はじめに
はじめに
夜勤は、楽だと思っていた。
少なくとも、俺も最初から「夜勤は大変だ」と思っていたわけじゃない。
昼間より人が少ない。
夜中だから、荷物も少ない。
忙しい時間帯を過ぎれば、あとは落ち着いている。
そういう話は、昔から聞いていた。
「夜勤なんだから、そんなに荷物ないだろ」
そんな空気も、別に珍しくなかった。
俺自身も、どこかでそう思っていた。
だから、最初から何かを証明しようとしていたわけじゃない。
会社がおかしいと思っていたわけでもない。
ただ、あるときから、少しだけ引っかかるようになった。
――本当に、そうなのか。
夜勤は、本当に荷物が少ないのか。
夜勤は、本当に暇なのか。
その疑問は、最初は小さなものだった。
けれど、夜の現場にいると、どうしても目に入ってくる。
深夜から早朝にかけて、荷物が続けて入ってくる。
同じ時間帯に、いくつもの便が重なる。
一つ終わったと思ったら、また次が来る。
そして朝になる。
午前六時。
夜勤と日勤の境目。
そこで引き継ぐ。
そのとき、まだ残っている荷物がある。
そのあとにも、荷物は来る。
俺は思った。
「……これ、本当に夜勤のほうが少ないのか?」
そこで初めて、感覚ではなく、数字で見てみようと思った。
何時に来たのか。
何個来たのか。
何キロあるのか。
どの便なのか。
どの曜日に集中するのか。
夜勤と日勤では、実際にどちらがどれだけ処理しているのか。
最初は、ただ記録するだけだった。
紙に残す。
表にする。
数字を並べる。
一日分。
一週間分。
そして、一か月分。
やがて、それは一枚の表では収まらなくなった。
便別台帳。
時間帯分析。
FLの分析。
勤務比較表。
夜勤ダッシュボード。
気づけば、俺たちは「夜勤は大変だ」と訴えるためではなく、
夜勤で何が起きているのかを、数字で残すことを始めていた。
そして、数字は少しずつ、今まで聞いていた話とは違う顔を見せ始めた。
夜勤は、本当に暇なのか。
その答えを知っているのは、俺たちじゃなかった。
数字だった。
そして、その数字は、ずっとそこにあった。
ただ、誰も見ていなかっただけだった。




