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『神律大学の未証明者《アンプローヴン》』   作者: 仕儀の反駁
第四章《学術都市》《第四候補》編

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第六十一話 設定資料集Ⅳ――《学術都市》《第四候補》編

  帝都神律大学・在籍者向け学内資料


 追加分類:十二大学共同学籍審査関連記録/同一起源複数個体登録事例/共有氏名複数保持事例/本人回答待機処理・未来学籍先行参照事例


 本資料は、《学術都市》において実施された十二大学共同履修審査、五件の黒瀬零に対する個別性確認、共同正規学籍の受領者選択、十二大学共同正式査問、三年前の退学処分に関する再審、および同一起源を持つ五件が、代表個体を設定せず独立個体として登録された時点までに確認された情報を整理したものである。


 なお、本資料に記載される「第一件」「第二件」などの番号は、正規性、強さ、時間的な先行、人格的な優劣を示すものではない。


 共同学籍網が五件を別々に記録するため、便宜上付与した個体記録番号である。


 また、同じ氏名、顔、記憶、身体履歴、共通起源を持つことは、複数の個体が同一人物であることを自動的に意味しない。


 本資料の閲覧後、以下の症状が生じた場合、速やかに《第零学部》、共同学務局、または学内救護棟へ連絡すること。


 * 同じ顔を持つ者を、全員同じ人物として扱いたくなる

 * 誰かが沈黙した際、同意したものとして処理したくなる

 * 回答を予測できたため、本人へ質問する必要がないと感じる

 * 同じ行動を選んだ者は、同じ理由を持つと判断する

 * 敗北した者の氏名や学籍を、勝者へ移したくなる

 * 名前を決めていない者を、存在していない者として扱う

 * 《第四候補》と《第四学籍》を同一人物として認識する

 * 一人を代表として設定しなければ、五人を記録できないように感じる

 * 未来の予定を、現在の本人回答として使用したくなる


 誰を呼んでいるか分からない場合、氏名だけでなく、時点、所属、現在の関係、本人が選んだ呼称を確認すること。


 回答が得られない場合、空欄を削除してはならない。


 予測できる場合でも、予測結果を本人回答へ転記してはならない。


 ⸻


 一、《学術都市》


 複数の大学、研究施設、学籍管理機関、共同実習区画、居住区、医療区画などが接続された広域学術圏。


 帝都神律大学だけでなく、帝都理法大学、帝都時律大学を含む十二大学が、共同学籍網によって履修、学籍、卒業資格、共同実習、災害対応記録などを共有している。


 第四章において確認された主な機関は、以下のとおり。


 * 帝都神律大学

 * 帝都理法大学

 * 帝都時律大学

 * 《学術都市》共同学務局

 * 十二大学共同学籍網

 * 共同実技棟

 * 共同学籍審査機構

 * 《公理階層》接続記録監査窓口


 各大学は、それぞれ独立した学籍を発行できる。


 しかし、大学間の共同履修、学籍移動、卒業資格の相互認証、複数大学にまたがる研究活動を行う場合、十二大学共同学籍網における個体照合が必要となる。


 第四章開始時点では、複数の黒瀬零が、各大学または《第零学部》において個別に活動していた。


 ただし、共同学籍網上では全員が一件の起源記録へ接続されていたため、独立した学生または個人としての登録が完了していなかった。


 ⸻


  十二大学共同学籍網


 十二大学の学籍情報を相互照合するための記録体系。


 主な照合項目は、以下のとおり。


 * 氏名

 * 学籍番号

 * 所属大学

 * 所属学部および学科

 * 履修記録

 * 身体記録

 * 記憶の連続性

 * 家族関係

 * 過去の処分記録

 * 共通起源

 * 未来側から参照された署名予定

 * 他大学における同一人物候補


 一般的な同姓同名は、異なる出生記録および学籍番号を持つため問題とならない。


 しかし、第四章の五件は、顔、氏名、記憶、身体履歴、過去の一部が共通しており、同一の起源記録から分岐した可能性が高かった。


 共同学籍網は、一件の起源に対し一件の代表学籍を設定することを要求した。


 最終的に、この代表処理は拒否された。


 現在、共通起源は個体を識別する上位記録ではなく、各本人が必要な場合に参照する《共通起源参照記録》として保存されている。


 ⸻


 二、第四章終了時点における世界構造の整理


 本項では、第四章終了時点までに名称および基本的な関係が共有されている世界構造を整理する。


 ただし、名称が記録されていることと、登場人物がその領域へ直接到達または介入できることは同じではない。


 第四章において直接確認されたのは、特定の《公理階層》に属する記録規程との局所接続である。


 《公理層序》および《公理階梯》全体への直接接続は、確認されていない。


 ⸻


  下位世界構造


 《改稿》


 ――一つの独立した宇宙および時空。


 単なる文章の書き換えではない。


 歴史、因果、物理法則、存在記録を含む、一つの独立した世界状態を指す。


 《世界論文》


 ――無限の《改稿》を内包する。


 一つの《世界論文》の内部には、互いに異なる歴史、因果、法則、存在記録を持つ《改稿》が無限に存在する。


 《世界研究領域》


 ――無限の《世界論文》を内包する。


