7-3 同じ道を、一人で
翌日、セティは一人で王都に買い出しに来た。
いつものように、王都の北側から入り、いつもの橋を渡り、中央区の馬車預かり場へ向かう。
そこからは、アウレリウスと歩くときと同じ道を、西へ。
王立裁定院の黒鉄の門の前を通り過ぎ、立ち並ぶ大きな建物を、なんとなく眺めながら歩く。
そして、そのまま王立自然公園へ足を向けた。
いつも、アウレリウスと歩く石畳。
霧に包まれてぼんやりと霞む噴水。
すれ違う恋人たち。
花壇に並ぶ、色とりどりの花。
遠くから、汽笛の音が聞こえてくる。
セティが一人で王都へ来ることは、珍しくない。
アウレリウスは買い出しのついでに散策はするが、わざわざ“遊び”に王都へ行きたがることはない。
自由に使えるお金も、セティは持たされている。
本を探したいとき。
少し気分を変えたいとき。
それから――アウレリウスの境界を守るために。
セティは何度も、一人でこの街を歩いてきた。
――それでも、今日はなんとなく心細い。
アウレリウスの体調が悪いからだろうか。
空いているベンチを見つけ、腰を下ろす。
そっと、自分の黒髪に触れた。
今日は、自分で結んだ。
いつもはアウレリウスが結んでくれるから、曲がっていないか、緩んでいないか、少しだけ不安になる。
アウレリウスは、今日も結んでくれると言っていた。
けれど、昨夜――一晩中、痛みに耐えていたことを、セティは知っている。
少しでも、休ませてあげたかった。
セティがそばにいると、アウレリウスは平気なふりをする。
だから今日は、不便かもしれないけれど、あえて一人にした。
セティは、静かにため息をついた。
ふと、噴水の向こうに人影が見える。
法務官のエドガー・レイブンズだった。
相変わらず凛とした空気をまとい、ただ歩くだけで、どこか洗練されている。
群青の瞳は鳩を追い、ほんの一瞬、楽しそうに口角が上がった。
――彼くらいの人でも、鳩を見て楽しいと思うんだな。
――アウルがいたら、きっとすごく喜んだだろうに。
アウレリウスが、今も一人で痛みに耐えているかもしれないと思うと、王都の散策は、やはり楽しくはならなかった。
セティはベンチを離れ、市場へ向かう。
アウレリウスは、きっと動けなくて暇だろう。
そう思って、新聞を何社分も買った。
雑誌も、読むかどうかは分からないが、いくつか手に取る。
雑誌に探偵小説を載せている割に、彼自身はあまり読まない。
アウレリウスが普段読んでいる専門書とは、文体も違うだろうに。
それでも、どこでそんな話を覚えたのか――セティは、時々不思議に思う。
食料品店にも立ち寄った。
――食事はいらないとは言っていたけれど。
確かに、食べなくても問題はない。
それでも、味覚はある。
気晴らしには、なるはずだ。
茶葉と、いくつかの食材を選ぶ。
何でも美味しいと言うから、長く一緒にいても、アウレリウスの好物はよく分からない。
セティが思っている以上に、彼は「食」にこだわりがないのかもしれなかった。
馬車預かり場に戻り、一人で御者台に座る。
まだ明るい時間で、ランプは用意しなくてもよさそうだった。
城へ戻る道すがら、考える。
――アウルは、大人しくしているだろうか。
――多分、無理をして動き回っている。
普段は書斎や受付室の小窓の前から、ほとんど動かないくせに。
体調が悪いときほど、なぜか動く。
変な人だ。
そういうところが可笑しくて、
そして――セティは、そんなところも含めて、アウレリウスがとても好きだった。




