確かめられる形で
次の日、私はドルン女史に、給水申請の写しを見せた。避難完了の翌日付で、封鎖区からの給水申請を却下したという記録がある。書いたのは、私の先祖。
「控えには人数が書いてありません」私は言った。「原本を実家から取り寄せて、確かめたいんです」
ドルン女史は写しをしばらく見た。
「原本を確かめるのは賛成よ」やがて彼女は言った。「ただ、あなた個人への荷物として取り寄せる前に、こちらで借用の記録を残したい。誰の持ち物を、どんな状態で受け取ったか」
「内容が正しいかどうかは、借りても変わりませんよね」
「変わらない。確かになるのは、来歴だけ。でも、来歴の抜けている紙は、証拠として取り上げてもらえないの」
筋は通っていた。
「文書館から、正式に借り受けられますか」
「借用の手続きはできる。輸送の費用は――」ドルン女史はそこで止まった。「個人的な興味に、館の費用は使えません」
「個人的な興味ではありません」少し早口になった。「登用試験のとき、避難記録に不整合を見つけました。受け入れたはずの世帯が、その後の人頭記録に出てこない。試験官は『古い書き損じ』で片づけました」私は写しを指した。「これも、同じ記録の綻びです。避難は完了したことになっているのに、その翌日付で、封鎖区からの給水申請を却下した記録が、先祖の手元に残っている。原本には、申請の日付や、誰が決めたのかも書かれているかもしれません。避難完了の告示が、どこまで事実だったのか――その照合の材料になります」
ドルン女史は、しばらく私を見ていた。
「その線で、申請書を書きなさい」彼女は言った。「あなたの家の事情としてではなく、避難記録の照合の一部として。通るかどうかは、書き方次第よ」
その日の残りを、私は申請書に使った。
避難完了記録の整合性の確認。そのために必要な参照資料として、先祖の職務記録の原本一式を、所有者から借用する。私が控えと照合し、ドルン女史がその結果を検証する。担当者の欄に、二人の名前を書いた。
書きながら、気づいた。娘が父に「あの古い書類を送って」と手紙を書いても、父は引き出しにしまって忘れられる。文書館の封のついた借用依頼なら、無視はしにくい。私を止めていた手続きが、家に書類を出させる力になる。
添え状のほうが、やっかいだった。父は、私がまだ臨時勤務で、来月の更新も決まっていないことを知らない。知れば、返事は「それ見たことか、縁組の話を進めよう」で終わる。私は、勤め先が文書館であること、これは正式な借用依頼であること、それだけを短く書いた。うまくいっているとも、いっていないとも、書かなかった。
夕方、ドルン女史が申請に目を通し、署名した。
「通りました。依頼状は、明日の逓送で出ます」
石段の下に、アーベルがいた。私が今日どうするか、話してあった。
「借用の申請が通りました」私は言った。「依頼状は、明日出ます。あとは父の返事待ちです」
「では、届くまでのあいだに、水路の停止の記録を――」
「レント様」私はさえぎった。「お茶を飲んで帰りませんか」
「……まだ、調べることが?」
「あります。でも、お茶のあいだは、休みます」
彼は、調査の相談を持ちかけられたような顔をした。それから、その顔のまま、少し困った。
「わかりました」
石段の脇の茶屋で、私たちは窓際に座った。
「今日、申請書に『個人的な興味ではない』と三回書きました」私は言った。「三回書くと、だいたい個人的な興味です」
彼が笑った。声を出して、短く。愛想でも、口の端だけでもなかった。
それを見て、私は、もう一つ何か言ってみたくなった。仕事の話でなくてもよかった。何を言おうか少し迷って、迷っている時間も、悪くなかった。
「何もしないでいると、落ち着かないですか」
「……少し」
「でも、帰らないんですね」
「帰りません」彼は茶に口をつけ、まだ熱かったらしく、わずかに顔をしかめた。
私は、茶が冷めるくらいのあいだ、そこにいた。聞きたいことは、まだあった。けれど今日は、彼が次に何を話すのかを待ってみたかった。