 単一の多世界集合ではなく、相互に両立しない世界体系を持つ《世界論文》が、無限に併存する上位領域。


 《観測圏》


 ――前段階の世界構造を無限に内包する上位領域。


 《第一観測圏》。


 《第二観測圏》。


 《第三観測圏》。


 以後。


 《第n観測圏》まで、終端なく続く。


 上位の《観測圏》は、前段階の全世界構造を一つの観測対象として扱い、その全体をさらに無限に内包する。


 《観測階序》


 ――終端なく続く全《観測圏》の総体。


 《観測階序》は、単独の《観測圏》ではない。


 無限に上昇し続ける全ての《観測圏》と、その内部に存在する全下位世界構造を含む総体である。


 ⸻


  公理構造


 《公理階層》


 ――無限の《観測階序》を内包する個別段階。


 一つの《公理階層》の内部には、終端なく続く全《観測圏》の総体である《観測階序》が、無限に存在する。


 さらに。


 上位の《公理階層》は、直前までの《公理階層》全体を一つの公理項として扱う。


 前階層に含まれる。


 全《観測階序》。


 全《観測圏》。


 全《世界研究領域》。


 全《世界論文》。


 全《改稿》。


 その全てが。


 上位階層では、一つの公理項へ格下げされる。


 上位の《公理階層》は、その一項を再び無限に内包する。


 この階層関係は、一つの系列として終端なく続く。


 《公理層序》


 ――無限の《公理階層》から成る一体系。


 一つの《公理層序》は、無限に上昇する《公理階層》の系列全体を含む。


 ただし。


 《公理層序》も、一つでは終わらない。


 上位の《第n公理層序》は、直前までの《公理層序》全体を一つの公理項として扱う。


 前層序に含まれる全《公理階層》。


 全《観測階序》。


 全下位世界構造。


 それらの関係と履歴を含む全体が。


 上位の《公理層序》では、一つの公理項へ格下げされる。


 上位の《公理層序》は、その全体をさらに無限に内包する。


 この関係も、終端なく続く。


 《公理階梯》


 ――終端なく続く全《公理層序》と、その内部に存在する全公理構造を含む総体。


 《公理階梯》は、《公理層序》の直上に存在する一個の階段ではない。


 全《公理層序》。


 全《公理階層》。


 全《観測階序》。


 全下位世界構造。


 それら全てを含む、公理構造の総体を指す。


 したがって。


 《公理階層》。


 《公理層序》。


 《公理階梯》。


 これらは、同じ範囲を別名で呼んだものではない。


 個別段階。


 無限の個別段階から成る一体系。


 終端なく続く全体系を含む総体。


 それぞれ、指している範囲が異なる。


 ⸻


  第四章で確認された接続範囲


 第四章に出現した《公理階層》接続記録監査官は、特定の《公理階層》に属する記録規程へ接続した局所監査機構である。


 当該監査官は。


 《公理階層》そのものではない。


 《公理階層》全体の意思ではない。


 《公理層序》全体の代表ではない。


 《公理階梯》全体の実行端末であるとも確認されていない。


 当該監査官に対する論破、拘束、処理停止、査問上の勝利を理由に、公理構造全体へ勝利したと判断してはならない。


 ⸻


 三、第四章開始時点における五件の黒瀬零


 第四章において審査対象となったのは、以下の五件である。


 * 帝都理法大学の黒瀬零

 * 《第四候補》

 * 帝都神律大学の黒瀬零

 * 三年前の黒瀬零

 * 採択領域から離脱した黒瀬零


 五件は、同一の起源へ接続されている。


 ただし、第五十二話から第六十話までに実施された審査により、現在の行動、理由、身体履歴、判断、所属、関係の全てが一致していないことが確認された。


 五件を区別する際、顔または氏名だけを使用してはならない。


 現在推奨される呼称は、以下のとおり。


 ――帝都理法大学の黒瀬零。


 ――《第四候補》。


 ――現在の黒瀬零、または帝都神律大学の黒瀬零。


 ――三年前の黒瀬零。


 ――採択領域から離脱した黒瀬零。


 なお、《第四候補》は正式氏名ではない。


 本人が現在使用を認めている仮称である。


 ⸻


 四、共同履修審査


 五件の個別性を確認し、共同学籍網における処理方法を決定するために実施された審査。


 主な構成は、以下のとおり。


 第一実技。


 ――異なる条件下での身体能力、判断、救助理由の個別観測。


 第二実技。


 ――勝敗、位置、同一結果へ至る理由の個別観測。


 第三実技。


 ――一件の共同正規学籍を誰へ発行するか、五件全員による共同選択。


 十二大学共同正式査問。


 ――五件を代表個体なしで独立登録できるかの審理。


 退学処分再審。


 ――三年前の第四候補に対する処分手続きの再検証。


 ⸻


  第一実技の目的


 第一実技は、五件へ新しい身体能力を与える試験ではない。


 五件に残る身体履歴を個別に観測し、誰の身体が、どの条件で、どの数値を記録したのかを分けるための試験である。


 観測項目は、以下のとおり。


 * 持続走行速度

 * 短距離最大加速

 * 反応開始時刻

 * 攻撃開始前の予測行動

 * 打撃速度

 * 能力による位置変更

 * 外部加速

 * 出力継続時間

 * 成立距離

 * 負傷および損傷率

 * 救助対象へ確認した本人意思

