表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
グレイブハル城の観測者  作者: かも ねぎ
正編 第一章『触れてはいけない城』
7/62

1-7 書き続けた愛


霧月むげつ十日 霧雨


ねぇ、ヘンリー。

今日の霧は一段と濃かったわね。

温室まで真っ白になっていて、見ていて可笑しかったわ。


貴方がわけもわからず貰ってきた花の苗、蕾がついたの。

綺麗な白よ。


でも貴方は、濃い色の花の方が好きかしら?

私は白が好きよ。昔よりね。

貴方の髪の毛みたいじゃない?

年を取ったわね、私たち。

それでも――変わらず、愛してるわ。



陽月ようげつ十五日 晴れ


昼間は霧が晴れていたわね。


ヘンリー、貴方と久しぶりに自然公園を歩けて楽しかったわ。


貴方は覚えていないかもしれないけど、婚約してから、貴方と初めて外を歩いたのは、あそこだったのよ。


若い頃、とてもときめいたわ。


貴方ってば、歩くのがとても早いの。

でも時々、立ち止まるでしょう。

振り返ったりはしないわ。

私が並ぶまで、そうやって待ってくれるのよね。

なんて不器用な人なのかしら、って思ったわ。


最近は膝を悪くしたから、並んで歩けるわね。

怪我の功名かしら。

並んで歩くと、いつでも貴方の横顔を見ることが出来るのよ。


愛してるわ、ヘンリー。


しわしわのおじいちゃんになっても、

私はいまだに、貴方の横顔を見たいと思うわ。

昔ほどは、ときめかないけれどね。



金風月きんぷうげつ六日 晴れ


ヘンリー、今日は霧も晴れて、とても良い天気だったわ。


私、病気ですって。

心臓が、少し弱いみたいね。


昔は病気知らずだったのに。

いやね、年を取るって。


やっておきたいこと、あるかしら。

子どもたちも皆独立して、孫のエリオットも素直ないい子だし、特に思いつかないわね。


貴方のおかげよ。

貴方が私のそばにいてくれたから、私、幸せだったのね。


……なんてね。

まだ死なないわ。

少し、弱気になってしまったみたい。


そうね、ヘンリー。

貴方と、たくさん話がしたいわ。

愛してるわ。



影月えいげつ二十二日 雨


寒いわね。

でも、冬って嫌いじゃないわ。


暖炉の火を見つめながら、

二人でソファにもたれるの。

そして、本を読むの。

あの時間が、とても好きなのよ。


ヘンリー、貴方、本を読むとき、眉をひそめすぎなのよ。

眉間の皺がどれほど濃いか、自覚あるのかしら。


歩くと、息が上がってしまうようになったわ。

だからね、貴方と、静かに過ごしていたい。

貴方と並んで、あと何冊くらい本が読めるかしら。


愛してるわ、ヘンリー。


どんな物語より、貴方ほど面白い人って、きっといないわ。



雪月せつげつ三日 雪


雪が降ったわね。


きっと、これが最後なのかしら。

雪は綺麗ね。

でも、泥に混じった雪は、あまり好きじゃないの。

雪よりも、霜柱のほうが好きかもしれないわ。


ヘンリー、貴方は?

……どちらも、興味なさそうね。


それでもいいわ。

情熱的な貴方は、貴方じゃないもの。


ヘンリー、愛してるわ。

貴方みたいな人を愛せるのって、きっと私くらいのものよ。


来年の雪は、貴方ひとりで見るのね。

興味がない方がいいわ。

ひとりだって、気づかずにいられるもの。


ヘンリー、そばにいられなくて、ごめんなさい。

愛してるわ。



芽月がげつ十九日 雨


雨の日は、動くのがつらいわ。

これも、ベッドで書いてるの。


情けないわね。

春なのに。

お花も見に行けないわ。


最近ね、温室の花に「愛してる」って呟いてるの。

バカみたいでしょう?


貴方に直接言うのは、恥ずかしいんだもの。


愛してるわ、ヘンリー。


貴方の代わりに愛を囁かれている、あの鉢植え。

綺麗な花が咲くといいわね。



翠月すいげつ二十四日 晴れ


もうすぐ、かもしれないわ。


愛してるわ、ヘンリー。


やり残したこと、何もないと思っていたけど、あったわ。

貴方と過ごすこと。

ただ、貴方の隣にいること。


私、周りを見てみても、長生きをした方だと思うのよ。

それでもね、死ぬのって、怖いのね。


数えきれないくらい、貴方の隣にいたいわ。

生まれ変わっても、貴方と一緒になりたい。


でも、年を取ると分かるのよ。

そんな都合のいいことは、起きないって。


それでも、真面目に祈るわ。


どうか、生まれ変わっても、ヘンリーと夫婦になれますように。


私の字、震えて下手くそね。


ヘンリー、愛してるわ。


きっと貴方は、照れて「愛してる」なんて返してくれないわね。


愛してる。

ありがとう。

そばにいてくれて。



翠月すいげつ二十八日 曇り


ヘンリー

愛してるわ



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