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『神律大学の未証明者《アンプローヴン》』   作者: 仕儀の反駁
第二章《第零学部》《第一観測圏》編

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第二十四話 設定資料集Ⅱ――《第零学部》《第一観測圏》編

帝都神律大学・新入生向け学内資料

追加分類:第零学部関連記録/上位観測災害・特別審理事例


 本資料は、黒瀬零が《第零学部》へ到達し、《第一観測圏》における査読審理を経て帰還した時点までに確認された人物・制度・施設・`命題(テーゼ)`・世界構造・事件を整理したものである。


 なお、本資料には、現在の帝都神律大学が公式には観測していない領域に関する情報が含まれる。


 記載内容を閲覧した結果、以下の症状が生じた場合、速やかに《未定義現象研究室》へ連絡すること。


・自分が一人ではないように感じる

・過去の選択を、別の自分が行った記憶を持つ

・天井の向こうに巨大な円環が見える

・周囲の人物が「資料」として読める

・沈黙を同意として処理したくなる

・友人関係を観測上の汚染と判断する


 ただし。


 連絡先が世界記録から消失している場合は、《第零学部》の扉が現れるまで、その場で結論を出さず待機すること。



一、《第零学部》


 帝都神律大学の正式な学部一覧に存在しない学部。


 第一章終了時点では、以下の相互に矛盾する記録のみが確認されていた。


・設立前に計画が中止された

・過去に存在したが廃止された

・現在も非公開で活動している

・最初から存在していない


 第二章において、黒瀬零は実際に《第零学部》へ到達した。


 ただし。


 《第零学部》は、通常の意味で大学構内の一地点に存在する施設ではない。


 既存の学部。


 大学の公式記録。


 世界の歴史。


 採択された結論。


 これらのいずれにも所属しない問いが発生した際、その問いと関係する者の前に入口が成立する。


 現在確認されている主な研究対象は、以下のとおり。


・証明されていない存在

・世界記録から除外された人物

・同一人物から分岐した複数の現在

・採択後に生じた再選択

・棄却された可能性

・審理対象から除外された当事者

・査読主体自身の意思

・唯一の正解によって消された回答

・結論へ至る以前の未確定な問い


 《第零学部》は、正解を教える学部ではない。


 既に正解とされたものについて、


 その答えは、誰を数から外して成立したのか。


 その結論は、誰の選択を経て確定したのか。


 という問いを再び開くための学部である。



《世界原理学科》


 《第零学部》に属するとされる学科。


 第一章では、黒瀬灯の学生証に記載された所属先としてのみ確認されていた。


 第二章においても、正式な授業内容、教員名簿、卒業要件などは判明していない。


 ただし、《第零学部》内部に表示された記録から、研究対象は個別の自然現象ではなく、


 世界が、どのような前提によって世界として成立しているか。


 一つの歴史や法則が、なぜ正しいものとして採択されるのか。


 という根本的な問題であると推測される。


 現在の黒瀬灯が、本当に《世界原理学科》へ在籍していたのか。


 あるいは、《外部観測基準》として再配置された後に、その所属記録が与えられたのか。


 現時点では判明していない。



《第零学部》共同証明制度


 通常の大学では、一つの学生番号は一人の学生へ与えられる。


 《第零学部》では、黒瀬零たちの入学審理を通じて、


 一つの未解決命題に対し、複数の当事者が共同で証明へ参加できる。


 という新しい登録形式が成立した。


 現在登録されている研究命題は、


 黒瀬灯と、その兄たちは、誰にも選択を奪われず共に生きられるか。


 である。


 共同証明者として確認されているのは、以下の三名。


・現在の黒瀬零

・三年前の黒瀬零

・黒瀬灯


 その後、以下の二名も、未登録同行者および共同審理対象として《第零学部》へ接続した。


・採択領域から離脱した黒瀬零

・《第一査読官》


 なお。


 同じ顔と名前を持つ黒瀬零が三名存在することについて、学務記録局は正式な学生番号の発行を保留している。


「同一人物を一名として統合すればよい」という提案は、本人たちの現在意思を消去する可能性があるため、採用されていない。



二、世界構造の基礎情報


 第二章では、これまで一つの宇宙と考えられていた世界の外側に、複数段階の構造が存在することが確認された。


 各構造は、単純に空間が広い、宇宙の数が多いという関係ではない。


 上位の構造は、下位の現実を以下のものとして扱う。


・改稿

・論文

・研究資料

・査読対象


 下位世界にとって現実であるものが、上位からは読まれ、採点され、採択または棄却される記録となる。



《改稿》


 一つの独立した歴史および可能性宇宙。


 選択。


 時間分岐。


 歴史の変化。


 自然法則の差異。


 成立条件の変更。


 これらによって生じた、それぞれ異なる世界が一つの《改稿》として扱われる。


 一つの《改稿》は、内部から見れば完全な宇宙である。


 そこに生きる者にとって、自身の歴史は原稿でも仮説でもなく、現実そのものである。


 現在の検索結果では、以下のように表示されている。


 ――《最終改稿》を検索。


 ――該当する宇宙は存在しない。


 すなわち、《改稿》の分岐には確認可能な終端が存在しない。



《世界論文》