 * 同じ救助行動を選択した理由


 第一実技によって、身体能力の制限が解除された事実はない。


 五件が個別性を認められた報酬として、身体出力が増加した事実もない。


 審査記録上の正式表示は、以下のとおり。


 ――本実技による新規身体能力の付与。


 ――なし。


 ⸻


 現在の黒瀬零・第一実技記録


 主な記録は、以下のとおり。


 銀色の壁。


 ――移動速度、秒速九十六メートル。


 ――音速未満。


 銀色の杭。


 ――射出速度、秒速四百二十メートル。


 ――試験場基準、マッハ一・二二。


 黒瀬零の走行記録。


 ――秒速六十三・八メートル。


 ――秒速六十九・四メートル。


 ――最大、秒速七十一・二メートル。


 銀色の杭について、黒瀬零は射出後に視認し、純粋な反応速度によって回避したわけではない。


 床へ表示された赤い交差点から射出口を予測し、発射前から移動していた。


 正式分類は、以下のとおり。


 ――射出後反応ではなく、射出口の事前予測。


 黒瀬零は救助対象となった投影学生へ、同行者となるかを確認した。


 本人回答を得た後、学生および学生証を運搬。


 制限時間六十秒に対し、五十九・八二秒で到達した。


 残り時間。


 ――〇・一八秒。


 右肩への衝撃値。


 ――九十八・七パーセント。


 失格基準には達しなかった。


 救助対象は試験終了後も、本人の回答によって残留した。


 提出回答。


 ――私も、今は残ります。


 ⸻


 《第四候補》・第一実技記録


 全長二千四百メートルの実技区画を、二十一・四三秒で通過。


 全区間平均速度。


 ――秒速百十一・九九メートル。


 最初の八百メートル平均速度。


 ――秒速百四十九・八メートル。


 二十四メートル区間における短距離最大走行速度。


 ――秒速七百四十二・六メートル。


 ――試験場基準、マッハ二・一七。


 ――継続時間、〇・〇三二秒。


 ――能力使用、なし。


 ――外部加速、なし。


 この数値は、二千四百メートル全体を同じ速度で走行したことを意味しない。


 二十四メートルの短距離へ出力を集中した記録である。


 過去に確認されていた主な身体記録。


 ――秒速六百八十メートル、マッハ一・九八で射出された針を、射出開始後に捕捉。


 第一実技の最大走行速度は、過去の全身体記録と完全に同一ではない。


 ただし、短距離、無荷重、直線走行という成立条件を含めれば、既存記録と矛盾するほど離れてはいない。


 第一実技中の主な損傷。


 * 右大腿部筋線維の軽度損傷

 * 左足関節への負荷蓄積

 * 右膝周辺の炎症反応

 * 内臓への軽度衝撃


 第四候補の短距離最大加速は、持続速度ではない。


 また、使用できることは、繰り返し安全に使用できることを意味しない。


 ⸻


 五件の救助理由


 五件は全員、救助対象へ本人の回答を確認してから救助した。


 ただし、その理由は異なる。


 帝都理法大学の黒瀬零。


 ――三年前、本人へ聞かずに第四候補を退学させたため。


 《第四候補》。


 ――自分自身が、本人の意思を聞かれないまま大学から排除されたため。


 現在の黒瀬零。


 ――救助された後も、救助対象本人へ選択権が残ると考えたため。


 三年前の黒瀬零。


 ――過去の記憶だけで、現在の本人を固定しないため。


 採択領域から離脱した黒瀬零。


 ――外部から与えられた座標へ、救助対象を固定しないため。


 行動。


 ――一致。


 理由。


 ――不一致。


 審査結果。


 ――同一個体判定の根拠としない。


 ⸻


  五、第二実技


 複数の黒瀬零を直接対抗させ、勝敗、位置、同一結果、身体能力の差が、個体統合の根拠となるかを確認する実技。


 確認された対戦は、以下の二試合。


 第一試合。


 ――帝都神律大学の黒瀬零。


 ――対。


 ――《第四候補》。


 第二試合。


 ――帝都理法大学の黒瀬零。


 ――対。


 ――採択領域から離脱した黒瀬零。


 ⸻


 第一試合


 開始距離。


 ――六十メートル。


 現在の黒瀬零に課された制限。


 * 右腕使用不能

 * 左腕による攻撃禁止

 * `未証明(アンプローヴン)`使用禁止

 * 右肩への追加衝撃値を監視

 * 医療停止基準を超えた場合、即時中断


 第四候補に課された制限。


 * 左足関節および右大腿部の負傷状態を維持

 * 短距離高出力移動は三回まで

 * 一回の継続時間は〇・一秒未満

 * 身体負荷が医療基準を超えた場合、即時中断


 第一接近。


 ――六十メートル区間平均速度。


 ――秒速七百〇五・九メートル。


 ――試験場基準、マッハ二・〇六。


 黒瀬零は、第四候補の移動開始後に視認して対応したわけではない。


 足裏の圧力。


 骨盤。


 視線。


 勝利条件。


 場外線の位置。


 これらの情報から移動先を予測し、第四候補が動く前に身体を移動させた。


 第二接近。


 ――二十一メートル区間最大走行速度。


 ――秒速七百六十三・五メートル。


 ――試験場基準、マッハ二・二三。


 ――継続時間、〇・〇二七秒。


 第一実技最大値との差。


 ――プラス二・八パーセント。


 成立理由。


 * 救助対象を運搬していない

