6-4 用意されていない場所
いつものセント・ブリッジ区。
貴族と官僚ばかりのきれいな街。
ここでは、アウレリウスたちに目を留めるも、じろじろ見たり、話しかけてくる人はいない。
アウレリウスたちは、今日は裁定院の脇を抜けて、財務院、軍務省監査局、外部調査局や治安監察局本部などが立ち並ぶこの区画を歩いていた。
白い石畳を踏むたび、音が均一に返る。
それぞれの建物は大きく、美しく、個人のためではなく行政のために存在していた。
その最南にあるのは、
――アルストリア王国ヴァレンタイン王家が住まう王宮。
黒鉄の背の高い柵が長く並び、視線を上げるたび、王家の領域が続いていることを思い知らされる。中央入り口には白石の巨大な門。赤い制服の門兵が立っていた。
王家の紋章である銀の星と深紅の薔薇が大きく刻まれ、門の上には精密な装飾のされたガスランプが設置されている。
その奥には広い前庭、そして白亜の宮殿。横に長く、奥には大庭園。
アウレリウスたちは並んでその柵ぞいに歩いていく。
王宮の敷地が途切れると、少しだけ生活の匂いがしてきた。
官僚街の西原。
官僚や中流階級のための下宿や邸宅などが静かに立ち並ぶブラクストン街などがここにはある。
道が広くて白いセント・ブリッジ区と、道がうねって灰色の石畳のハートウェル区のちょうど境のような場所だ。
「エドガーさんのおうちも、この辺にあったりして」
「……どうでしょうか」
アウレリウスが小さく笑うと、セティも少しだけ口角を上げた。
さらに彼らは北上してハートウェル区に入る。ここは学院街。
庶民街とは少し異なる喧騒がある街だ。
大学があり、本屋が並び、道端で討論を始める人たちもいる。
貴族的な人も庶民的な人も混じり合って、ここには確かに、人が存在していた。
さらに西へ。
西区。中流階級の住宅や店が並び、西へ行くほど高級店へとなっていく。
黒や、重厚な石造りの建物は看板も控えめ。ここで働く使用人たちは、服装も立ち振る舞いも洗練されていた。決して声を張り上げることもなく、人を見過ぎることもない。
客層もまた、上品な人たちばかりだ。
アウレリウス達が服を仕立てたり、服飾品を買っているのは、いつもこのあたり。
通りを馬車が行き交う。
停まった一台から侍女と貴族女性らしき人が降りてきて、そのまま店へと入っていった。
「服は……まだ大丈夫かな」
「はい」
「服仕立てるのって疲れるんだよね」
女性が入っていったのは、宝飾品店。
ショーケースにはいくつもの宝石が並べられている。
「特にアウルはあれこれ勧められるので、大変そうです」
「……みんな親切なんだよね」
「親切……。
アウルを飾り立てたくなる気持ちは分かります」
アウレリウスはセティの黒髪を見る。肩までの髪は、今日も細い深緑のリボンで、首の後ろで一つに縛っているだけだ。
「そう?
僕は自分より、セティを飾り立てたいけど。
もっと髪飾りとか――」
「嫌です」
「……そっか」
視線はさらに西へ。
丘の上には、高位貴族の広大な敷地の邸宅が並んで見える。
アウレリウスたちは貴族ではない。
だけど、見た目は貴族的だ。
庶民街では目立ちすぎる。だが、本当の貴族の街も、彼らの居場所ではない。
きらびやかな西区の街並み。
アウレリウス達は踵を返す。
「……王立自然公園に行かない?」
「そうですね」
――自分の居場所って、皆どうやって見つけているんだろう。
――人と少し違う僕たちの居場所は、この街のどこにも、最初から用意されていないのかもしれない。