 共通する一つの根本前提から派生した、無限の《改稿》を内包する世界構造。


 例えば、


 黒瀬灯が存在する。


 黒瀬灯が存在しない。


 そもそも黒瀬灯という人物が成立し得ない。


 といった根本前提が異なる場合、それらは単なる歴史分岐ではなく、別の《世界論文》へ分類される可能性がある。


 一つの《世界論文》の内部で、宇宙が終端なく分岐しても、それらは同じ論文に対する異なる《改稿》として扱われる。



《世界研究領域》


 異なる根本前提から提出された、無限の《世界論文》を内包する領域。


 正式な規模記述は、以下のとおり。


 無限の《改稿》を内包する《世界論文》。


 その《世界論文》さえ、無限に提出され続ける終わりなき《世界研究領域》。


 《世界研究領域》は、単なる平行宇宙の集合ではない。


 世界を成立させる前提そのものが異なる、無限の《世界論文》を研究対象として保持する領域である。



《第一観測圏》


 無限の《世界研究領域》を内包する、最初の上位観測審級。


 《第一観測圏》は、一つの《世界研究領域》に含まれる以下の全てを、《総体資料化》によって一件の査読資料として扱う。


・無限の《世界論文》

・各《世界論文》に内包される終端なき《改稿》

・それらに存在する生命

・歴史

・自然法則

・観測主体

・世界の根本命題


 下位世界の内部で、宇宙や歴史がどれほど無限に拡張しても、それだけで《第一観測圏》へ到達することはできない。


 両者の差は、同じ現実内における大きさの差ではなく、


 生きられている現実と、それを記した査読資料。


 という質的な隔たりである。


 ただし。


 黒瀬零たちは、下位世界から自力で《第一観測圏》まで移動したわけではない。


 《第一観測圏》側から審理対象として召喚され、開かれた審理関係を通じて異議を申し立てた。



《総体資料化》


 《第一観測圏》が、一つの《世界研究領域》を査読可能な一資料へ変換する処理。


 対象となるのは、世界の物質だけではない。


・全宇宙

・全歴史

・全法則

・全生命

・全観測記録

・根本前提

・可能性分岐


 これらまで含めて、一件の提出資料として変換される。


 《総体資料化》された下位世界は消滅するわけではない。


 しかし。


 上位審級からは、一つの記録として読解・修正・採択・棄却できる状態になる。



《観測階序》


 《第一観測圏》の上位には、《第二観測圏》が存在する。


 さらに。


 《第二観測圏》の上位にも、別の《観測圏》が存在する。


 各上位観測圏は、直下の一領域だけではなく、それまでに存在する下位観測構造全体を一件の査読資料として扱う。


 第二章終了時点での検索結果は、以下のとおり。


 ――《最終観測圏》を検索。


 ――該当する審級は存在しない。


 ――任意の《観測圏》に対し、上位観測圏の存在を確認。


 この終端なく連なる《観測圏》の総体を、


 《観測階序》


 と呼ぶ。


 《第一観測圏》は、《観測階序》の頂点ではない。


 確認された中で、最初に下位世界を直接査読する審級にすぎない。



《未提出領域》


 《世界論文》として書かれる以前。


 《改稿》として分岐する以前。


 存在と非存在。


 可能と不可能。


 採択と棄却。


 それらの区別が与えられる以前の状態。


 ただし。


 《未提出領域》を、


 まだ生まれていない世界が無限に並ぶ場所。


 と理解するのは正確ではない。


 そこでは、何かが「可能性」であることさえ確定していない。


 世界になるのか。


 仮説になるのか。


 何にもならないのか。


 その区別自体が、まだ提出されていない。


 したがって。


 《未提出領域》が通常の意味で一つの場所や空間として存在するかどうかも、確定していない。


 《終理予備審査》は、最終回答と一致しない潜在状態を、提出以前に棄却しようとした。


 しかし。


 特定の潜在状態を棄却するには、以下の処理が必要になる。


・棄却対象を発見する

・他の未提出状態から区別する

・審査対象として識別する

・最終回答との不一致を判定する


 この処理によって、棄却する側が自ら未提出状態へ審査対象としての同一性を与える矛盾が発生した。


 黒瀬零は、


 未提出仮説は存在する。


 という結論を採択したわけではない。


 同時に、


 未提出仮説は存在しない。


 という結論も認めなかった。


 何になるのかを、その対象自身が決める以前に、外部から採択または棄却する処理を保留した。



《終理予備審査》


 黒い月という輪郭を取って顕れた《終理観測者アレテイア》が、《第一観測圏》の審理へ適用した予備審査形式。


 回答が得られない場合、


 回答者を待つ。


 のではなく、


 回答以外が生まれないよう、異なる可能性を提出以前に処理する。


 ことを目的としていた。


 第二章では、以下の処理が確認された。


・無回答を現行結論への同意として扱う

・再選択を不整合として消去する

・最終回答と異なる可能性を提出前に棄却する


 なお。


 《終理予備審査》が《未提出領域》へ接触できたことは、《第一観測圏》そのものが《未提出領域》と同格、またはその上位にあることを意味しない。


 また。


 《終理観測者アレテイア》が、《観測階序》のさらに上位に位置していることを意味するものでもない。


 黒い月として顕れた《アレテイア》の意志が、


 総てを唯一の最終回答へ収束させる。


 という現在の方針を、《第一観測圏》の審理だけでなく、《未提出領域》へも適用しようとした結果である。


 《観測階序》の上位・下位。


