↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
49/95

残ったのは、数字と判断の記録だった

振り返ってみれば、俺が続けてきたことは、特別なことばかりではなかった。

荷物の到着実績を集める。

便ごとに整理する。

曜日や時間帯による違いを調べる。

日勤と夜勤の業務量を比較する。

その結果を資料にまとめ、改善のための判断材料として提出する。

一つひとつを見れば、地道な作業だった。

だが、それまで感覚や経験則で語られることの多かった問題を、数字で確認できるようにするには、記録を積み重ねる必要があった。

一日だけ荷物が多かったからといって、それを通常の状態だとは言えない。

反対に、荷物が少ない日があったからといって、いつも少ないとも言えない。

曜日による違いもあれば、便ごとの違いもある。荷物が集中する時間帯もあれば、付随する作業に人手を取られる時間帯もある。

だから、一定期間の実績を集め、条件をそろえて比較する必要があった。

その作業を続けたことで、夜勤の仕事を単純に「荷物が少ないから人員も少なくてよい」と片づけることはできなくなった。

少なくとも、実際の荷物量や重量、時間帯ごとの集中状況を確認したうえで、配置の必要性を検討するための材料はそろった。

それは、俺たちが残したものだった。

ただ、資料が残ったからといって、それだけで現場が変わるわけではない。

数字を見ても、何を重視するかによって判断は異なる。

配置を変更することもできるし、変更しないという判断もできる。

しかし、どちらを選ぶにしても、実績を確認し、判断の根拠を整理し、実施後の結果を確かめることはできるはずだった。

俺が残したかったのは、特定の結論を永久に正しいものとして固定する資料ではない。

その時点での実態を示し、条件が変われば再び検証できる資料だった。

荷物量が変われば、必要な人員も変わるかもしれない。

便の到着時間が変われば、作業が集中する時間帯も変わるかもしれない。

新しい人員配置を導入すれば、それまでとは違う問題が生じる可能性もある。

だから、過去の分析結果をそのまま当てはめ続けるのではなく、新しい実績を加えながら判断を更新していく必要があった。

改善とは、一度答えを出して終わるものではない。

実態を確認し、判断し、結果を検証する。

その繰り返しだった。

そして、その作業を続けるためには、記録を作った人間がずっと現場にいなければならない、という状態を避けなければならなかった。

俺がいなくなったあとでも、誰かが数字を確認できる。

必要であれば、同じ基準で集計できる。

過去と現在を比較し、配置の変更が妥当だったかどうかを検証できる。

そこまでできて初めて、数字は個人の手元にある資料ではなく、現場の運用を考えるための共通の材料になる。

もちろん、それを実現するには、資料を保管するだけでは足りない。

実際に使い、判断に反映し、結果を確認する人が必要だった。

数字を残すことはできる。

判断材料を整えることもできる。

しかし、その材料を使い続けるかどうかまでは、俺一人では決められなかった。

数字を残すことと、数字を生かし続けること。その間には、組織の判断と行動があった。

俺が続けてきた仕事は、そこで一つの区切りを迎えようとしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。