元には、ペンが転がっている。

 セティは小さく息をつくと、それを拾い、静かにペン立てへ戻した。


 視線を落とす。


 編まれた金の髪が肩に流れ、白い首筋があらわになっている。

 セティは一瞬、迷うように自分の唇に指で触れ、

 それから――

 彼の首筋に、触れるだけの、短いキスを落とした。


 何事もなかったかのように、セティは受付室を後にする。


 扉が閉まる。


 アウレリウスは、はっきりと目を覚ました。

 触れられた首筋に、震える指先でそっと触れる。


「……え?」


 彼は、振り返った。


 空は、あきれるほどに澄み渡り、

 グレイブハル城は、今日も、美しかった。

 その空気は清らかで、光はまだ、誰のものにもなっていない。


―――


 王都オルドンからほど近い、湖のほとりに建つ――グレイヴハル城。


 かつてこの城に住まっていた大貴族は、すでに歴史の中に消えている。


 いま城を守っているのは、

 錬金術士が遺した、二人のホムンクルスだけだった。


 風光明媚で、王都からの距離も近い。

 グレイブハル城は、いつしか観光名所として知られるようになった。


 美しく、

 静かで、

 それでいて、どこか不思議な場所として。


 今もその城は、

 この美しい世界のどこかに、ひっそりと在るのかもしれない。


 あなたも一度、訪れてみてはいかがだろう。






ここまでお読みいただき、ありがとうございました。


正編『グレイブハル城の観測者たち』は、ここでひとまず完結です。

この物語は、

不老の存在である二人が、人間の感情や選択を「観測する」物語として描いてきました。

越えてはいけない境界に、触れかけたところで、正編は幕を閉じています。


この先の展開として、

正編で語られなかった錬金術やホムンクルスの内側を扱った『拾遺』を続けて投稿予定です。

本編は本編として完結していますので、

気になる方は、よろしければ続きを覗いてみていただけると嬉しいです。


あなたのご来城を、お待ちしています!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