 世界の内部・外部。


 提出済み・未提出。


 こうした区別が、《アレテイア》自身へそのまま適用できるかどうかは、第二章終了時点では判明していない。



末端回答投影


 黒瀬零たちが、《未提出領域》において、黒い月として顕れていた最終回答の方針と、《終理予備審査》を結びつける関係へ干渉した結果、認識した接触形式。


 白い巨大講義室として認識された。


 ただし。


 実際に、どこか別の場所に講義室が存在したわけではない。


 また。


 黒い月の奥に、別の空間や本体が隠されていたわけでもない。


 黒瀬零たちが理解可能な形式へ変換された、


 《終理観測者アレテイア》との接触面。


 である。


 内部には、


 この世界は、正しいか。


 という問いと、


 正しい。


 という回答が表示されていた。


 論証。


 反証。


 途中経過。


 回答者の意思。


 それらは記載されていなかった。


「末端」という名称は、《アレテイア》から切り離された一部分や分身であることを意味しない。


 現在の黒瀬零たちが理解できた範囲が、《アレテイア》の自己顕現のうち、極めて限定された一面にすぎなかったことを示す便宜的名称である。


 末端回答投影。


 黒い月。


 《終理予備審査》を通じて響いた声。


 これらは、互いに切り離された別存在ではない。


 同じ《終理観測者アレテイア》が、異なる審理状況に応じて、黒瀬零たちに理解可能な輪郭として顕れたものである。


 したがって。


 この投影のみから、《アレテイア》を一つの姿・空間・階層・座標へ限定することはできない。



三、上位観測に関係する存在


《第一査読官》


 《第一観測圏》に属する査読機構。


 本名は存在しない。


 《第一査読官》は役職名であると同時に、現在確認されている唯一の識別名でもある。


 本来の役割は、無限の《世界研究領域》を査読し、採択または棄却すること。


 物質的な破壊よりも、以下の事項を決定する。


・世界が正しい仮説として参照されるか

・上位審級から因果的に認識されるか

・証拠として扱われるか

・誤った仮説として切り離されるか


 当初、《第一査読官》は黒瀬零たちを査読対象として扱っていた。


 しかし、審理の過程で、以下の手続上の矛盾を確認した。


・当事者を除外したまま、当事者の幸福を判定している

・採択済みという理由で、再選択を審理しない

・回答者の沈黙を同意へ変換している

・審理対象の定義を、既に正しいと仮定した回答によって決めている


 査読規程を守ろうとした結果、《終理予備審査》の命令へ異議を申し立て、黒瀬零たちの審理記録を回収した。


 帰還時。


 自分自身を単なる記録主体として除外しようとしたが、黒瀬灯から、


 自分を数から消さないで。


 と告げられた。


 その結果、《第一査読官》は初めて自分自身を審理当事者として記録した。


 現在は、《第一観測圏》への帰還経路を失い、《第零学部》へ仮所属している。


 ただし。


 本人は、黒瀬零たちの仲間になったと正式には認めていない。


 現在の関係について、


 審理中。


 と回答している。



《分離査読官》


 《第二観測圏》から派遣される予定の上位査読機構。


 第二章終了時点では、金色の栞と通知文のみが確認されている。


 派遣理由は、


 《第一査読官》が査読対象と関係を形成し、観測上の独立性を失った。


 と判定されたため。


 上位通知では、《第一査読官》と黒瀬零たちの関係を、以下のように分類している。


・機構汚染

・不正結合

・査読主体の逸脱


 《分離査読官》の目的は、《第一査読官》を破壊することとは限らない。


 名称および通知内容からは、


 査読主体と査読対象の間に生じた関係を切断し、《第一査読官》を本来の機構へ戻す。


 処理を行うと推測される。


 ただし。


 本人の意思を無視して関係を切断する場合、《第零学部》の研究対象となる。


 到着予定は、


 次回講義開始時。



黒い月


 《第一宇宙観測環》上空に、巨大な黒い月として顕れた輪郭。


 第一章では、世界の外部から内部を観測する何者かのように認識されていた。


 しかし、第二章において。


 黒い月は、独立した観測端末でも。


 分身でも。


 《アレテイア》の一部分でもないことが判明した。


 黒い月は、


 《終理観測者アレテイア》自身の意志が。


 《第一観測圏》の審理において。


 黒瀬零たちが認識可能な輪郭を得て顕れた自己顕現。


 である。


 主に確認された処理は、以下のとおり。


・審理対象の召喚

・採択済み結論の維持

・再選択の不整合判定

・無回答の同意化

・《終理予備審査》の実行

・《未提出領域》への審査対象拡張

・唯一の最終回答と異なる可能性の棄却


 黒い月という輪郭が揺らいだことは、別の場所に存在する《アレテイア》の本体へ損傷を与えたことを意味しない。


 黒瀬零たちの反証によって乱れたのは、


 総てを唯一の回答へ収束させる現在の方針を。


 黒い月として。


 この審理へ顕していた輪郭。


 である。


 黒い月の背後に、別の本体が存在するわけではない。


 黒い月そのものが、その審理において輪郭を得て顕れた、同じ《終理観測者アレテイア》である。



《終理観測者アレテイア》


 世界。


 歴史。


 法則。


 選択。


 可能性。


 現在確認されている作中世界との関係において、それら全てを一つの正しい最終回答へ収束させようとする意志として顕れた観測主体。


 黒い月。


