3-9 『言葉にしないまま』最終話
小鳥のさえずりが空を渡る。
どこか青みを帯びた朝の光を浴びながら、アウレリウスが城の門を開けていると、馬車が向こうからやってくる。
アウレリウスは脇に寄ってそれを待った。
すれ違いざま、御者の男がアウレリウスにわずかに頭を下げる。
アウレリウスも彼に軽くお辞儀した。
馬車が停まる。
アウレリウスが客席を覗きこむと、マーサは片眉を上げた。
「マーサさん、おはよう」
「……おはよう」
相変わらず無愛想だ。
アウレリウスが手を差し出すと、マーサは手を振った。
「そういうのはいいんだよ。一人で降りれる」
「……そう?」
彼女はアウレリウスの手を無視して馬車を降りると、彼を置いてさっさと歩き出した。
いつも通りのマーサに、アウレリウスはふっと笑うと、御者に挨拶してから彼女の後を追った。
「今日も一日、よろしくね」
マーサは無言で頷く。
だが、足を止めた。視線は城壁の向こう。
「……この間のことは感謝しているよ。セーターも渡せたし、喜んでくれた。
今日も暖かいってのに、セーター着てたんだ。ワンピースでも繕ってやったほうが良かったよ」
アウレリウスは声を立てて笑った。
「良かったね! マーサさん」
彼女はアウレリウスの方を少しも見ずにまた歩き出した。
彼はその背を見送る。
マーサは、前よりも少しだけアウレリウスを見る目が優しくなった気がする。
向こうから来たセティがマーサに挨拶しているが、彼女はセティのこともそっけなくしていた。
マーサと彼らの間の会話は、相変わらず多くはない。
ほとんど、挨拶だけの関係だ。
だけど、それがアウレリウスとセティには、どこか心地良かった。
マーサが掃除してくれるグレイブハル城は、今日も空気が澄んでいる。
―――
アルストリア王国。
王都オルドンのすぐ近く、湖のほとりに、
歴史あるグレイブハル城がある。
静かで、美しくて、
――どこか不思議な城。
ここには、美しい青年と少年がいる。
錬金術が遺したホムンクルスである彼らは、
今日も、二人だけで、静かに暮らしている。
だけど、時々、誰かの手を借りて、その小さな温もりに触れている。




