7-6 目覚めた後で
セティが目を覚ますと、部屋はすでに柔らかな陽の光で満ちていた。
腰に重みを感じ、視線を落とすと、アウレリウスの腕が乗っている。思わず、ぎょっとする。
――ああ、そうか。昨日は、抱きかかえられたまま眠ってしまったんだった。
セティはその腕からそっと抜け出し、朝の支度を始めた。
顔を洗い、着替える。
いつものシャツに、いつものズボン。動きやすい編み上げ式のブーツ。
クローゼットを覗いて少しだけ迷い、結局、いつものテーラードジャケットを羽織った。
髪も自分でまとめる。
しばらくは続けることになりそうだ。
支度を終えると、もう一度ベッドへ戻り、脇に立つ。
そっと彼の前髪をかき分けると、アウレリウスはあどけない顔で眠っていた。
一昨日の晩は、呼吸が浅く、時折、息を止めているような気配があった。
痛みを声に出して逃がせばいいのに、セティが近くで眠っているから、それさえ我慢していたのだろう。
――昨晩は、苦しまずに眠れたのなら、良かった。
セティは静かに寝顔を見つめたあと、部屋を出た。
目を覚ましたアウレリウスは、腕の中が空になっていることに気づき、ひどく心細くなった。
慎重に起き上がる。
こういう時、身体に絡まる長い髪がやけに鬱陶しい。払いのけて、足を見る。
初日ほどの痛みは、もうない。
部屋を見回す。
「……セティ?」
呼んだ声は、答えもなく、静かな空間に落ちた。
窓を見ると、日はすでに高い。
起きるのが、いつもより遅かったのかもしれない。
ベッド脇の松葉杖を掴み、立ち上がる。
さすがに折った足に体重はかけられない。
普通の人なら二ヶ月ほどの怪我だろう。アウレリウスでも、あと数日は普通には歩けそうにない。
壁際の机の上に、洗面用の水が用意されていた。
椅子に腰を下ろし、それを使う。顔を拭き終え、細く息を吐いた。
扉の向こうから、気配が近づいてくる。
グレイブハル城は、絨毯のない場所でも足音がしない。
それでも、空気の揺れで、誰が来るのかはなんとなく分かる。
特に、セティの気配は。
扉が開いた。
「あ……起きていましたか」
盆を持ったセティが、部屋に入ってくる。
「セティ、おはよう」
「おはようございます、アウル」
盆の上には、カップとパンが二つずつ並んでいた。
その視線に気づき、セティが少し気まずそうに俯く。
「……一緒に食べたくて」
ぽつりとこぼれた言葉に、アウレリウスは思わず笑った。
「ごめんね。ありがとう。
セティ、一緒に食べよう」
――一緒に食事ができないことを、セティも寂しく思ってくれていた。
セティは小さく頷き、盆をローテーブルに置いた。
「移動できますか?
……そちらの方が、楽ですか?」
机と椅子に一瞬だけ視線を向け、アウレリウスは首を振る。
「そっちに行くよ」
松葉杖を使ってソファへ移動すると、セティも隣に腰を下ろした。
アウレリウスは腕を伸ばし、自然に彼を抱き寄せる。
「……昨日、僕は、わがまま言っちゃったかもしれない」
セティがちらりとこちらを見る。
「アウルは、わがままなんて言っていません」
「……そうかな」
「はい」
「……そっか」
アウレリウスはくすりと笑い、
セティもまた、ほんの少しだけ瞳を柔らげた。




