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グレイブハル城の観測者  作者: かも ねぎ
正編 第四章『触れてはならないもの』
28/62

4-1 触れられぬ美


 アルストリア王国、王都オルドンのすぐ近く。

 湖のほとりに、古いグレイブハル城がある。


 静かで、美しくて、

 ――どこか不思議な城。


 ここには、美しい青年と少年が暮らしている。

 彼らは、錬金術が遺したホムンクルス。


 だが、それを知る者は、この世界には誰もいない。


―――


 アウレリウスは美しい。


 彼の顔の造形や、立ち姿を見て、整っていないと思う人間はまずいない。


 頬はしっとりと柔らかそうで、全体に柔和な雰囲気をまとっている。

 完璧な形のアーモンドアイに、シミ一つない白磁の肌。

 絹のような柔らかい淡い金の髪。


 それでいて、すらりと均整が取れた体躯。

 細身だが細すぎることはなく、その腕や鎖骨は筋張っていて、彼が男性であることをはっきりと教える。

 

 アウレリウスは、男性性と女性性、その両方を併せ持つ美貌を備えている。




 グレイブハル城の受付室。その小窓から見学者が顔をのぞかせ、アウレリウスを見ると、たいてい驚く。


 セティはその様子をいつも静かに眺めていた。


 セティも、整った顔をしている。

 アウレリウスよりも少しだけ垂れた大きな瞳。黙っていれば、アウレリウスよりもセティの方が優しげに見えるかもしれない。

 

 だが、アウレリウスはいつもにこやかに微笑んでいて、セティは無表情だ。


 アウレリウスは、とにかく人目を引いた。




 受付では、アウレリウスが銀貨を受け取っている。追加料金で案内もできると伝えたが、それは断られていた。


「じゃあ、楽しんでね。ばいばい」


 アウレリウスがそう言うと、見学者は城の中に入っていった。


 セティがなんとなく玄関ホールのベンチの埃を払っていると、先程の見学者がやってくる。


「おや、君もお城の子なのかい?」


 セティは手を止めて、見学者の夫婦を見ると、小さく頷く。


「……君も、城の案内はできる?」

「はい。追加料金を受付で払ってもらえれば」


「そうなのか。どうする」

「せっかくだし、案内してもらいましょうよ」


 男性は妻に頷いたあと、セティを見た。


「支払ってくる。お願いできるかい?」

「はい」


 セティははたきを目立たないところに隠すと、彼の妻としばらく待った。

 男性が早足で戻ってくる。


 セティが先導し、二人はゆったりとついて歩いた。


「いやぁ、助かったよ。

 案内をしてもらうつもりで来たけど、受付の青年が美人すぎて、驚いてしまった」


「それでつい断ってしまうんだもの。情けないわ、あなたったら」


「はははは。本当にそうだな」


 ――こういうことは、意外に少なくない。


 アウレリウスは、とにかく美しい。


 毎日一緒にいるセティだって、毎朝驚くくらいなのだから。


 アウレリウスだから案内してもらいたい人と、アウレリウスだから案内を断ってしまう人がいる。


 アウレリウスに案内をしてもらいたがる人も、彼とは普通は距離を置く。

 グレイブハル城のむき出しの調度品と同様に、“触れてはいけない”となんとなく分かるからだ。


 だけど時々、それが分からない人もいる。

 


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