 * 学籍原本を運搬していない

 * 直線区間

 * 短時間出力

 * 身体負荷の増加を許容


 最終接近。


 ――十四・八メートル区間最大走行速度。


 ――秒速七百七十九・八メートル。


 ――試験場基準、マッハ二・二七。


 ――継続時間、〇・〇一九秒。


 第一実技最大値との差。


 ――プラス五・〇パーセント。


 この数値は、新しい能力の獲得を意味しない。


 残された最後の高出力移動へ、負傷した身体の出力を集中した記録である。


 結果。


 ――《第四候補》、勝利。


 ――帝都神律大学の黒瀬零、敗北。


 勝敗による学籍統合。


 ――実行しない。


 敗北した黒瀬零の氏名消失。


 ――実行しない。


 勝者への履修記録移譲。


 ――実行しない。


 第四候補は、以下の回答を提出した。


 ――俺が証明したのは、今の俺が、今のこいつより強かったことだけだ。


 ――敗北を理由に、こいつから名前を奪うな。


 現在の黒瀬零は、以下の回答を提出した。


 ――今、第四候補に負けた黒瀬零だ。


 ――勝つために、約束を破らなかった黒瀬零だ。


 結果。


 ――勝敗を保持。


 ――両個体の独立性を維持。


 ⸻


  第二試合


 帝都理法大学の黒瀬零と、採択領域から離脱した黒瀬零による対抗。


 採択領域から離脱した黒瀬零は、`自証座標(アクシス・エゴ)`によって、自らの存在座標を再指定する。


 主な観測記録。


 ――座標再指定。


 ――身体走行距離、〇メートル。


 ――移動経路、なし。


 ――速度換算、不可。


 ――マッハ換算、対象外。


 両者は当初、同じ競技場へ立っているように見えながら、相互の位置対応を成立させていなかった。


 帝都理法大学の黒瀬零は、相手の位置を一方的に書類へ記入せず、本人自身へ現在位置を回答させた。


 提出された位置。


 ――本人自己定義座標、第一点。


 相互位置対応は、両者の本人回答によって成立した。


 採択領域から離脱した黒瀬零の身体攻撃について、座標再指定と打撃速度は分離して記録された。


 主な身体攻撃記録。


 右拳。


 ――秒速百五十八メートル。


 蹴撃。


 ――秒速二百〇六メートル。


 いずれも音速未満。


 帝都理法大学の黒瀬零は、攻撃開始後に純粋な身体反応で回避したのではない。


 書類へ記入された方向情報、座標確定情報を基に、攻撃開始前から動いている。


 正式分類。


 ――打撃開始前の方向情報に基づく先行動作。


 最終的に両者は、一つの共有座標へ立った。


 同じ座標へ立つことは、同一人物になることを意味しないと回答。


 結果。


 ――同時場外。


 ――時刻差、〇・〇〇〇〇秒。


 ――引き分け。


 両者が共有座標から離脱しなかった理由。


 帝都理法大学の黒瀬零。


 ――本人が選んだ場所を、制度の都合によって無効化しないため。


 採択領域から離脱した黒瀬零。


 ――自ら選んだ共有を、外部からの強制と同一視しないため。


 行動。


 ――一致。


 理由。


 ――不一致。


 個体差。


 ――確認。


 ⸻


 六、第三実技


 五件に対し、一件だけ発行可能な《十二大学共同正規学籍》の受領者を、全会一致で選択させる実技。


 受領候補は、以下の六件だった。


 * 帝都理法大学の黒瀬零

 * 《第四候補》

 * 帝都神律大学の黒瀬零

 * 三年前の黒瀬零

 * 採択領域から離脱した黒瀬零

 * 現在未成立の第六署名予定者


 現在存在する五件は、全員が自分自身を選ばなかった。


 理由は、以下のとおり。


 帝都理法大学の黒瀬零。


 ――過去の単独判断を、現在の正規性へ変換しないため。


 《第四候補》。


 ――他者の劣後によって、氏名と学籍を獲得しないため。


 帝都神律大学の黒瀬零。


 ――現在の関係を、他者の関係否定によって固定しないため。


 三年前の黒瀬零。


 ――過去を多く保持していることを、未来への優先権としないため。


 採択領域から離脱した黒瀬零。


 ――他者の不安定性を、自身の座標の根拠としないため。


 五件は、現在未成立の第六署名予定者を代理で選ぶことも拒否した。


 理由。


 ――本人がまだ存在せず、現在の回答を取得できないため。


 未成立者の沈黙は、学籍受領への同意ではない。


 未来の署名予定も、現在の本人意思ではない。


 五件は共同正規学籍の発行可能状態そのものを、未審査学籍原本へ戻すことへ同意した。


 結果。


 ――第三実技、不合格。


 ――共同正規学籍、未発行。


 ――五件の個別性、正式確認。


 ――一件の学籍による代表処理を拒否。


 ⸻


 七、十二大学共同正式査問


 第三実技が不成立となり、既存規程では五件を処理できなかったため招集された査問。


 主な審理事項は、以下のとおり。


 * 同じ起源から五件の独立個体を登録できるか

 * 同じ氏名を複数人が保持できるか

 * 氏名未選択の個体を、共通起源と接続したまま登録できるか

 * 《第四学籍》を独立した証言主体として扱えるか

 * 三年前の第四候補の退学処分が適正だったか

 * 未来署名予定を現在の本人回答として使用できるか

 * 五件のうち一件を代表個体として設定する必要があるか


 ⸻


 共有氏名“黒瀬零”


