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死体番号041〜目が覚めたら、僕は番号で呼ばれる『検体』になっていた〜  作者: 鷹司 怜


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第七章 九回目の条件

 公安の黒い車は、雨の高速道路を滑るように走っていた。


 後部座席。


 俺の両手には手錠。


 逃亡犯扱いだ。


 だが橘誠司は、一度も俺を犯罪者として見なかった。


 バックミラー越しに、何度も俺を確認している。


 まるで。


 壊れ物でも扱うみたいに。


「……ユキは」


 やっと声が出た。


 橘は少し黙ってから答える。


「搬送された」


「生きてるのか」


「分からん」


 その曖昧さが逆に怖かった。


 俺は窓へ額を押し当てる。


 雨粒が流れていく。


 頭の中は、まだ混乱していた。


 俺は誰だ。


 連続殺人犯なのか。

 実験体なのか。

 コピー人格なのか。


 それとも全部か。


「橘」


「なんだ」


「九回目って何だ」


 ワイパーの音だけが響く。


 橘は煙草を咥えたが、火は点けなかった。


「……お前は、何回死んだ?」


「八回」


「違う」


 低い声。


「“確認されてるだけで”八回だ」


 寒気。


「どういう意味だ」


「お前の記録には欠損がある」


 橘は続ける。


「存在しない期間があるんだよ」


 脳裏に、あの“もう一人の俺”が浮かぶ。


 壊れたほう。


 悪性。


「人格分離は本当なのか」


 橘の目が細くなる。


「そこまで思い出したか」


「答えろ」


「……半分本当だ」


 また曖昧だ。


 苛立つ。


「カナメは、人格複製実験をしていた」


 高速道路の照明が、車内を断続的に照らす。


「だが成功例は、お前だけだ」


「成功……?」


「普通は脳が崩壊する」


 橘はハンドルを強く握った。


「人格情報を複製すると、人間は自我を維持できない」


「でも俺は生きてる」


「だから異常なんだよ」


 沈黙。


 橘が小さく呟く。


「お前、本当に化け物になりかけてる」


 胸がざわつく。


「……九回目は何なんだ」


 橘は答えない。


 代わりに車をトンネルへ入れた。


 暗闇。


 その瞬間。


 バックミラーに、“俺”が映った。


 黒パーカー。


 後部座席の隣。


 笑っている。


「っ!!」


 俺は振り返る。


 誰もいない。


「どうした」


 橘の声。


「今……」


 幻覚。


 いや。


 本当にいた。


 耳元で声がした。


『九回目は融合だ』


 全身が凍る。


「……っ」


『お前と俺が、一つになる』


 心臓が暴れる。


 俺は窓へ映る自分を見る。


 一瞬だけ。


 そこに映った俺は、

 笑っていた。


 俺じゃない笑い方で。


「止めろ!!」


 思わず叫ぶ。


 橘が急ブレーキを踏んだ。


 タイヤが悲鳴を上げる。


「レン!?」


 俺は息を荒げる。


 頭の中に、別の感情が流れ込んでくる。


 殺したい。


 壊したい。


 血が見たい。


「違う……」


 爪が掌へ食い込む。


 だが快感が混ざる。


 まずい。


 本当に混ざり始めてる。


 橘の顔色が変わった。


「始まったのか……」


「何が……」


 橘は苦しそうに言った。


「九回目では、

 分離した人格が統合される」


「……」


「善性も悪性も、

 全部戻る」


 呼吸が止まりそうになる。


「統合に失敗した人格は——」


 橘はそこで言葉を切った。


「完全な殺人衝動になる」


 静寂。


 雨音。


 俺は理解した。


 だからカナメは待っている。


 俺が壊れる瞬間を。


「……どれくらい時間がある」


 橘は腕時計を見る。


「早ければ四十八時間」


 短すぎる。


「カナメはどこだ」


「追ってる」


「間に合わなかったら?」


 橘はミラー越しに俺を見る。


「お前を撃つ」


 真顔だった。


「お前が壊れたら、

 都市一つ消える」


 冗談じゃない。


 だが橘は本気だった。


 その時。


 車内の無線が鳴る。


『橘さん!』


 若い男の声。


『例の地下施設、見つかりました!』


 橘の目が鋭くなる。


「場所は」


『湾岸地区第七埠頭です!』


 その瞬間。


 俺の頭に、鮮明な映像が蘇る。


 海。


 古い倉庫。


 白い廊下。


 そして。


 大量の死体。


「……あそこだ」


 俺は呟く。


「全部始まった場所」


 だが次の瞬間。


 耳元で、“もう一人の俺”が笑った。


『全部終わる場所、の間違いだろ?』

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