表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
グレイブハル城の観測者  作者: かも ねぎ
正編 第五章『静かな憧憬』
43/62

5-5 力の使い方


 水が跳ね、噴水の上に小さな虹がかかっている。

 その周りを、鳩がのんびりと歩いていた。


 ここの水の匂いは、グレイブハル城の湖より、少しだけ苦い。


 薄い霧に遮られた淡い光が、満遍なく、公園にいる人々を照らしていた。

 静かに連れ添う恋人たちも、走り回る子どもたちも、お喋りに夢中な夫人たちも。

 全てを包み込んでいる。


 アウレリウスとセティは、噴水の近くに並んで立ち、水が弾く光の輪をぼんやり眺めていた。


 絶え間ない水の音が、二人の間に落ちていく。


 アウレリウスが、ふと、振り返った。


 霧の向こうに、尖塔が見える。

 エドガーのいる王立裁定院。


「法務官ていう肩書は、とても社会的地位が高いんだ」


 セティがアウレリウスを見上げ、その視線を追った。


「その肩書だけで、たいていの貴族と対等に並べるくらいには……」


 子どもたちの笑い声が聞こえる。

 アウレリウスはその声の方をちらと見ると、セティに柔らかく微笑んだ。

 

「彼には、それに見合う風格があるよね」


 アウレリウスは木目の美しい茶の杖を持ち直すと、ゆっくりと歩きはじめ、セティも歩調を合わせて石畳を踏む。


「立っているだけで、静かな威厳があって、品性も知性もあるのが分かる。

 彼はその肩書に見合う人間なんだと思う」


「はい」


「だけど、偉ぶらない。

 彼は街の人たちみんなに、親切なんだ」


 アウレリウスがベンチに腰掛けると、セティも並んで座った。

 前を向くと、人の手で丁寧に整えられた花壇。

 季節の花々が色ごとに整然と並べられ、美しく咲いている。


「……彼の場合ね。

 親切だけど、距離があるんだ」


 杖を立てかけるように置くと、アウレリウスは、ベンチの上に手のひらを投げ出すように置いた。

 セティは少し悩んで、そこに、そっと自分の手を重ねる。

 アウレリウスは、指を絡めてキュッと握った。


「距離を壊さない……というのかな」


 セティが視線を上げる。

 緑がかった灰の瞳に、落ち着いた黒髪。

 風を受けて長めの前髪が揺れ、少しだけその理知的な瞳を隠してしまう。


「偉いのに、それだけの力があるのに、彼は支配しない」


 ――彼は力の使い方を知っている人だ。


「それが……とても格好いいって、僕は感じるんだ」


 ――彼は間違わずに、力を使える。


 ――僕とは違う。


「アウル」

「うん」

「確かに、カッコいい人ですね」


 アウレリウスはにっこり笑った。


「そうでしょ?」


 柔らかく風が吹いた。

 二人の頬を優しく、撫でていく。


「買い出しもして帰らなきゃ」

「何を買いますか?」

「野菜と……小麦粉かな」

「日持ちするパンも買いますか?」

「そうだね」


 アウレリウスは少しだけ手を引き寄せ、セティの手を、自分の膝の上に置いて両手で包んだ。


 ――僕は、セティだけは、離さないんだ。

 

 世界に、二人だけの存在。

 世界に、なんと言われようとも、

 僕は、セティだけは守りたい。


 彼のように、僕はなれなくとも。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