当て推量をしない男
彼は何か言いかけて、やめた。それから、言い方を変えた。
「記念祭の日、あなたのそばにいさせてください」
「この前の、祭りで混むから、という理由ですか」
「……違います。混雑の話ではありません」
「では、本当の理由を聞かせてください」
「あの日、あなたの命に関わることが起きると、私は考えています」
「何を根拠に」
彼は答えなかった。
私は少し待って、それから言った。
「記念祭は三月も先です。その日まで待たなければ本当かどうかわからない、というのでは、私は困ります。判断のしようがない」私は続けた。「もっと近いうちに、確かめられることはありませんか。あなたが知っていて、私があとで別の道から確かめられること」
彼はしばらく黙っていた。考えている黙り方だった。
「三日後、南倉から古い避難台帳の残りが、文書館へ移されます」やがて彼は言った。「そのうち『西外区・避難者名簿』の第二巻。途中から欄の形式が変わって、数枚先の見出しが別の地区になっています。整理すればわかります」
私は紙を出して、日付と、彼の言ったことを書き写した。「南倉/避難台帳の残り/三日後着/『西外区・避難者名簿』第二巻、途中から欄の形式が変わり見出しが別地区」。あとで誰が読んでも照らせる書き方で。
「では、私がその話を聞いて何をするかも、ご存じですか」
「それは、あなたに聞かなければわかりません」
言葉としては、そう言った。
「わかりました」私は紙をたたんだ。「三日後にそれが本当なら、あなたの話を頭から捨てはしません。夢について一緒に調べることにも、賛成です。ただ、今この時点では、あなたの言う『命に関わる』を、私はまだ受け取っていません」
「それでいい」
「一つ当たったからといって、全部を信じるわけでもありません」
「それも、わかっています」
三日のあいだ、私は配給台帳の照合を続けた。最初の夜は、窓の向こうが暗くなるまで目を離せなかった。危ないと言われたのは今日ではない。それは、わかっていた。夢は、二又の路地と、板を叩く音。朝、目が覚めると、まだ指が拍子を打っていた。前より、長く。
アーベル・レントは、石段の下にいたり、いなかったりした。すれ違えば会釈をする。それ以上のことは、どちらもしなかった。
三日目の昼、南倉から荷車が着いた。避難台帳の残り、十数冊。ドルン女史は私に整理の下作業を割り振った。
「西外区・避難者名簿」の第二巻を開いた。途中から、欄の形式が変わっていた。数枚先の見出しには「北外区」とあった。
私は自分の紙を出して、三日前に書いた行と照らした。合っていた。
彼が未来を知っている証拠にはならない。この台帳を前にどこかで読んでいた、というだけかもしれない。私はそう思ったし、それはたぶん正しい。慎重な嘘つきでも、ここまではできる。
けれど、私の知らないことを、彼は知っていた。それは確かだった。
偶然です、と言って忘れることは、もうできなかった。
その日の終わり、私は石段の下で彼に言った。
「西外区の第二巻、見出しが変わっていました。あなたの言ったとおりです」
彼はうなずいた。得意そうでも、ほっとしたふうでもなかった。
「条件を決めます」私は言った。「一緒に調べます。あなたに今すぐ話せない理由があるなら、そこは保留にします。でも、私の身の安全に関わることは、伏せないでください。分けて教えてください」
彼は少し考えて、一つ、差し出すように言った。
「危険があるのは、夕方というより、日没です。記念祭の日の、日が沈むころ。私が確かめられたのは、そこだけです」
祭りの混雑なら、日が落ちてからのほうが人は多い。日没きっかり、という区切り方は、そこからは出てこない。私はその一行も書き留めた。
「明日は、私の控えを持ってきます」私は言った。「王都へ来る前に読んだもの、旅程、体の具合。全部並べます」
「俺も――」
「あなたが調べて、わかったことも持ってきてください。うまくいかなかったことも」
彼は少し黙ってから、うなずいた。
この数日、私はいろいろなものを「持ってきてください」と頼んでいた。どれが本当に机に載るかは、明日わかる。