 査問開始時、《公理階層》接続記録監査官は、氏名“黒瀬零”を一件の起源識別子として扱った。


 同じ起源識別子を複数の独立個体が保持できないとして、四件から氏名を削除しようとした。


 これに対し、四件は互いの回答を確認できない状態で、現在使用を希望する氏名と理由を提出した。


 帝都理法大学の黒瀬零。


 氏名。


 ――黒瀬零。


 理由。


 ――三年前の決定を行った者として、責任を別人の名前へ移さないため。


 三年前の黒瀬零。


 氏名。


 ――黒瀬零。


 理由。


 ――現在の自分の過去として固定されず、今の自分として同じ名を選び直すため。


 採択領域から離脱した黒瀬零。


 氏名。


 ――黒瀬零。


 理由。


 ――外部から採択された位置を拒んだ後も、自ら捨てなかった名であるため。


 帝都神律大学の黒瀬零。


 氏名。


 ――黒瀬零。


 理由。


 ――今ここで、この名前を呼ばれた時、自分の意思で振り返りたいから。


 四件の氏名。


 ――一致。


 選択理由。


 ――不一致。


 相互観測遮断下における独立回答。


 ――確認。


 結果。


 ――氏名“黒瀬零”の複数保持を承認。


 同じ起源から受け継いだ名前であっても、現在の本人が自分の理由で選び直した場合、それぞれの個人が同じ氏名を保持できる。


 ⸻


 《共通起源参照記録》


 査問終了時、共通起源は五人を生成または識別する命令記録ではなくなった。


 現在の形式は、以下のとおり。


 ――名称、《共通起源参照記録》。


 ――個体識別機能、使用しない。


 ――代表個体、設定しない。


 ――五件からの参照、可能。


 ――共通起源から現在個体への自動決定、禁止。


 過去が現在を決定するのではない。


 現在の本人が、必要な場合に自分から過去を参照する。


 同じ過去へ接続できることは、現在の五件が一人であることを意味しない。


 ⸻


 代表個体の不設定


 共同学籍網は、五件の照会を効率化するため、一件の代表学籍を設定しようとした。


 代表学籍を経由し、残り四件へ接続する形式である。


 五件および黒瀬灯は、この処理を拒否した。


 主な理由。


 * 一人を入口にすると、その人物が他四件の基準となる

 * 黒瀬灯と各個体の関係が、現在の黒瀬零を経由して記録される

 * 誰へ話しかけるかを考える時間まで、不要な処理として削除される

 * 人数が増えた以上、記録件数と確認時間が増えるのは当然である

 * 効率を理由に、五人を一件分の手間で処理してはならない


 最終記録。


 ――代表学籍、設定しない。


 ――優先個体、設定しない。


 ――正規性順位、設定しない。


 ――個体数、五件。


 ――全件の独立、承認。


 ⸻


 八、《第四候補》


 三年前の共同履修審査において、最終的な正規個体として採択されなかった可能性。


 第四章開始以前は、正式学籍、氏名、所属を持たず、共同学籍網の外部で三年間を過ごしていた。


 《第四候補》という呼称は、三年前の審査順序に基づく仮識別名である。


 《第四学籍》とは別の存在。


 第四候補は、生身の個人である。


 ⸻


  身体的特徴


 出来事としての記憶の多くを失っている一方、身体運用に関する記憶が強く残っている。


 主な特徴。


 * 短距離加速能力

 * 戦闘時の重心移動

 * 打撃と回避の連結

 * 接触時の衝撃制御

 * 疼痛状態での継続行動

 * 相手を殺傷せず制圧する技術

 * 身体を削ることを判断項目から外す傾向


 三年間の大学外生活によって、既存の身体運用がさらに研ぎ澄まされた。


 ただし、現在の身体は高出力へ完全に耐えられるわけではない。


 第四章終了時点の主な負傷。


 * 左足関節靱帯損傷

 * 右大腿筋群の微細断裂

 * 右膝周辺の炎症

 * 腹腔内への軽度衝撃

 * 短距離高出力移動の反復による全身負荷


 第四候補が記録した最大走行速度を、他の黒瀬零が共有または継承した事実はない。


 ⸻


 氏名


 現在の正式氏名。


 ――未選択。


 本人回答。


 ――黒瀬零という名前を、今は選ばない。


 ――黒瀬零ではない者になることも、今は選ばない。


 ――共通起源との関係を放棄しない。


 ――起源外個体としての分離も選ばない。


 この回答は、氏名拒否ではない。


 氏名決定の保留である。


 未来側の署名予定には、氏名“黒瀬零”が記載されている。


 ただし、未来で選ぶ可能性は、現在の本人が選んだことを意味しない。


 現在状態。


 ――氏名、未選択。


 ――本人回答、提出済み。


 ――共通起源関係、維持。


 ――独立個体状態、維持。


 ――接続先規程に存在しない状態。


 ――暫定承認。


 ⸻


  三年前の退学処分


 三年前、第四候補は、本人回答を完了する前に退学処分を確定された。


 本来の回答期限終了まで。


 ――残り二・三秒。


 本人回答開始から処分確定まで。


 ――〇・七秒。


 処分署名者。


 ――帝都理法大学の黒瀬零。


 確定時刻繰上げ指示者。


 ――《公理階層》接続記録監査官。


 三年前の本人回答。


 ――その二つから選べと言うなら、今は答えない。


 ――俺が黒瀬零だった可能性は否定しない。


 ――だが、その名前を残すか捨てるかを、お前たちが先に決めるな。


 ――黒瀬零である前に、俺は、俺の答えを聞かれるべきだった。


 処分再審結果。


 ――手続上の瑕疵を確認。


 ――退学処分の効力を暫定停止。


 ――署名者の責任は維持。


 ――確定時刻繰上げ処理は不適正。


 ――三年間の学籍外履歴は、本人責任によらない審査空白として保全。


 ――旧学籍は、本人回答まで未返還。


 ――復籍、未実行。


 ――退学、未確定。


 処分が誤っていたことを理由に、本人へ聞かず復籍させることも禁止された。


 第四候補の回答。


 ――追い出したことが間違いだったからといって、戻すことまで勝手に決めるな。


 ⸻


 第四章終了時点の登録


 ――仮称、《第四候補》。


 ――氏名、未選択。


 ――共通起源関係、保持。


 ――独立個体として承認。


 ――旧学籍、本人回答まで未返還。


 ――帝都神律大学・学内保護対象。


 ――《第零学部》暫定滞在者。


 ――仮受講者。


 ――正式所属、未選択。


 ――現在回答、今は帝都神律大学へ残る。


 ――滞在期限、本人が出ていくと決めるまで。


