7-7 支え合う光
今日何度目か分からないため息が、また一つ零れた。
セティは私室の窓ふきをしていたが、手を止めてアウレリウスを振り返る。
彼はベッドの上で、大人しく本を読んでいた。
あれからさらに二日ほどが経ち、アウレリウスの足はかなり良くなっている。
だが、痛みは引いても、松葉杖なしで歩くのはまだ難しい。
セティが階段の使用を禁じているため、アウレリウスはとにかく退屈そうだった。
セティは窓の外に目をやる。
淡い雲が青空を霞め、風も少ない穏やかな陽気だ。
布巾を置き、アウレリウスのそばへ歩み寄る。
「アウル」
アウレリウスが顔を上げた。
「外に行ってみますか?」
彼の眉が、少し上がる。
「……いいの?」
「一人で杖を使って階段を降りるのは危ないです。
でも、僕が肩を貸すので……」
アウレリウスの表情が、ぱっと華やいだ。
「セティがいいなら、行きたいな。
馬たちの様子を見たいんだ」
セティは何も言わず、アウレリウスの左側に立つ。
右腕をそっと、彼の脇の下に差し入れた。
「……立てますか」
アウレリウスは小さく頷き、右手でベッドに手をつく。
重心を預けると、セティの腕がわずかに力を受け止めた。
「……無理しないで」
そう言いながら、セティは肩を貸す。
二人が玄関ホールから外へ出ると、アウレリウスは目を細めた。
「これまでも窓辺に立って陽は浴びていたのに……。
外は、ずいぶん眩しく感じるね」
セティはアウレリウスの横顔を見る。
二人はそれ以上言葉を交わさず、そのまま歩き続けた。
厩舎に近づくと、餌を食んでいた二頭の馬が揃って顔を上げる。
セティに支えられながらアウレリウスが手を差し出すと、一頭はその手に頬を寄せ、もう一頭は彼の肩に顔を擦りつけてきた。
「あはは……もう、くすぐったい」
アウレリウスは笑いながら、馬の頬を撫でる。
「ごめんね。怪我しちゃったんだ。
でも、きっとすぐ治る」
交互に馬に触れながら、穏やかに微笑む。
「毛艶もいいね。セティのおかげだ。
茶色い子も、白い子も元気そうで……良かった」
「リルとリラです」
「あ、そうか」
アウレリウスは声を立てて笑った。
玄関ホールに戻ると、二人はベンチに腰掛けて休憩する。
並んで、ステンドグラスを見上げた。
「いつも見ていたはずなのに……
このステンドグラス、とても綺麗だね」
「……はい」
下ろしたままのアウレリウスの金の髪に、ステンドグラスの光の層が静かに落ちている。
「大きな怪我をしたときや、病気で臥せった後は、
いつも思うんだ」
柔らかな声が、空間に溶けるように広がる。
セティは、その横顔を黙って見つめていた。
「世界は、綺麗だなって。
……いつも、そう思う」
「……嬉しくないんですか?」
アウレリウスは驚いて、セティを振り返る。
「……今のアウル、悲しそうでした」
銀にも見える灰色の瞳を見て、アウレリウスはわずかに眉を寄せる。
一度視線を落とし、それから、いつものように優しく笑った。
「……嬉しくないわけ、ないよ」
「……はい」
アウレリウスは、そっとセティの手を取る。
「……セティ、ごめんね」
「アウルは、“ごめんね”って言いすぎです」
セティはその手を、少しだけ強く握り返し、またステンドグラスを見上げた。
「僕が怪我したときは、アウルが面倒見るんですよ」
アウレリウスは笑いながら、セティの横顔を見つめる。
「当たり前だよ」
「だから、言いっこなしです」
「……そっか。でも……ありがとう」
「……はい」
柔らかな光。
グレイブハル城のどこかで、ぱちりと小さな音がした。




