5-5 力の使い方
水が跳ね、噴水の上に小さな虹がかかっている。
その周りを、鳩がのんびりと歩いていた。
ここの水の匂いは、グレイブハル城の湖より、少しだけ苦い。
薄い霧に遮られた淡い光が、満遍なく、公園にいる人々を照らしていた。
静かに連れ添う恋人たちも、走り回る子どもたちも、お喋りに夢中な夫人たちも。
全てを包み込んでいる。
アウレリウスとセティは、噴水の近くに並んで立ち、水が弾く光の輪をぼんやり眺めていた。
絶え間ない水の音が、二人の間に落ちていく。
アウレリウスが、ふと、振り返った。
霧の向こうに、尖塔が見える。
エドガーのいる王立裁定院。
「法務官ていう肩書は、とても社会的地位が高いんだ」
セティがアウレリウスを見上げ、その視線を追った。
「その肩書だけで、たいていの貴族と対等に並べるくらいには……」
子どもたちの笑い声が聞こえる。
アウレリウスはその声の方をちらと見ると、セティに柔らかく微笑んだ。
「彼には、それに見合う風格があるよね」
アウレリウスは木目の美しい茶の杖を持ち直すと、ゆっくりと歩きはじめ、セティも歩調を合わせて石畳を踏む。
「立っているだけで、静かな威厳があって、品性も知性もあるのが分かる。
彼はその肩書に見合う人間なんだと思う」
「はい」
「だけど、偉ぶらない。
彼は街の人たちみんなに、親切なんだ」
アウレリウスがベンチに腰掛けると、セティも並んで座った。
前を向くと、人の手で丁寧に整えられた花壇。
季節の花々が色ごとに整然と並べられ、美しく咲いている。
「……彼の場合ね。
親切だけど、距離があるんだ」
杖を立てかけるように置くと、アウレリウスは、ベンチの上に手のひらを投げ出すように置いた。
セティは少し悩んで、そこに、そっと自分の手を重ねる。
アウレリウスは、指を絡めてキュッと握った。
「距離を壊さない……というのかな」
セティが視線を上げる。
緑がかった灰の瞳に、落ち着いた黒髪。
風を受けて長めの前髪が揺れ、少しだけその理知的な瞳を隠してしまう。
「偉いのに、それだけの力があるのに、彼は支配しない」
――彼は力の使い方を知っている人だ。
「それが……とても格好いいって、僕は感じるんだ」
――彼は間違わずに、力を使える。
――僕とは違う。
「アウル」
「うん」
「確かに、カッコいい人ですね」
アウレリウスはにっこり笑った。
「そうでしょ?」
柔らかく風が吹いた。
二人の頬を優しく、撫でていく。
「買い出しもして帰らなきゃ」
「何を買いますか?」
「野菜と……小麦粉かな」
「日持ちするパンも買いますか?」
「そうだね」
アウレリウスは少しだけ手を引き寄せ、セティの手を、自分の膝の上に置いて両手で包んだ。
――僕は、セティだけは、離さないんだ。
世界に、二人だけの存在。
世界に、なんと言われようとも、
僕は、セティだけは守りたい。
彼のように、僕はなれなくとも。