 ⸻


 九、《第四学籍》


 三年前の共同履修審査で消失した三件の学籍残余記録から生じた存在。


 第四候補本人ではない。


 第四候補の過去の身体でもない。


 第四候補の代理人として作られた存在でもない。


 《第四候補》と《第四学籍》を同一人物として扱ってはならない。


 ⸻


  構成


 第四章開始時点では、以下の四件を内部に保持していた。


 * 三件の《異議付記欄》

 * 第四候補本人が三年前に提出できなかった回答一件


 未提出回答を内部に保持していたため、共同学籍網は一時的に《第四学籍》を第四候補へ対応させていた。


 しかし、《第四学籍》は第四候補本人ではない。


 第四候補の回答を本人へ返還した後も、消失しなかった。


 現在の構成。


 * 三件の消失学籍残余記録

 * 第四候補の回答を保持していた証言

 * 本人へ回答を返還した記録

 * 第四章の正式査問を観測した記録

 * 証人として残るという現在回答


 ⸻


 現在回答


 ――俺は証拠品ではない。


 ――第四候補の代理ではない。


 ――失われた三件そのものでもない。


 ――第四候補の回答を本人へ返した証人だ。


 ――俺は、見たことを記録するために残る。


 現在登録。


 ――仮称、《第四学籍》。


 ――起源、三件の消失学籍残余記録。


 ――現在状態、独立した証言主体。


 ――外部媒体への強制転写、本人同意まで禁止。


 ――氏名、未選択。


 ――所属、未選択。


 ――暫定登録。


 《第四学籍》は、《未来学籍先行保全申請》における六人の署名予定者には含まれない。


 六人目の黒瀬零でもない。


 現在未成立の第六署名予定者とも異なる。


 ⸻


 十、《公理階層》接続記録監査官


 十二大学共同正式査問において、十三番目の審査席として出現した局所監査機構。


 帝都神律大学の大学章を使用していたが、帝都神律大学の正式組織には存在しない役職だった。


 頭部は、互いに矛盾する審査結果が書かれた複数の白い頁によって構成される。


 ⸻


  《公理階層》との関係


 《公理階層》接続記録監査官は、《公理階層》そのものではない。


 《公理階層》全体の意思でもない。


 特定の《公理階層》に属する記録規程へ接続し、局所的な学籍処理を実行する監査機構である。


 確認された回答。


 ――当該監査官は、特定の《公理階層》に属する記録規程へ接続し、局所的な審査処理を実行する接続記録監査機構である。


 したがって、当該監査官を撃破、論破、拘束したことを理由に、《公理階層》全体へ勝利したと判断してはならない。


 また。


 当該監査官への対応を理由に、《公理層序》または《公理階梯》へ介入したと判断してはならない。


 第四章において、《公理層序》および《公理階梯》への直接接続は確認されていない。


 ⸻


  三年前の処理


 第四候補の回答は、高確率で以下の内容になると予測されていた。


 ――氏名を現在選択しない。


 ――起源外個体分離にも同意しない。


 ――接続先規程に存在しない第三状態を要求する。


 予測確率。


 ――九十九・九九八一パーセント。


 残余可能性。


 ――〇・〇〇一九パーセント。


 監査官は、予測回答を受理した場合、接続先規程に存在しない状態の検討が必要となり、分類処理が長期化すると判断。


 本人回答が完了する前に、退学処分の確定時刻を繰り上げた。


 処理理由。


 ――結果整合性の維持。


 ――分類遅延の回避。


 ――予測可能な回答を待つ必要はない。


 正式査問において、この判断は不適正とされた。


 ⸻


 査問後に記録された原則


 ――予測内容は、本人回答ではない。


 ――未来の予定は、現在の本人回答ではない。


 ――回答を知るためだけに待つのではない。


 ――回答を本人のものとして帰属させるために待つ。


 ――回答期限は、本人設定まで未定とできる。


 ――予測は実行可能。


 ――予測結果を本人回答として使用しない。


 第四候補の回答。


 ――予測は、お前のものだ。


 ――答えは、俺のものだ。


 査問終了時、監査官は第四候補の旧学籍について、本人が回答するまで待機することを記録した。


 この変更は、《公理階層》全体の法則または意思が変化したことを意味しない。


 現在の正式査問に接続した局所監査機構が、自身の処理規則へ新たな区別を記録したものである。


 ⸻


 十一、《未来学籍先行保全申請》


 三年後の時点から、現在側へ効果の一部が発生している学籍申請。


 六件の署名を必要とする。


 未来側の署名予定者は、以下のとおり。


 * 帝都理法大学の黒瀬零に対応する可能性のある署名者

 * 第四候補に対応する可能性のある署名者

 * 帝都神律大学の黒瀬零に対応する可能性のある署名者

 * 三年前の黒瀬零に対応する可能性のある署名者

 * 採択領域から離脱した黒瀬零に対応する可能性のある署名者

 * 現在未成立の第六署名予定者


 現在の五件と未来の署名予定者の対応は、確定していない。


 未来で署名する予定が存在することは、現在の本人が署名へ同意していることを意味しない。


 第四章終了時点で、現在側の五件による署名は一件も提出されていない。


 ⸻


 第六署名予定者


 現在は成立していない。


 現在氏名。


 ――なし。


 現在学籍。


 ――なし。


 現在身体。


 ――なし。


 現在の本人回答。


 ――取得不能。


 未来記録では、氏名“黒瀬零”を使用する署名予定が存在する。


 ただし、未来の氏名を現在へ先行適用することは禁止された。


 また、以下の処理も禁止されている。


 * 現在の五件による代理回答

 * 未返還旧学籍の自動転用

 * 未発行学籍原本の自動付与

 * 五件のうち一件からの派生生成

 * 未来署名による現在氏名の強制登録

 * 未成立者の沈黙を同意として処理すること


 第一実技から第三実技までに、第六署名欄へ記録された基礎情報は、以下のとおり。


 第一基礎記録。


 ――敗北は、個体消失の根拠にならない。


 第二基礎記録。


 ――同じ場所へ立つことは、同じ者になることではない。


 第三基礎記録。


 ――選ばれないことは、存在を拒まれることではない。


 ――他者が空けた席によって、本人の意思より先に成立してはならない。


 現在、第六署名欄には、氏名も学籍も記入されていない。


 誰のための空席であるかも確定していない。