 末端回答投影。


 《終理予備審査》を通じて響いた声。


 これらは、《アレテイア》の分身・端末・複製ではない。


 いずれも同じ《終理観測者アレテイア》である。


 ただし。


 一つの審理において示された輪郭だけで、《アレテイア》を完全に説明できるわけではない。


 《アレテイア》の全存在を収容する本体が、別の空間や階層に存在するという意味でもない。


 《アレテイア》を、以下のいずれかに配置できることを示す記録は存在しない。


・特定の空間

・特定の階層

・特定の座標

・《観測階序》の最上段


 第二章終了時点で確認されたのは、


 《終理観測者アレテイア》


 という識別名と、


 総ての問いを唯一の最終回答へ収束させようとする現在の方針。


 である。


 《終理観測者》という名称と、この現在の方針だけで、《アレテイア》の全存在および本質を言い尽くせるかどうかは確認されていない。


 《アレテイア》は、現在の方針において、


 複数の選択肢が存在するから争いが起きる。


 異なる答えが存在するから後悔が生じる。


 再選択できるから、決断は終わらない。


 と判断している。


 そのため。


 苦しみを終わらせる方法として、


 正しい答えを一つだけ残し、それ以外を採択以前に除外する。


 という方針を取っている。


 悪意によって世界を破壊しているわけではない。


 一つの正しい答えへ収束することが、複数の可能性を残すよりも慈悲深いと判断している。


 黒瀬零たちとの対立は、


 善意か悪意か。


 ではなく、


 本人の選択を経ずに与えられた正解を、救いと呼べるか。


 という点にある。



四、黒瀬灯の消失に関する新情報


《外部観測基準》


 世界の正しさを判定するため、観測対象となる世界の記録・因果・関係から外部化された基準。


 歴史。


 自然法則。


 生命。


 観測主体。


 これらは世界内部で変化するため、完全に不変な測定基準としては使用できない。


 《終理観測者アレテイア》は、現在の最終回答方針において黒瀬灯を世界の記録・因果・関係から外部化し、


 黒瀬灯が観測対象内に存在しない状態。


 を基準値として設定した。


 これにより、各世界が最終回答からどれほど偏差しているかを測定している。


 《終理観測者アレテイア》は、黒瀬灯を消去したとは表現していない。


 しかし。


 灯本人から見れば、以下の結果は消去と区別できない。


・家族から忘れられた

・写真から消えた

・戸籍から除外された

・友人との関係を失った

・自分の意思を審理されなかった


灯が選ばれた理由


 現時点では完全には判明していない。


 確認されているのは、以下の点。


・《第零学部・世界原理学科》との関係

・世界の内部と外部の両方へ接続できる性質

・黒瀬零の`未証明(アンプローヴン)`と深い関係を持つ

・外部化後も自己認識が完全には消えていない

・複数の《世界研究領域》を比較する基準として使用されている


 なぜ黒瀬灯でなければならなかったのか。


 灯が《外部観測基準》となる以前に、本人の同意が存在したのか。


 《第零学部》が《アレテイア》の選択に関与したのか。


 現時点では未証明。



《終理観測者アレテイア》の正解が灯を数えない理由


 黒瀬灯は、世界を判定するための基準として使用されている。


 基準値が自ら変化し、拒否し、回答すると、測定結果が安定しない。


 そのため、《終理観測者アレテイア》は、


 灯が人間であること。


 自体は否定していない。


 その上で、


 人間としての意思や選択は、基準機能に不要である。


 と判断している。


 すなわち。


 《終理観測者アレテイア》は灯を物と誤認しているのではない。


 人間であると理解したまま、回答者として数えていない。


 黒瀬灯は、この処理について、


 答えられない人を数から外し、違う答えを言う人を審理の外へ出して、残った者だけで全員が同じ答えだったと記録している。


 と指摘した。


 この異議により、末端回答投影に示された最終回答は、


 審理当事者の定義が未確定である。


 として、《第一査読官》から査読不能と判定された。



五、登場人物記録


黒瀬零


 法則災害学群一年。


 十八歳。


 《第零学部》共同証明者。


 三年前に世界から消えた妹・黒瀬灯を証明するため、帝都神律大学へ入学した。


 第二章では、《第零学部》へ到達し、自分と同じ記憶・起源を持つ別の黒瀬零と対面した。


 さらに。


 灯を完全に消すことへ成功し、世界を救った《世界研究領域》の黒瀬零とも対面している。


 零は、


 本物が一人でなければならない。


 という前提を拒絶した。


 現在の自分。


 三年前の選択を保持する自分。


 正しい世界の代表として採択された自分。


 そのいずれも、現在の選択を持つ黒瀬零として認めた。


性格


 第一章と同様、基本的には常識的。


 ただし。


 世界の上位審級。


 最終回答。


 未提出の可能性。


 これらへ異議を申し立てることに慣れ始めている。


 大学事務への対応には慣れていない。


現在の課題


・黒瀬灯を世界へ完全に復帰させる

・《アレテイア》が灯を選んだ理由を解明する

・《アレテイア》へ再び問いを届かせる方法を探す

・《観測階序》の構造を調査する

・《第一査読官》の回収を阻止する

・《分離査読官》の目的を確認する

・三名の黒瀬零の学籍問題を解決する

・《第零学部》の学部長が存在するか確認する

・第一章の共同論文を提出する


