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死体番号041〜目が覚めたら、僕は番号で呼ばれる『検体』になっていた〜  作者: 鷹司 怜


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第八章 地下施設

 湾岸地区第七埠頭。


 海から吹く風は冷たく、

 雨と油の臭いが混ざっていた。


 公安の車が止まる。


 目の前には、巨大な廃倉庫。


 錆びた鉄骨。

 割れた窓。

 崩れかけた外壁。


 だが。


 俺は知っていた。


 ここを。


「……来たことある」


 無意識に口から漏れる。


 橘が横目で見る。


「思い出したか」


「少しだけ」


 頭痛。


 だが今までと違う。


 記憶が“繋がり始めていた”。


 俺はここで死んだ。


 一度じゃない。


 何度も。


 倉庫周囲には公安が配置されている。


 黒い防弾ベスト。

 ライフル。

 緊張した空気。


 だが妙だった。


 誰も突入しない。


「なんで入らない」


 橘は倉庫を睨んだまま答える。


「中に電磁遮断装置がある」


「……?」


「通信不能。

 監視不能。

 遠隔爆破も可能」


 嫌な予感しかしない。


「カナメは待ってる」


 橘は低く言う。


「お前が来るのを」


 その瞬間。


 倉庫の巨大シャッターが、

 ひとりでに開き始めた。


 ギギギギギ——。


 暗闇。


 奥が見えない。


 だが。


 中から声が響いた。


『ようこそ、レン』


 カナメ。


 スピーカー越しの声。


『八回目の生存、おめでとう』


 公安たちがざわつく。


 俺は拳を握る。


「……出てこい」


『焦るな』


 カナメは笑っていた。


『まずは思い出せ。

 お前が何をしたのか』


 次の瞬間。


 倉庫内部のモニターが一斉に点灯した。


 無数の画面。


 そこに映っていたのは——


 俺だった。


 血まみれの俺。


 女を殴る俺。


 首を絞める俺。


 笑う俺。


「……っ」


 公安たちの空気が変わる。


 疑念。


 恐怖。


 本当に殺人犯なのか。


 その視線が刺さる。


「違う!」


 俺は叫ぶ。


「これは作られた記憶だ!」


 だが。


 映像の中の俺は、

 あまりにも自然だった。


 快楽に酔っている顔。


 人を壊すことを楽しんでいる目。


 橘でさえ黙っている。


『人は映像を信じる』


 カナメの声。


『だから人間は簡単なんだ』


 モニターが切り替わる。


 今度は、

 白い実験室。


 ベッドに拘束された俺。


 絶叫している。


 電流。


 薬剤投与。


 頭部へ装着された機械。


『人格分離実験 CASE041』


 空気が凍る。


 公安の一人が呟く。


「本当にやってたのか……」


 カナメは愉快そうだった。


『レンは特別だった』


 映像の中で、

 俺の脳波が異常な数値を叩き出す。


『通常、人間は人格分離に耐えられない』


 次々と映る死体。


 CASE002。


 CASE011。


 CASE027。


 全員、

 脳が崩壊して死んでいた。


『だがレンは違った』


 モニターに映る、

 二人の俺。


 一人は泣いている。


 一人は笑っている。


『善性と悪性の分離に成功した』


 寒気。


 橘が低く呟く。


「狂ってる……」


『だが問題があった』


 カナメの声が少しだけ変わる。


『悪性側の成長速度が異常だった』


 その瞬間。


 俺の耳元で、

 “もう一人の俺”が笑った。


『聞いてるか?』


「っ!!」


 横を見る。


 誰もいない。


 だが確かにいる。


 頭の中に。


『お前、気づいてないだろ』


 冷たい声。


『今、身体を動かしてるの、どっちだ?』


 心臓が止まりそうになる。


 俺は自分の手を見る。


 震えている。


 だが。


 笑いそうになる。


 人を殴りたい。


 壊したい。


 そんな衝動が、

 確実に強くなっていた。


「違う……」


『違わない』


 声が近い。


『お前、最初から俺だったんだよ』


「黙れ!!」


 叫ぶ。


 公安たちが一斉に銃を向けた。


 橘が鋭く言う。


「レン!」


 まずい。


 呼吸が乱れる。


 視界の端が赤い。


『楽になれよ』


 耳元で囁く声。


『ユキも死んだ。

 お前はもう壊れてる』


「……死んでない」


 気づけば呟いていた。


 俺は顔を上げる。


「ユキは死んでない」


 根拠なんてない。


 でも分かる。


 まだ終わってない。


 その瞬間。


 倉庫奥から、拍手が響いた。


 カナメが姿を現す。


 黒いコート。


 薄い笑み。


「素晴らしい」


 ゆっくり歩いてくる。


「その不安定さが最高だ」


 公安が銃を向ける。


 だがカナメは気にも留めない。


「レン。

 お前は今、境界線にいる」


「……」


「人間として残るか。

 化け物として完成するか」


 カナメは両手を広げる。


「九回目は、その選別だ」


 次の瞬間。


 倉庫全体が激しく揺れた。


 警報。


 赤いランプ。


『自爆シークエンス起動』


 機械音声。


 公安たちがざわめく。


「爆弾だ!!」


 カナメは笑う。


「実験場には、終わり方が必要だろ?」


 橘が怒鳴る。


「解除コードは!?」


「あるよ」


 カナメは俺を見る。


「レンの頭の中に」

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