7-5 心細い夜
夜。
いつもならソファで並んで過ごす時間だが、今日はアウレリウスはベッドの上で、枕を背に身を起こし、新聞を読んでいた。セティが王都で買ってきたものだ。
一方セティは、自分のベッドの縁に腰掛け、本を開いている。
サイドテーブルの燭台が淡く揺れ、そのそばには雑誌と新聞が静かに積まれていた。
「セティ」
「はい」
「……遠い」
顔を上げると、アウレリウスは眉を下げ、自分の隣を指さしていた。
「……脚、痛いんですよね? 僕がそっちに行ったら、体勢が崩れて余計に痛くなりませんか」
その言葉を聞く前に、アウレリウスはベッドから降りようとする。
セティは慌てて立ち上がり、それを止めた。
「……アウル」
「僕は今日、まだ一度もセティを抱きしめていない」
セティは一瞬、言葉を失った。
――いつも以上に、甘えている。
小さく息を吐き、セティはアウレリウスを抱きしめる。背中を、一定のリズムでトントンと叩いた。
「いくらアウルでも、数日はかなり痛いはずです。大人しくしていてください」
「僕はおとな――」
「大人しくないです。病院みたいに、ちゃんと足を吊りますか?」
「いやだ。あんなことしたら動けな――」
「動かなくていいんです」
セティが離れると、アウレリウスはしょんぼりしたまま枕に背を預け、投げ出した足を見つめた。
少し迷ってから、セティは彼の近くに腰を下ろす。
アウレリウスはすぐに笑って、セティの背に体重を預けた。
「セティ」
「はい」
「大好き」
「……僕も、アウルが好きです」
「セティはとても美しいよ。瞳も、髪も、心も。全部」
「アウルも……です」
「僕、セティに甘えたいんだけど。嫌じゃない?」
「……嫌じゃありません」
アウレリウスは、ほっとしたように小さく笑った。
「セティがいないお城は、とても静かだった」
「……そうですか」
普段は言葉を交わさず、それぞれ本を読んでいたり、別々に過ごしていることのほうが多い。
それでも、いないとやはり寂しい。
城は静まり返り、紙をめくる音だけが二人の間に落ちていく。
やがて、アウレリウスが小さくあくびを噛み殺した。
「……寝よっか」
「……そうですね」
新聞を置き、慎重に体を横たえる。
セティは蝋燭を吹き消し、自分のベッドへ戻った。
月明かりと、衣擦れの音だけ。
――その静けさの中。
「……セティ。寝た?」
囁くような声。
「……まだ、起きてます」
「こっち、来ない?」
「……」
「心細い」
セティはため息をつき、起き上がる。
アウレリウスのベッドに移動し、背を向けて横になる。
アウレリウスは「いたた……」と小さく言いながら体を寄せ、無理やり腕を回して抱きしめた。
「あったかい」
身体が思うように動かないと、不安になる。
大切な人が苦しんでいると、それだけで胸が痛む。
温もりに包まれて、
二人はそのまま、静かに眠りに落ちていった。