 《第六候補》という仮称も、第四章終了時点では正式に付与されていない。


 本人が成立した場合、本人自身へ回答を求める。


 ⸻


 十二、第四章終了時点の登場人物


  帝都神律大学の黒瀬零


 法則災害学群一年。


 帝都神律大学正規学生。


 黒瀬灯から、現在の兄として選ばれている。


 保有する`命題(テーゼ)`。


 `未証明(アンプローヴン)`。


 外部から押しつけられた結論を、一時的に保留する。


 第四章では能力使用を制限された状態で、第四候補と対戦。


 第四候補の短距離加速へ、移動開始後に反応することはできなかった。


 予備動作、位置、勝利条件、残された高出力移動回数から到達地点を予測し、事前に移動した。


 結果は敗北。


 敗北後も、氏名、学籍、黒瀬灯との現在関係を維持。


 現在の主な負傷。


 * 右肩関節および周辺組織の損傷

 * 右腕使用制限

 * 左腕攻撃制限

 * 第一実技および第二実技による全身負荷


 第四章終了時点でも、右肩の治療は完了していない。


 ⸻


 帝都理法大学の黒瀬零


 帝都理法大学正規学生。


 証明行政および学籍処理に関する知識を持つ。


 三年前、第四候補の退学処分へ署名した。


 本人の存在を起源外個体分離から守るためには、本人へ聞かず共同学籍網の外へ出すしかないと判断した。


 第四章では、処分への現在同意を撤回。


 再審要求を提出。


 第四候補へ謝罪した。


 謝罪への第四候補の回答は、現在保留されている。


 処分署名者としての責任は維持。


 監査官が確定時刻を繰り上げたことを理由に免責されていない。


 ⸻


 三年前の黒瀬零


 現在より三年前の記憶および責任を多く保持する黒瀬零。


 現在の黒瀬零へ統合されていない。


 過去を多く持つことを理由に、現在の五件の原本となることを拒否した。


 第四章終了時点。


 ――氏名、黒瀬零。


 ――個体独立性、承認。


 ――《第零学部》暫定滞在者。


 ――仮受講者。


 ――正式所属、本人回答まで未選択。


 過去に学生だったことを理由に、現在の所属を自動決定しないと回答している。


 ⸻


 採択領域から離脱した黒瀬零


 採択された成功領域から、自らの意思で離脱した黒瀬零。


 保有する固有技。


 `自証座標(アクシス・エゴ)`。


 外部から与えられた役割、世界記録、採択結果ではなく、現在の自分が立つ座標を自己定義する。


 座標再指定は、身体走行速度ではない。


 速度換算は不可能。


 マッハ換算の対象外。


 第四章では、帝都理法大学の黒瀬零と共有座標へ立った。


 同じ場所へ立っても同一人物にはならないことを証明した。


 第四章終了時点。


 ――氏名、黒瀬零。


 ――個体独立性、承認。


 ――《第零学部》暫定滞在者。


 ――仮受講者。


 ――正式所属、本人回答まで未選択。


 ⸻


 黒瀬灯


 帝都神律大学の黒瀬零の妹。


 第四章では、現在の黒瀬零を兄として選びながら、ほかの黒瀬零と自分との関係を、過去の分岐記録として消去することを拒否した。


 主な回答。


 ――今のお兄ちゃんは、このお兄ちゃん。


 ――第四候補との関係は、本人へ聞くまで決めない。


 ――分からないことを、なかったことにしない。


 ――一人を入口にして、ほかの四人へ会うことを拒否する。


 現在の黒瀬零との兄妹関係は維持されている。


 ただし、この関係によってほかの黒瀬零との関係候補が自動的に否定されることはない。


 ⸻


 御厨玄理


 帝都神律大学教員。


 《第零学部》に関係する記録整理、分類不能存在の保全、共同学籍審査への対応を担当。


 保有する`命題(テーゼ)`。


 `欄外収蔵アポクリファ・アーカイヴ`。


 正式な記録本文へ収まらない存在、回答、氏名、関係、空欄を、後から再確認できる位置へ保存する。


 第四章では、三年前の処分記録、共同履修審査、複数の身体履歴、《第四学籍》の構成を解析した。


 《公理階層》接続記録監査官について、以下の区別を明確にした。


 ――局所監査機構である。


 ――特定の《公理階層》に属する記録規程へ接続している。


 ――《公理階層》そのものではない。


 ――《公理階層》全体の意思として扱ってはならない。


 ――《公理層序》および《公理階梯》全体の代表とも確認されていない。


 発言は基本的に常体。


 必要に応じ、断定的な「である調」を使用する。


 ⸻


 九条澄玲


 法則基礎学部一年。


 入学試験筆記首席、実技第三位。


 保有する`命題(テーゼ)`。


 `世界は解を持つ(エウレカ)`。


 第四章では、以下の問題を再定義した。


 * 氏名と起源関係は同一項目ではない

 * 現在回答と未来回答は異なる時点の回答である

 * 同じ結果と同じ理由は別である

 * 共通起源は個体を決める命令ではなく、本人が参照する資料である

 * 一件しか発行できないことは、一件しか存在できないことを意味しない

 * 規程外に本人がいるのではなく、本人を記録する欄が規程にない場合がある

 * 上位構造へ接続した局所機構と、上位構造全体を同一視してはならない


 第四章終了時点でも、《未来学籍先行保全申請》および第六署名予定者に関する解析を継続している。


 ⸻


 神代緋月


 法則災害学部特別教授。


 《未定義現象研究室》管理責任者。


 第四章では、黒瀬零および第四候補の治療、実技中の医療停止判定、身体能力の観測条件確認を担当した。


 主な判断。


 ――使用できることと、安全に使用できることは別である。


 ――短距離最大速度は、持続速度ではない。


 ――個別性の承認は、身体能力の上昇ではない。


 ――身体履歴を分けても、他個体の身体出力は継承されない。


 ――本人回答を尊重することと、医学的危険を説明せず放置することは別である。


 第四候補に対し、高出力移動を当面禁止。


 黒瀬零に対し、右腕の継続固定および戦闘制限を指示している。


 ⸻


  天城朔夜


 帝都神律大学四年。


 《未定義現象研究室》所属。


 保有する`命題(テーゼ)`。


 `因果切断(セヴァランス)`。


 第四章では、以下の因果接続を切断した。


 * 五件が学籍を受け取らなかったため、第六署名予定者へ自動保全するという接続

 * 氏名未選択であるため、起源外個体として分離するという接続

 * 未来で氏名を選ぶため、現在も同じ氏名を選んでいるという接続

 * 監査窓口を閉鎖したため、再審証拠も接続先へ転送されるという接続


