第十三章 悪性人格
そいつは、
ゆっくり拍手した。
乾いた音が、
赤い警報灯の中へ響く。
「いやぁ、ここまで来るとは思わなかった」
笑っている。
他の複製体と違う。
感情がある。
目が生きている。
そして。
俺と同じ顔で、
俺より自然に笑っていた。
橘が顔色を変える。
「……まさか」
そいつは軽く頭を下げる。
「どうも。
CASE041-Zです」
Z。
最後の文字。
嫌な汗が流れる。
「最終個体ってことか」
「正解」
041-Zは楽しそうだった。
「まあ、“完成品”って言ったほうがいいかな」
複製体たちが、
一斉に道を開ける。
まるで王みたいに。
041-Zは俺を見つめる。
「久しぶりだな、オリジナル」
心臓が重く鳴る。
頭の中の“もう一人の俺”が、
静かに笑った。
『あれ、俺だよ』
ゾッとする。
「……何なんだ、お前」
041-Zは肩をすくめる。
「お前が捨てた部分」
「違う」
「違わない」
041-Zは俺へ歩み寄る。
「怒り。
憎しみ。
暴力。
破壊衝動」
一歩ずつ近づく。
「お前、
全部押し込めて生きてきただろ?」
胸がざわつく。
図星だった。
041-Zは笑う。
「レン。
優しい人間ほど壊れるんだよ」
「……」
「他人を優先して、
我慢して、
自分を削って」
その声は、
妙にリアルだった。
「でも人間って、
本当はもっと醜い」
041-Zの目が細くなる。
「俺は、お前の本音だ」
違う。
そう言いたいのに。
否定できない。
その瞬間。
041-Zが消えた。
「っ!?」
速い。
次の瞬間、
腹部に衝撃。
吹き飛ばされる。
背中が壁へ叩きつけられた。
「がはっ……!」
041-Zは笑っていた。
「ほら。
痛いと怒るだろ?」
俺は立ち上がる。
拳を握る。
041-Zは嬉しそうに目を細めた。
「その顔だ」
次の瞬間。
俺たちは同時に踏み込んでいた。
拳。
拳。
蹴り。
衝撃。
互角。
いや。
041-Zのほうが少し速い。
俺の動きを、
完全に読んでいる。
当然だ。
こいつは俺なんだから。
「レン!!」
橘が援護射撃する。
だが041-Zは、
複製体を盾にして避ける。
躊躇がない。
自分と同じ顔を、
平然と撃たせる。
「最低だな」
俺が吐き捨てる。
041-Zは笑った。
「人間だろ?」
その言葉と同時に、
頭の奥で“もう一人の俺”が囁く。
『気持ちいいだろ』
俺の拳が、
自然に041-Zの喉を狙う。
殺せる。
分かる。
どうすれば人は壊れるか。
『認めろよ』
「……っ」
『お前、戦うの好きだろ』
041-Zが俺の耳元で笑う。
「もう半分以上、融合してる」
呼吸が乱れる。
まずい。
本当に境界が消え始めてる。
041-Zは囁く。
「楽になれよ」
その瞬間。
脳裏にユキの笑顔が浮かんだ。
『レンは優しいね』
胸が痛む。
俺は041-Zを突き飛ばす。
「……俺は、お前じゃない」
041-Zが首を鳴らす。
「まだ言うか」
「怒りはある。
憎しみもある」
俺は息を整える。
「でも、それだけじゃない」
041-Zの笑みが少し消える。
「ユキを助けたい」
「……」
「誰かを守りたい」
拳を握る。
「それも俺だ」
静寂。
赤い警報灯だけが点滅している。
『自爆まで、一分三十秒』
041-Zは数秒黙り、
そして小さく笑った。
「やっぱ嫌いだわ、お前」
その瞬間。
041-Zが懐からナイフを抜く。
銀色の刃。
その形を見た瞬間、
俺の全身が凍った。
思い出す。
六回目。
女を殺した夜。
あのナイフだ。
041-Zは優しく笑う。
「思い出した?」
そして。
「六回目で人を殺したの、
俺じゃない」
空気が止まる。
「……は?」
041-Zの笑みが深くなる。
「お前だよ、レン」




