4-7 静かな排斥
ある日の新聞見出し。
『某侯爵家次男、私的な“若者の館”を所有か』
『若い男性を囲いこむ――道徳観に疑問の声』
『社交界に広がる不穏な噂 「彼の邸宅では何が行われているのか」』
―――
「ジュリアン! お前! 一体、何をした!」
怒鳴り声とともに部屋の扉が開け放たれた。
父親の姿に、ジュリアンは眉をひそめて顔を上げる。彼はまだベッドの上だった。
髪を無造作にかきあげ、体を起こす。
「……父上。
朝から、どうしたんですか。そんな大きな声で」
あくびを隠しもしない。
「見ろ!」
父親は新聞を投げつけるように差し出した。
ジュリアンはしぶしぶ受け取り、一面に目を落とす。
「え……?」
「こっちもだ!」
荒々しくカーテンが開け放たれる。
窓の向こう。
広大な庭園のさらに先、侯爵家の門前に、人だかりができていた。
「全部、記者だ。
お前、貴族として死ぬつもりか!?」
「……え……?」
門までは距離がある。それでも、怒声とざわめきは、はっきりと届いてきた。
「俺は……俺は、何も……」
ジュリアンは首を力なく振る。
――“若者の館”?
――“若い男性”?
意味が分からない。
「とにかく、お前は事態が落ち着くまで外へ出るな。いいな!」
返事を待たず、父親は足音を荒げて部屋を出ていった。
残されたジュリアンは、呆然と窓の外を見つめる。
胸に落ちた違和感とは裏腹に、空は雲ひとつなく、まっさらで美しかった。
それでも、ジュリアンは家を抜け出して夜会へ向かった。
美しく着飾り、女性を侍らせれば、大抵のことはどうでもよくなる。
いつも、そうだった。
高い天井。
きらめくシャンデリア。
楽団の華やかな音楽。
磨き抜かれた大理石の床を踏みしめる。
指にはめた大きな青い宝石が、光を弾いた。
青は、彼にとって美の象徴だ。
――今、最も欲しいもの。
だが、その日。
会場に足を踏み入れても、ジュリアンに近づく女性はいなかった。
潮が引くように、人が距離を取る。
――あの記事を、信じているのか。
――馬鹿みたいだ。
苛立ちを隠すように、彼は談話室へ向かった。
まだ早い時間。
一人でワインを口に含む。
――苦い。
――まずい。
やがて、廊下から笑い声が聞こえてきた。
扉が開く。
いつもの仲間たち。
「よう」
ジュリアンが声をかけた瞬間、彼らは揃って肩を震わせた。
そして、彼から距離を取るように、まとまって腰を下ろす。
「おい、こっち来いよ」
いつも隣にいた女が、はっきりと彼を睨んだ。
「いや。
一緒にいたって、知られたくないもの」
「今日は、部屋を変えましょ」
「そうね」
口々に言って、女たちは立ち上がる。
ジュリアンの顔色が、さっと変わった。
男友達も席を立つ。
「悪いな。俺も移動する」
すれ違いざま、笑いながら肩を叩かれる。
「俺を、そういう目で見るなよ」
冗談めいた声。
去っていく背中。
ジュリアンは、何も言えず、ただ立ち尽くしていた。




