一晩に一つ
夢は、命じて見るものではない。だから、方法のほうを決めた。
一晩に、確かめることを一つだけ。就寝の前に、その一つを頭に置く。目が覚めたら、前の日の記録を見ないうちに、思い出せるだけ書く。書いた紙は、封筒に入れる。
終業後、ヨナスのところへ持っていき、二枚の封筒を、彼の前で同時に開ける。少なくとも、相手の答えを読んでから、自分の記録を合わせることはできない。
「私は、書き換えを防ぐための立会人ですか」ヨナスは言った。
「はい」私は言った。「夢の意味は、まだ訊きません」
「では、蜜を舐めながら見ています」
確かめる項目を、順に決めた。音はどちらから聞こえるか。二又の道の先に何があるか。自分は、壁のどちら側にいるか。
問いを持ち込めて夢が変わるのかは、わからない。もともと見ているものに、問いのぶんだけ気づくのかもしれない。それでも、訊き方を決めておかないと、朝には覚えていられなかった。
一晩目。項目は、音の方向。
私は宿で眠り、目が覚めて、書いた。前からのようにも、後ろからのようにも思えた。「両方から」と書いて、二重線で消した。結局、「音源の方向、不明」とだけ残して、封筒に入れた。
終業後、ヨナスの前で開けた。私の紙は、それだけ。アーベルの紙には、一行だけあった。
――眠らず。観察不能。
ヨナスは、何も言わずに、奥の寝台のほうへ行った。
「眠らなかったんですか」
「宿の前にいました」彼は言った。「何かあったときのために」
「一晩中」
「はい」
「何かがあったか調べるために、眠ると決めたはずです」私は言った。腹は、あまり立たなかった。ただ、これを流すと、方法そのものが崩れる。
「……はい」
「私を見張ることと、一緒に調べることは、別です」
彼は、しばらく黙っていた。それから、「わかりました」と言った。言葉だけなら、前にも聞いた。だから、次の夜を見ることにした。
その夜、私は宿で、項目を一つだけ頭に置いて、目を閉じた。二又の道の先に、何があるか。
街の反対側の詰所で、アーベルも、同じ一つを抱えて横になっているはずだった。別々の場所で、同じ問いを抱えて眠る。仕事の手順にしては、妙に私的な約束だった。
二晩目の終業後、ヨナスの前で、二枚を同時に開けた。
私の紙には、井戸のまわりのことが書いてあった。桶が積んである。器が伏せてある。手の気配が多い。人が、そこに集まっている。叩く音は、その集まりのほうから。
アーベルの紙には、井戸を背にして見た道のことが書いてあった。狭いほう――右の道は、途中から煉瓦で塞がれている。広いほう――左の道は、突き当たりが壁だ。どちらも、先がない。叩く音は、塞がれた側から。
「同じ井戸が、二枚にあります」ヨナスは言った。それだけだった。
私の夢にも、塞がれた道はあった。ただ、はっきりとは残っていない。アーベルの夢にも、井戸のまわりに人はいた。ただ、彼は数えていない。
同じ場所を見て、強く残るものが、二人で違う。
「読んだものの違いが、見えるものの違いになった可能性はあります」私は言った。「私は、命令書と、先祖の対応表を読みました。あなたは、命令書だけです」
「確かめる方法は」
「今はありません」私は、推測の欄に書いた。原本の違いと、夢の違いが、対応しているように見える。
三晩目。項目は、自分は壁のどちら側にいるか。
夢の中で、私は動けなかった。井戸のそばに立って、見えるものを見ているだけだった。それでも、二本の道は、はっきり見えた。どちらも、少し行った先で途切れている。片方は煉瓦で、もう片方は壁で。目が覚めてから、その位置関係を、思い出せるかぎり紙に書いた。
アーベルの紙には、水のことが書いてあった。水路の水が、第十一号送水口のほうから流れてきて、壁を越え、井戸へ向かっている。彼は、水が出ていくほうではなく、水が届くほうに立っていた。
二枚の記録を、旧市街図の上に置いた。第十一号送水口。二又の道。蓋をした井戸。三つとも、位置が合った。私の紙に書いた二つの行き止まりも、現在の封鎖線に重なった。
「第十一号送水口は、壁の外にあります」私は言った。「夢の中の水は、そこから井戸へ届いていた。図の上で、その井戸は内側です」
「私たちが、本当にあの中へ入っている、という意味ではありません」私は続けた。「夢が、内側に立つ者の位置から作られている。今、言えるのは、そこまでです」
「充分です」アーベルは言った。声が、少し掠れていた。
記念祭まで、あと四十五日。
調査控えに、書き足した。夢は、静区の内側の一点を、繰り返し組み立て直している。井戸のある、二又の場所。旧市街図と送水口の位置に合う。ただし、夢がそこを正確に写しているかは、中へ入れない以上、まだ推測。
私たちが、聖別の記録を調べる理由はできた。けれど、悪い夢を見たから見せてほしい、と中央神殿へ書くわけにはいかない。正式な請求には、誰でも確かめられる別の根拠がいる。命令書。給水記録。第十一号送水口。旧市街図。明日は、それを一つの申請理由に組み直す。
二晩ぶんの記録が、初めて、一つの結論になった。アーベルが、眠ったからだった。