 最後の項目は、世界の最終回答へ異議を申し立てた後も免除されていない。



三年前の黒瀬零


 現在の黒瀬零と同じ起源を持つ存在。


 赤い右目が特徴。


 三年前。


 黒瀬灯を消すという選択を実行した責任と記録を保持している。


 現在の零が、


 灯は存在しなかった。


 という結論を拒み続けたのに対し。


 三年前の零は、


 自分が灯を消そうとした。


 という事実を失わない側へ分岐した。


 一度成立。


 観測。


 識別された事実や責任を保存できる。


 ただし。


 存在しなかったものを、新しい事実として作ることはできない。


 《未提出領域》では、《終理予備審査》が棄却するために特定した潜在状態を、


 審査対象として識別された事実。


 として保存した。


 灯へ許しを求めているわけではない。


 灯が自分を許すか。


 拒絶するか。


 罰するか。


 その選択を本人へ返すことを目的としている。



採択領域から離脱した黒瀬零


 黒瀬灯を完全に消し、世界を安定させた《世界研究領域》の黒瀬零。


 その領域では、灯を消した結果として大規模な世界崩壊が回避された。


 生存率。


 社会の安定性。


 世界法則の整合性。


 いずれも高い値を示し、成功世界として《第一観測圏》に採択された。


 ただし。


 算定された生存率には、消去された黒瀬灯が含まれていなかった。


 また。


 採択領域の零は、灯を消したことを後悔しなかったのではない。


 灯を思い出す記憶。


 選択を疑う感情。


 喪失の意味。


 それらが採択結果を維持するために、継続的に修正されていた。


 第二章において。


 現在の黒瀬零たちとの審理を通じ、自分が何度も疑問を消されていた事実を知る。


 その後、


 今は、灯を消したくない。


 と自ら選び直した。


 現在。


 出身《世界研究領域》への接続は失われている。


 戸籍。


 学籍。


 帰還先。


 いずれも存在しない。


 帝都神律大学では、未登録同行者として扱われている。



黒瀬灯


 黒瀬零の妹。


 三年前。


 戸籍。


 写真。


 映像。


 家族の記憶。


 交友関係。


 生活痕跡。


 世界内の因果。


 これら全てから除外された。


 第二章において、《外部観測基準》として再配置されていることが判明した。


 灯本人は、観測基準となることへ同意していない。


 《アレテイア》に対し、


 私は基準ではない。


 黒瀬灯は私の名前である。


 生きたいと答えても数えられないなら、それは正解ではない。


 と主張した。


 現在。


 帝都神律大学内部では複数人から認識可能。


 ただし、大学外部の戸籍や社会記録とは完全には接続されていない。


 単独で《第零学部》と通常世界の境界を越えた際、一度存在が見えなくなった。


 その後、以下の作用によって再び認識可能となった。


・現在の零による結論保留

・三年前の零による記録保存

・採択領域から離脱した零による現在認識

・《第一査読官》による審理当事者登録


現在の課題


・人物として世界へ復帰する

・《外部観測基準》としての扱いを解除する

・三年前の零を許すかどうか自分で選ぶ

・三名の兄を識別する

・《第一査読官》へ感情と関係を教える


 最後の項目は、本人が正式に研究課題と認めたものではない。



《第一査読官》


 《第一観測圏》の査読機構。


 白い人型として認識される。


 本来は感情や生活を必要としない。


 しかし。


 黒瀬零たちとの審理を通じて、以下の変化が確認された。


・自分自身を審理対象へ含める

・上位命令の妥当性を疑う

・帰還するか滞在するかを自ら判断する

・誰かの言葉を査読記録へ変換せず聞く

・《第零学部》から退去しない選択を行う


 《第二観測圏》は、この状態を機構汚染と判定している。


 現在の《第一査読官》は、


 《第一観測圏》の機構であること。


 と、


 《第零学部》の共同審理対象であること。


 の両方を保持している。


 どちらか一方へ統合する結論は保留中。


理解を進めている語句


・自己申告

・歓迎

・居場所

・帰る

・仲間

・一緒にいる

・迎えに行く

・事務手続


 最後の語句については、理解より先に警戒を覚えた可能性がある。



九条澄玲


 法則基礎学部一年。


 第二章では、《第零学部》内部の審理へ直接同行していない。


 ただし。


 黒瀬零たちの帰還後、《第一観測圏》で得られた記録の理論解析へ参加する予定。


 `世界は解を持つ(エウレカ)`が、


 問題として定義できない未提出状態。


 や、


 回答者自身が審理対象から除外されている問題。


 に対して、どのように作用するかは未検証。


 本人は、《第一査読官》へ直接質問するための項目を、既に百件以上作成していると推測される。



神代緋月


 《未定義現象研究室》管理責任者。


 第二章では、《第一観測圏》による校正線へ干渉し、黒瀬零たちの関係記録を一時的に支援した。


 `万象校正(エメンダティオ)`は、比較基準が存在する場合に矛盾を修正できる。


 しかし。


 《第一観測圏》が世界全体を誤った仮説として棄却する場合、世界内部の正常記録だけでは対抗できない。


 また。


 《未提出領域》のように、存在と非存在の区別自体が定まっていない対象は、通常の校正基準を持たない。


 緋月は、三年前の事件について現在も全情報を開示していない。


