第十二章 量産された怪物
地下通路を埋め尽くす足音。
白い照明の下、
次々と現れる“俺”。
041-B。
041-C。
041-D。
胸元に刻まれた番号だけが違う。
年齢も、
顔も、
声も同じ。
なのに。
全員、目が死んでいた。
感情がない。
まるで、
魂だけ抜かれたみたいに。
「……冗談だろ」
俺の声が掠れる。
橘も息を呑んでいた。
「ここまで成功してたのか……」
複製体たちは、
ゆっくりこちらへ歩いてくる。
統率されている。
一体だけじゃない。
十体以上いる。
いや、
奥にはまだいる。
その時。
スピーカーから、
カナメの笑い声が響いた。
『美しいだろ?』
「……カナメ」
『人格の量産。
感情の制御。
暴力性の再現』
愉悦に満ちた声。
『人間は、
壊すことで完成する』
複製体の一人が口を開く。
「CASE041を回収する」
全員が同時に銃を構えた。
「伏せろ!!」
橘が叫ぶ。
一斉射撃。
轟音。
火花。
俺たちは横の実験室へ飛び込んだ。
ガラスが砕け散る。
弾丸が壁を穿つ。
「数が多すぎる!」
橘が荒く息を吐く。
俺は周囲を見る。
ここは手術室みたいだった。
白いベッド。
拘束具。
大量の薬品。
そして。
壁一面の写真。
俺の写真だった。
子供の頃。
学生時代。
記者時代。
全部貼られている。
「……何なんだよ」
震える声。
その中に、
一枚だけ異質な写真があった。
幼い俺。
その隣に立つ少年。
笑っている。
そして。
その少年は——カナメだった。
「っ……」
記憶が揺れる。
夏の日。
児童施設。
泣いている少年。
『レンは優しいな』
頭痛。
俺は壁へ手をつく。
「どうした!?」
橘の声。
「俺……カナメを知ってる」
その瞬間。
頭の奥で、
“もう一人の俺”が静かに言った。
『やっとそこか』
俺は息を呑む。
『カナメは最初から壊れてた』
記憶が流れ込む。
児童養護施設。
暴力。
虐待。
消える子供たち。
その中で、
カナメだけが笑っていた。
『人間って簡単に壊れる』
幼いカナメ。
無表情で虫を潰している。
俺はそれを止めていた。
『駄目だよ』
『なんで?』
『痛いから』
カナメは不思議そうに俺を見ていた。
『レンは変だね』
映像が途切れる。
俺は呼吸を乱した。
「……あいつ」
橘が低く言う。
「昔から異常だったのか」
「でも俺……あいつを助けようとしてた」
思い出す。
殴られていたカナメ。
俺は庇った。
一緒に逃げた。
一緒に笑った。
なのに。
どうしてこうなった。
『簡単だろ』
“もう一人の俺”が笑う。
『あいつ、お前を羨ましがってたんだよ』
「……」
『優しくて、
人に愛されて、
普通に笑えるお前を』
胸がざわつく。
その時。
実験室のモニターが突然点灯した。
カナメの顔。
暗い部屋で、
静かにこちらを見ている。
『思い出したか?』
「……なんでだ」
俺は睨む。
「なんでこんなことした」
カナメは少しだけ黙った。
そして、
初めて笑みを消した。
『知りたかったんだ』
「……何を」
『人間は、
本当に善だけで生きられるのか』
静かな声だった。
『レン。
お前は昔から綺麗すぎた』
カナメの目が揺れる。
『だから見たかった』
その瞳には、
狂気だけじゃなく、
執着があった。
『お前が壊れる瞬間を』
その時。
実験室の扉が、
ゆっくり開き始める。
複製体たち。
無表情の俺が、
次々と中へ入ってくる。
逃げ場はない。
『自爆まで、三分』
警報。
赤い光。
橘が拳銃を構える。
「レン。
ユキの場所はもう近い」
俺は頷く。
だが。
複製体たちの中央。
最後に入ってきた一人を見て、
全身が凍った。
そいつだけは笑っていた。
“もう一人の俺”と同じ顔で。




