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死体番号041〜目が覚めたら、僕は番号で呼ばれる『検体』になっていた〜  作者: 鷹司 怜


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第十章 最終実験

 モニターの中で、

 ユキがゆっくり顔を上げた。


 白い拘束椅子。


 両腕を固定され、

 胸には黒い爆弾が巻かれている。


 だが。


 生きている。


「……ユキ」


 喉が震えた。


 ユキはモニター越しに俺を見る。


 唇が微かに動いた。


『来ないで』


 音声はない。


 だが確かにそう言った。


 カナメが笑う。


「感動の再会だな」


「てめぇ……!」


 俺は踏み出す。


 だが橘が腕を掴んだ。


「待て!」


「離せ!!」


「罠だ!」


「分かってる!!」


 それでも行くしかない。


 ユキを見捨てる選択肢なんて、

 最初から存在しなかった。


『自爆まで、八分』


 時間がない。


 カナメは静かに階段を指差した。


「地下三階」


 モニターが切り替わる。


 白い廊下。


 無数の鉄扉。


 実験室。


 血痕。


「ユキは一番奥だ」


「どういうつもりだ」


「言っただろ」


 カナメは微笑む。


「最終実験だ」


 嫌な汗が流れる。


「レン。

 人間は極限状態で、

 本性を選ぶ」


 カナメの目が狂っていた。


「愛を取るか。

 殺意を取るか」


 その瞬間。


 耳元で“もう一人の俺”が笑った。


『簡単じゃん』


「……」


『全員殺して、ユキだけ連れてけばいい』


「黙れ」


『お前、本当は分かってるだろ』


 声が近い。


『人を壊すほうが楽だって』


 頭が痛い。


 だが。


 今は飲まれるわけにいかない。


 橘が低く言った。


「レン。

 地下へ行くなら、俺も行く」


「信用できねぇ」


「当然だ」


 橘は自嘲気味に笑う。


「だが今は、

 お前を生かすことが俺の仕事だ」


 その目だけは本気だった。


 俺は数秒迷い、

 そして頷く。


「……行くぞ」


 地下への階段は、

 まるで病院みたいだった。


 白い壁。


 白い床。


 薬品臭。


 だが。


 壁には無数の引っ掻き傷が残っている。


 爪の跡。


 血。


 誰かが必死に逃げようとした痕跡。


 胸がざわつく。


 ここで何人死んだ。


 何人壊れた。


 その時。


 頭の奥で、

 断片的な記憶が蘇る。


『CASE041、再起動』


 白衣姿の研究員。


 泣き叫ぶ俺。


 ガラス越しに見ているカナメ。


 そして。


 ユキ。


 泣きながら、

 拘束された俺へ手を伸ばしている。


「……ユキ」


 思い出した。


 ユキは、

 実験施設のスタッフだった。


 だが途中で、

 俺を逃がそうとした。


 だから。


 巻き込まれた。


「くそっ……!」


 拳を壁へ叩きつける。


 橘が前を見る。


「止まれ」


 地下二階。


 廊下中央。


 そこに、

 一人の男が立っていた。


 黒い戦闘服。


 拳銃。


 無表情。


 だが。


 その顔を見た瞬間、

 俺は凍りついた。


 また俺だった。


「……なんだよ、これ」


 男は静かに銃を向ける。


「CASE041-A」


 低い声。


「排除命令を実行する」


 橘の顔色が変わる。


「まさか……複製体か」


 複製。


 俺は理解する。


 カナメは人格だけじゃない。


 “俺自身”を量産していた。


 男——041-Aは、

 感情のない目でこちらを見る。


「失敗作を処分する」


「失敗作……?」


 041-Aは迷いなく引き金を引いた。


 銃声。


 橘が俺を突き飛ばす。


 弾丸が壁を砕く。


「走れ!!」


 だが。


 次の瞬間。


 頭の中で、

 “もう一人の俺”が愉快そうに笑った。


『面白くなってきたな』


 そして俺は気づく。


 目の前の041-Aから、

 自分と同じ“気配”を感じていることに。


 殺意。


 孤独。


 壊れた人格。


 つまり。


 あれも俺だ。

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