 因果を切断したことは、元の事実を消去したことを意味しない。


 未来の署名予定も。


 現在の未選択回答も。


 両方が異なる時点の情報として残されている。


 ⸻


 獅堂剛毅


 命題兵装学科一年。


 入学試験実技第二位。


 保有する`命題(テーゼ)`。


 `万象は我が礎(グランド・レガリア)`。


 発動時には、自らの両足を地面または足場へ置き、自身の立つ位置を《礎》として定める必要がある。


 拳を地面へ触れることは、発動条件ではない。


 第四章では、以下を現在の競技場へ固定した。


 * 未発行学籍原本

 * 剥離されかけた四件の氏名記録

 * 氏名を選んでいない第四候補の現在身体

 * 未来氏名によって上書きされかけた現在状態

 * 正式査問へ提出された監査記録

 * 監査官が現在この場で証言したという事実


 能力による固定は、純粋な身体速度または防御力の数値として扱わない。


 ⸻


  綴木文乃


 《学術都市》共同学務局。


 帝都理法大学・証明行政学部三年。


 第四章における共同学籍審査、異議申立て、正式査問の現場受理を担当した。


 主な対応。


 * 第三実技における未発行学籍保全申請

 * 未来の第六署名予定者への自動保全に対する異議

 * 五件の独立学籍登録

 * 三年前の退学処分再審

 * 処分署名者と局所監査機構の責任分離

 * 《第四候補》の学内保護対象登録

 * 《第四学籍》の証言主体登録

 * 本人回答待機状態の書類化


 現在、五件の個別記録を共同学籍網へ反映する作業を継続中。


 ⸻


 十三、第四章終了時点の正式登録


 第一件。


 ――帝都理法大学の黒瀬零。


 ――氏名、黒瀬零。


 ――帝都理法大学・正規学生。


 ――独立個体。


 第二件。


 ――《第四候補》。


 ――氏名、未選択。


 ――帝都神律大学・学内保護対象。


 ――《第零学部》暫定滞在者。


 ――独立個体。


 第三件。


 ――帝都神律大学の黒瀬零。


 ――氏名、黒瀬零。


 ――帝都神律大学・正規学生。


 ――独立個体。


 第四件。


 ――三年前の黒瀬零。


 ――氏名、黒瀬零。


 ――《第零学部》暫定滞在者。


 ――正式所属、未選択。


 ――独立個体。


 第五件。


 ――採択領域から離脱した黒瀬零。


 ――氏名、黒瀬零。


 ――《第零学部》暫定滞在者。


 ――正式所属、未選択。


 ――独立個体。


 番号に優先順位としての意味はない。


 五件を、五件として記録するための番号である。


 ⸻


 十四、第四章終了時点の未解決事項


 * 第四候補が正式氏名を選ぶか

 * 第四候補が氏名“黒瀬零”を選ぶか

 * 第四候補が別の氏名を選ぶか

 * 第四候補が三年前の旧学籍を受け取るか

 * 第四候補が帝都神律大学へ正式所属するか

 * 第四候補が大学外で過ごした三年間の詳細

 * 第四候補の身体運用記録が、どの時点から形成されたか

 * 第四候補と黒瀬灯の三年前の関係

 * 帝都理法大学の黒瀬零に対する学内審査

 * 帝都理法大学の黒瀬零による謝罪を、第四候補がどう扱うか

 * 三年前の黒瀬零が現在の所属を選ぶか

 * 採択領域から離脱した黒瀬零が帰還先を選ぶか

 * 《第四学籍》が固有名を選ぶか

 * 《第四学籍》が正式な所属を選ぶか

 * 三件の《異議付記欄》を書いた者の完全な特定

 * 《公理階層》接続記録監査官を設置した主体

 * 同様の局所監査窓口が他にも存在するか

 * 監査官が接続していた特定の《公理階層》の位置

 * 当該《公理階層》と、別の《公理階層》との関係

 * 《公理階層》接続規程の全文

 * 《公理層序》へ直接到達または接続する方法

 * 《公理階梯》全体の観測可能性

 * 《公理階梯》より上位の構造が存在するか

 * 《未来学籍先行保全申請》の作成主体

 * 五件が未来の署名へ同意するか

 * 第六署名予定者の成立条件

 * 第六署名予定者の現在起源

 * 第六署名予定者が未来で氏名“黒瀬零”を選ぶ理由

 * 黒瀬灯が十九歳へ到達する時点に何が起きるか

 * 第六署名予定者の成立が、黒瀬灯の学籍および未来の選択とどう関係するか

 * 未発行となった十二大学共同正規学籍の今後の扱い

 * 五件を代表個体なしで登録したことによる、共同学籍網への長期的影響

 * 現在の黒瀬零が第四候補との再戦で勝利できるか


 最後の項目について、第四候補は、


 ――今のままなら、また俺が勝つ。


 と回答している。


 黒瀬零本人は、


 ――次は勝つ。


 と回答している。


 神代緋月は、両名に対して、


 ――治療が終わるまで再戦は認めない。


 と回答している。


 第四候補および黒瀬零による異議は、医療記録上、棄却されている。


 ⸻


 追記


 本資料では、五人を区別するため、所属、時点、仮称、出身領域などを併記している。


 しかし。


 呼び分けられることと、相手の全てを理解したことは同じではない。


 氏名を知ることも。


 学籍番号を与えることも。


 過去を参照することも。


 本人の答えを聞く代わりにはならない。


 第四章において、共同学籍網は五人を一人へ戻せなかった。


 五人が全て異なるからではない。


 共通するものを持ったまま。


 異なる現在を選んでいたからである。


 同じ名を持つ者も。


 まだ名を選ばない者も。


 過去を多く保持する者も。


 現在の責任を引き受ける者も。


 与えられた座標から離れ、自分の立つ場所を選ぶ者も。


 誰か一人の正しさへ、残り四人を従属させる必要はない。


 五人は、五人として記録された。


 その一方。


 六枚目の署名欄には、現在も氏名が記されていない。


 空欄は、回答が存在しないことを意味しない。


 未来の予定を先に書き込むための場所でもない。


 本人がまだ存在しない以上。


 現在の者たちにできるのは。


 本人の代わりに答えることではない。


 本人が答えられる時まで。


 何も奪わず。


 何も決めず。


 欄を残すことである。


 五人は、それぞれの帰る場所へ向かった。


 六つ目の空白だけが。


 まだ見ぬ本人の声を待っている。


 回答。


 未提出。


 ⸻


 第四章 《学術都市》《第四候補》編 完


 次章――《公理階層》《第六候補》編

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