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グレイブハル城の観測者  作者: かも ねぎ
正編 第八章『永遠が始まった日』
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8-4 祈りとしての愛


 世界が一度ほどけ、また結び直される刻。

 石壁に染み込んだ夜を、朝がゆっくりと拭い取っていた。


 エドマンドが使用人と共にアウレリウスの部屋を訪れると、アウレリウスは既に起き、ベッドの上で本を読んでいた。


「アウレリウス。よい目覚めだったか?」

「うん、エドマンド。おはよう」


 使用人達は、部屋を整え、朝食や洗面用の水、衣服をエドマンドの手の届く範囲に並べると、そのまま退室していった。


 アウレリウスが顔を洗うと、エドマンドが布を差し出す。着替えもエドマンドがさせ、髪も侯爵自ら整えてやる。


 使用人ほどの繊細な編み込みはできない。

 侯爵家の家紋が施された刺繍入りのリボンを使って、首の後ろで一つに縛るだけだ。

 どれほど簡素にしても、アウレリウスの美が損なわれることはない。


 髪を縛り終えると、背を向けて座っていたアウレリウスの両肩にぽんと手を置いた。

 それを合図にアウレリウスは立ち上がると、エドマンドの前に立つ。


 エドマンドは彼を抱き寄せ、静かにその背をさすった。


「アウレリウス。愛している。

 今日も良き日となるように、お前のために私は祈ろう」

「うん、エドマンドも、いい日になるといいね」


 腕を解き、エドマンドはアウレリウスの額に短くキスを落とした。

 そして、小さく微笑み合う。


 エドマンドは、

 創造主として、父として、

 母のかわりとして、よき友人として、

 彼に愛を与え、人間としての尊厳を伝えることに決めたのだ。


 それは愛情というより、贖罪に近い行為であった。




 アウレリウスは本を読むのが好きだった。


 そのため、エドマンドは彼に本を与え、私室の本棚も一回り大きいものに替えた。

 暖炉の前には座り心地の良いソファ。

 私室に連なる書斎も整理し、彼が自由に使えるようにした。

 

 アウレリウスは、字を書くことも好きだった。


 上質な紙を惜しみなく彼に与え、とにかくなんでも書かせた。

 聖書を写させ、学術書の写本を作らせてみたりもした。


 できるだけ時間を共に過ごし、言葉を交わし、手を取り、背をさすり、愛されるべき人間であることを、彼に伝え続けた。




 夜。

 

 寝支度を整えたアウレリウスは静かにベットの縁に腰掛けていた。

 影はやわらかく、月だけが確かな温度を持つ晩。


 いつものように、エドマンドは彼の前に立つと、その手を取った。


「アウレリウス」

「うん」


「私はお前を愛している」

「僕も、エドマンドを愛してるよ」


「お前は、誰よりも美しい」

「エドマンドの知的な瞳はとても素敵だ」


「お前の尊厳は、神であろうと犯すことは許されない」

「うん」


 エドマンドはアウレリウスをそっと抱き寄せ、柔らかく包み込むと、その額にキスをした。


「おやすみ、アウレリウス」

「おやすみなさい、エドマンド」


 毎晩、エドマンドは彼に伝える。


 愛している、

 お前は美しい、

 お前の尊厳は守られるべきだ。


 こうして、いくつもの月は満ち、欠けていった。

 静かな呼吸だけを残して。



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