表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
グレイブハル城の観測者  作者: かも ねぎ
正編 第七章『水のような日々』
59/62

7-5 心細い夜


 夜。


 いつもならソファで並んで過ごす時間だが、今日はアウレリウスはベッドの上で、枕を背に身を起こし、新聞を読んでいた。セティが王都で買ってきたものだ。

 一方セティは、自分のベッドの縁に腰掛け、本を開いている。


 サイドテーブルの燭台が淡く揺れ、そのそばには雑誌と新聞が静かに積まれていた。


「セティ」

「はい」

「……遠い」


 顔を上げると、アウレリウスは眉を下げ、自分の隣を指さしていた。


「……脚、痛いんですよね? 僕がそっちに行ったら、体勢が崩れて余計に痛くなりませんか」


 その言葉を聞く前に、アウレリウスはベッドから降りようとする。

 セティは慌てて立ち上がり、それを止めた。


「……アウル」

「僕は今日、まだ一度もセティを抱きしめていない」


 セティは一瞬、言葉を失った。


 ――いつも以上に、甘えている。


 小さく息を吐き、セティはアウレリウスを抱きしめる。背中を、一定のリズムでトントンと叩いた。


「いくらアウルでも、数日はかなり痛いはずです。大人しくしていてください」

「僕はおとな――」

「大人しくないです。病院みたいに、ちゃんと足を吊りますか?」

「いやだ。あんなことしたら動けな――」

「動かなくていいんです」


 セティが離れると、アウレリウスはしょんぼりしたまま枕に背を預け、投げ出した足を見つめた。


 少し迷ってから、セティは彼の近くに腰を下ろす。

 アウレリウスはすぐに笑って、セティの背に体重を預けた。


「セティ」

「はい」

「大好き」

「……僕も、アウルが好きです」

「セティはとても美しいよ。瞳も、髪も、心も。全部」

「アウルも……です」

「僕、セティに甘えたいんだけど。嫌じゃない?」

「……嫌じゃありません」


 アウレリウスは、ほっとしたように小さく笑った。


「セティがいないお城は、とても静かだった」

「……そうですか」


 普段は言葉を交わさず、それぞれ本を読んでいたり、別々に過ごしていることのほうが多い。

 それでも、いないとやはり寂しい。


 城は静まり返り、紙をめくる音だけが二人の間に落ちていく。


 やがて、アウレリウスが小さくあくびを噛み殺した。


「……寝よっか」

「……そうですね」


 新聞を置き、慎重に体を横たえる。

 セティは蝋燭を吹き消し、自分のベッドへ戻った。


 月明かりと、衣擦れの音だけ。


 ――その静けさの中。


「……セティ。寝た?」


 囁くような声。


「……まだ、起きてます」

「こっち、来ない?」

「……」

「心細い」


 セティはため息をつき、起き上がる。

 アウレリウスのベッドに移動し、背を向けて横になる。


 アウレリウスは「いたた……」と小さく言いながら体を寄せ、無理やり腕を回して抱きしめた。


「あったかい」


 身体が思うように動かないと、不安になる。

 大切な人が苦しんでいると、それだけで胸が痛む。


 温もりに包まれて、

 二人はそのまま、静かに眠りに落ちていった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