 黒瀬灯が《外部観測基準》へ再配置された経緯に、《第零学部》と緋月の失われた右目が関係している可能性が高い。



獅堂剛毅


 命題兵装学科一年。


 第二章では、《第一観測圏》の審理へ直接同行していない。


 黒瀬零たちの帰還後。


 三人に増えた黒瀬零より、正体不明の《第一査読官》を先に危険視した。


 一方。


 黒瀬灯の生存を確認した際には、現在の大学記録よりも本人の存在を優先している。


 `万象は我が礎(グランド・レガリア)`が、上位観測圏との支持関係へどこまで干渉できるかは未検証。


 ただし。


 第一章で世界外部から届いた観測視線を礎として扱った実績があるため、今後の上位観測災害において重要な役割を持つ可能性がある。



六、確認済みの`命題(テーゼ)`と能力変化


黒瀬零


`未証明(アンプローヴン)`


第一章終了時点の解釈


 確定しようとする複数の結論について、


 どの結論が真実として採用されるか。


 という判定を一時的に保留する。


第二章で確認された変化


 死亡。


 敗北。


 存在消去。


 といった最終結果だけでなく。


 その結論を成立させる前提そのものへ干渉し始めている。


 確認された対象は、以下のとおり。


・査読者は観測対象を一方的に裁ける

・一人の学生番号は一人の人格にのみ与えられる

・採択済みの結論は再選択できない

・採択後に生じた意思は不整合である

・無回答は現行結論への同意である

・未提出仮説は存在しない

・《外部観測基準》は審理当事者ではない

・査読機構に自己選択権は存在しない


 現在の`未証明(アンプローヴン)`は、


 与えられた結論を遅らせる能力。


 から、


 誰が、どの前提によって、その結論を確定したのかを問い直す能力。


 へ拡張し始めている。


 ただし。


 零自身が新しい正解を一方的に与えることはできない。


 存在しないという結論を止めても、存在するという結論を勝手に採択してはならない。


 対象自身の選択と、別の可能性へ至る行動が必要となる。


 `未証明(アンプローヴン)`は、自分へ強制されようとする結論を、物理現象が完成する以前に知覚する能力がある。


 研究室で弾丸へ対応できたのは、飛翔する弾丸を通常の視覚だけで追跡したのではなく、


 弾丸によって黒瀬零が撃ち抜かれる。


 という結論を、成立前に認識したためと考えられる。


 また。


 保留中には、結論成立までの論理的な余白を主観的思考時間として利用できる。


 《終理照会》の一秒未満の期限内に、複数人で議論と反証構築が可能だったのは、このためである。



三年前の黒瀬零


 能力名は未確定。


 現在確認されている性質は、以下のものを保存すること。


 成立した事実。


 識別された記録。


 引き受けた責任。


保存可能な例


・黒瀬灯が存在した記録

・灯を消そうとした自分の選択

・《終理予備審査》が特定した未提出状態

・三名の黒瀬零が別々の現在を選んだ事実

・黒い月として顕れた最終回答の方針と、《終理予備審査》を結ぶ関係が存在した記録


保存できない例


・一度も存在・観測・識別されていない事実

・起こらなかった出来事を、起きたものとして捏造すること

・他者が選んでいない意思

・自分にとって都合のよい過去


 正式な`命題(テーゼ)`名および分類は、現在未登録。



採択領域から離脱した黒瀬零


`自証座標(アクシス・エゴ)`


 現在の黒瀬零と同じ技術名を使用する。


 ただし。


 採択領域の零は、世界から与えられた、


 成功した黒瀬零。


 灯を消したことを後悔しない代表者。


 という役割を拒絶し、


 灯を消し、世界を救い、その正しさを疑い、再選択した現在の自分。


 を存在座標として固定した。


 その後。


 出身領域が採択記録として維持できなくなっても、自分自身の現在を保持している。



七、確認済みの固有技


黒瀬零


`不定墜道(パラドクス・フォール)`


 第一章で確認された空中移動法。


 落下という結論を一時的に保留し、以下の要素を利用して、落下方向を連続的に選び直す。


・重力方向

・物体との衝突

・反作用

・次の落下先

・複数の位置候補


 第二章では主に審理戦が中心となったため、大規模な使用は確認されていない。


 ただし。


 物理的な移動ではなく、論理的な結論の経路を複数へ分岐させるという原理は、上位審理への対抗にも共通している。



黒瀬零


`自証座標(アクシス・エゴ)`


 世界記録。


 他者から与えられた役割。


 採択領域の代表記述。


 それらではなく、


 現在の自分が何者であるか。


 を自己認識へ固定する技術。


 第二章では、以下の目的で使用された。


・三人の黒瀬零の存在境界を保持する

・採択領域代表という役割から離脱する

・灯を人間として認識する現在を固定する

・世界を失った後も自分を保持する


 ただし。


 現段階では、完全に外部から独立した自己証明ではない。


 現在の記憶。


 他者との関係。


 本人の選択。


 これらを必要とする。



八、第二章の重要事件


《第零学部》第三入学審理


 黒瀬零が《第零学部》へ到達した後に行われた審理。


 課題は、


 本物であることを証明せず、黒瀬零であることを証明せよ。


 一枚の答案。


 一本の筆記具。


 七十二時間。


 提出者として登録できる黒瀬零は一人。


 敗れた側は、黒瀬零としての全記録を失う。


 という条件が与えられた。


 審理の過程で、現在の零と三年前の零が、同じ起源から分岐した存在であることが判明した。


