探しものが違う
翌日の終業後、私は目録棚の前で、写しの請求のしかたをもう一度さらっていた。棚の番号、請求票の書き方。覚えることは多いが、覚えれば確実に使える種類の知識で、私はそういうものが好きだ。
そこへ、アーベル・レントが来た。
「昨日の話ですが」と彼は言った。「原本でなくていいなら、頼めますか」
「何をお探しですか」
「静区の――封鎖された区画の、封鎖される前の街路です。どこがどこへつながっていたか」
私は少し待った。彼は続けなかった。何のために、とも、誰のために、とも言わない。
「騎士団のお仕事ですか」
「外周の引き継ぎで、古い形がわかると助かる」
嘘をついている顔ではなかった。全部は言っていない顔だった。それは、私にも覚えのある顔だ。だから、それ以上は訊かなかった。
公開目録から、私は三種類の写しを引いた。百年ほど前の旧市街図の転記。現在の王都街路図。それと、旧市街図と同じころの道路修繕簿。どれも普通紙の写しで、原本は棚から出さずに済んだ。
閲覧室の隅の台に、二人で図面を広げた。卓上の灯りを、隣の台からもうひとつ借りた。
旧市街図の地名は、今の街路図と食い違っていた。
「この『樋の小路』は、たぶん今の鍛冶屋通りです」私は修繕簿と照らした。「百年前は、水路の管理でひとつの区に入っていました。区の切り方が今と違うので、二枚の図で、同じ道が別の名前で出てきます」
「そこが、俺には解けなかった」彼は言った。「門の位置までは、前に一人で割り出している。この門は、古い図にも、今の図にも載っている。今も残っていて、大人が二人は並べないくらいの幅だ。だが、旧い地区名と水路の区分がどう対応するのか、そこから先へ進めなかった」
彼の指が、二枚の図の同じ門を、順に押さえた。
「そこから先――この道は、今は壁だ。突き当たりになっている」
旧市街図の古い名前、今の街路図の道、修繕簿の水路。門の位置をそろえて、旧市街図と今の街路図を透かすように重ねた。修繕簿はその脇に開いたまま、地名を一つずつ突き合わせていく。私が「ここの区の境が」と言いかけると、彼が「なら、この門は内側だ」と引き取る。古い道が今のどこに当たるのか、一枚では決められなかったものが、重ねるとようやく一本、浮かんだ。封鎖の壁の内側へ、細く入り込んでいる道だった。
彼が灯りをずらすと、私の手の影が図面から消えた。礼を言う前に、彼はもう門の位置を指していた。
仕事の速さの合う相手と作業をするのは、久しぶりだった。それだけのことが、少し楽しかった。
その道を指でたどっていて、私は手を止めた。
突き当たりの手前で、道が二つに分かれている。左は荷車が通れる幅、右は人ひとりぶん。分かれ目に、井戸の記号がひとつ。
その形を、私は知っていた。
ここ何日か、また同じ夢を見ていた。両側から壁の迫る路地。突き当たりの手前で、道は二つに割れる。片方は広く、片方は人ひとりぶん。分かれ目に、蓋をした井戸。誰かが、板を叩いている。二つずつ、あいだを置いて。目が覚めると、指がその数を数えている。
「私、この道を夢で見ました」
彼の指が、図面の上で止まった。
「……いつからですか」
「王都へ来る前からです」
祭りの夕方の話をしたときと、同じ声だった。あまりに早く、そして、抑えているのがわかる声。