 両者は、どちらか一方だけを本物とする結論を拒絶。


 黒瀬零とは、


 与えられた結論を疑い、自分で選び直し続ける者。


 であると共同で論証した。


 最終的に。


 一つの学生番号は一人の人格に属する。


 という前提そのものを保留。


 一つの未解決命題へ、複数の共同証明者を登録する新制度を成立させた。



《第一観測圏》による棄却審理


 《第零学部》の新制度成立後。


 《第一観測圏》から白い校正線が降下。


 新しい共同証明制度を、下位世界の不整合として棄却しようとした。


 この処理は、物質を破壊するものではない。


 人物。


 関係。


 制度。


 歴史。


 意味。


 それらを、


 誤った仮説として上位審級から参照不能にする。


 処理である。


 黒瀬零は、


 観測者であることが、観測対象を一方的に裁く正当性を保証する。


 という前提へ異議を申し立てた。


 その結果。


 現在の零。


 三年前の零。


 黒瀬灯。


 三名は《第一観測圏》の査読廷へ召喚された。



採択領域比較審理


 黒瀬灯の消去に完全成功した《世界研究領域》が、比較資料として提示された。


 その領域では、以下の内容が記録されていた。


・黒い月による異常が発生していない

・世界の安定性が高い

・多数の生命が生存している

・黒瀬零が灯の消去を後悔していない


 しかし。


 審理の結果、以下の事実が判明した。


・生存率の計算から黒瀬灯が除外されている

・灯の意思を奪うことが必要だったとは証明されていない

・実行者である零が記憶を失い、再評価できない

・採択結果を維持するため、疑問が継続的に削除されている


 採択領域の零は、自ら再選択を要求。


 採択済みの世界の代表記述から、一人の当事者へ戻った。



《終理照会》


 黒い月として顕れた《終理観測者アレテイア》が、《第一観測圏》に含まれる無限の《世界研究領域》へ実行した照会。


 問いは、


 現在の世界を選び続けるか。


 回答期限は一秒。


 回答がない場合、現行結論への同意として処理される。


 黒瀬零は、


 沈黙は同意である。


 という前提へ異議を申し立てた。


 黒瀬灯は、沈黙を新しい回答分類へ変えるのではなく、


 回答者が答えなかったのではない。


 質問者が、まだ回答を受け取っていない。


 という《回答未受領》の状態を提示。


 意思確認の責任を、回答者ではなく質問者へ戻した。


 結果。


 明示的同意。


 明示的拒絶。


 再審査要求。


 回答未受領。


 それらが混在し、唯一の結論を完成できなくなった。



《未提出領域》棄却事件


 回答を得られなかった《終理観測者アレテイア》が、


 答え以外を生まれなくする。


 という現在の方針に基づき、《未提出領域》へ審査対象を拡張。


 最終回答と一致しない潜在状態を、提出以前に棄却しようとした。


 しかし。


 棄却対象を特定する行為そのものが、その潜在状態を一つの審査対象として区別する矛盾が発生。


 黒瀬零たちは、


 棄却印を押すためには、まず何を棄却するのかを見つけなければならない。


 と指摘した。


 一括棄却も同様。


 《未提出領域》全体を対象と宣言した時点で、領域全体を一資料として定義することになる。


 最終的に。


 《終理予備審査》による一括棄却は停止した。



末端回答投影接触事件


 黒瀬零たちは、《終理予備審査》を成立させていた関係を発見。


 それは、黒い月の背後に存在する別の命令源や本体へ続く回線ではない。


 黒い月として顕れた《アレテイア》の現在の方針と、《終理予備審査》を結びつけていた関係である。


 現在の零による保留。


 三年前の零による関係記録の保存。


 採択領域から離脱した零による現在座標の固定。


 黒瀬灯による共同接触。


 《第一査読官》による再審理要求。


 これらを重ね、黒瀬零たちは末端回答投影として認識される接触面へ至った。


 そこで、以下の事実が判明した。


・黒瀬灯が《外部観測基準》として使用されていること

・《終理観測者アレテイア》が灯を審理当事者として数えていないこと

・採択世界の多くが、除外した者を計算対象から外して正しさを成立させていること


 黒瀬灯の異議により。


 末端回答投影に示された最終回答は、審理対象の定義が未確定であるとして査読不能となった。


 《第一査読官》は審理記録を回収し、黒瀬零たちと共に《第零学部》へ帰還した。



《第一査読官》回収命令


 《第一査読官》が《第零学部》へ滞在した後。


 《第二観測圏》から金色の通知が到着。


 《第一査読官》が査読対象との関係を持ち、観測上の独立性を喪失したと判定された。


 《第二観測圏》は、《第一査読官》を下位査読機構として回収しようとした。


 黒瀬零は、


 《第一査読官》は上位観測圏へ回収される。


 という結論を保留。


 代替可能性として、


 《第一査読官》本人が、帰るか残るかを選ぶ。


 ことを要求した。


 《第一査読官》は、


 現在、《第零学部》から退去する理由を確認していない。


 と回答。


 回収命令を保留した。


 これにより、《第二観測圏》は《分離査読官》の派遣を決定した。



九、第二章終了時点の人物関係


現在の黒瀬零と三年前の黒瀬零


 同じ起源から分岐した存在。


 現在の零は、灯の不存在という結論を拒絶し続けた側。


 三年前の零は、灯を消そうとした責任を保存した側。


 互いを偽物とは扱っていない。


 ただし。


 灯を救う方法。


 三年前の選択の評価。


 どちらの現在を優先するか。


 これらについては、今後も衝突する可能性がある。



現在の黒瀬零と採択領域から離脱した黒瀬零


 灯を消さなかった世界の零と。


 灯を消すことへ成功した世界の零。


 採択領域から離脱した零は、現在の零にとって、


 自分が別の選択をしていた場合の可能性。


 でもある。


 一方。


 採択領域から離脱した零にとって現在の零は、


 失った疑問を保持し続けた自分。


 に近い。


 同じ名前と能力を持つが。


 現在は、別々の意思と責任を持つ存在として扱われる。



三人の黒瀬零と黒瀬灯


 全員が灯の兄である。


 ただし。


 三人は、それぞれ以下の異なる記録を持つ。


・灯を取り戻そうとした兄

・灯を消そうとした兄

・灯を消して世界を救った兄


 黒瀬灯は。


 三人全員を兄として認識しているが。


 三人の選択を、同じものとして許したわけではない。


 特に。


 三年前の零および採択領域から離脱した零を許すかどうかは、現在も未決定。



黒瀬灯と《第一査読官》


 第二章で新たに生まれた関係。


 黒瀬灯は、《アレテイア》の現在の方針によって数から除外された当事者。


 《第一査読官》は、当事者を数から除外する審理へ従っていた査読機構だった。


 灯は、《第一査読官》へ、以下のことを教えた。


・自分を審理対象へ含めること

・自分自身を記録から消さないこと

・帰る場所を本人が選んでよいこと


 《第一査読官》は現在、灯を以下の三分類で認識している。


・《外部観測基準》

・審理当事者

・緊急連絡先


 最後の分類について、本人は妥当性を審理中。



黒瀬零と《第一査読官》


 当初は査読対象と査読主体。


 現在は、《第零学部》で行動を共にする共同審理者。


 零は、《第一査読官》が再び上位観測審級との命令関係を回復し、敵対する可能性を理解している。


 それでも。


 危険になるかもしれないという理由だけで、最初から排除することを拒んだ。


 《第一査読官》は、この判断を非合理と評価している。


 ただし。


 《第零学部》から退去する理由も確認していない。



十、現時点で残された謎


黒瀬灯は、なぜ《外部観測基準》に選ばれたのか


 灯が偶然選ばれたとは考えにくい。


 《第零学部・世界原理学科》。


 零の`未証明(アンプローヴン)`。


 神代緋月の失われた右目。


 三年前の事件。


 これらとの関係が推測される。


 灯自身が、《外部観測基準》となる以前に何かを選んだ可能性も否定できない。


 ただし。


 現在の灯には、その記憶が確認されていない。



黒瀬零だけが灯を記憶できた理由


 現在の有力な仮説は、零の`未証明(アンプローヴン)`が、


 黒瀬灯は最初から存在しなかった。


 という結論を、無意識に三年間保留し続けていたというもの。


 ただし。


 三年間の長期保留が、現在確認されている`未証明(アンプローヴン)`の条件で本当に可能なのかは不明。


 灯との関係そのものが、能力発動の前提となっていた可能性がある。



現在の零と三年前の零は、なぜ分岐したのか


 三年前の事件で。


 一人の黒瀬零が、


 灯を消す。


 灯が存在しなかったという結論を受け入れない。


 という両立しない選択を同時に抱えた結果、別々の現在へ分岐したと考えられる。


 しかし。


 人格分岐が《第零学部》の機能なのか。


 `未証明(アンプローヴン)`の作用なのか。


 灯の外部化による副作用なのか。


 現時点では判明していない。


《観測階序》の総体は、さらに何として扱われるのか


 第二章では、《観測階序》に終端が存在しないことが判明した。


 終端なく連なる観測圏全体が。


 さらに別種の構造によって、一つの対象として扱われる可能性については、現在の登場人物は確認していない。


 また。


 《終理観測者アレテイア》と《観測階序》全体の関係も不明。


 《アレテイア》を、《観測階序》の単純な上位へ配置できるのか。


 《観測階序》とは異なる関係によって接しているのか。


 あるいは。


 上位と下位という分類そのものが、《アレテイア》には適用できないのか。


 現段階で判断することはできない。


 ただし。


 黒い月や末端回答投影の背後に、《アレテイア》の別個体や本体が存在するという解釈は採用されない。


 黒い月も。


 末端回答投影も。


 同じ《終理観測者アレテイア》が、黒瀬零たちに理解可能な輪郭として顕れた自己顕現である。


 推測だけを公式資料へ記載することは禁止されている。


 本項目の直後に空白が残されている理由も不明。



「私を殺して」の意味


 黒瀬灯が第一章で零へ伝えた言葉。


 第二章で、灯が《外部観測基準》として使用されていることが判明したため、新しい解釈が追加された。


 現在考えられる意味は、以下のとおり。


・黒瀬灯の肉体を殺す

・灯の人格を消す

・《外部観測基準》としての機能を停止する

・《アレテイア》が灯へ与えた《外部観測基準》としての扱いを解除する

・「黒瀬灯は存在しない」という基準値を無効化する

・世界を測るための灯を終わらせ、人間としての灯だけを残す


 正解は、まだ判明していない。



第二章 《第零学部》《第一観測圏》編 完


次章――《第二観測圏》《分離査読官》編

ここまで読んでいただきありがとうございます。

次章もよろしくお願いします。

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