↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
25/95

求人票が、答えを出していた

7月。

夜勤に入れていたタイミーをゼロにするよう求められた。

その後、今度は日勤側でタイミーが必要だという話になった。

夜勤の勤務時間を短くして、日勤へ振り分ける。

俺たちは、これまでの分析結果と現場の実態を踏まえて意見を伝えた。

夜勤は、ただ人数を減らせば済む仕事ではない。

荷物は何時に来るのか。

何個来るのか。

何トンあるのか。

どの時間帯に集中するのか。

付随作業で人が抜けたとき、仕分け能力はどこまで落ちるのか。

そうした条件を積み重ねて、必要な人員を考えてきた。

それでも、配置をめぐる話は続いた。

俺は、数字を出せばすべてが解決するとは思っていなかった。

数字を見ても、判断が変わらないことはある。

過去の経験もある。

現場ごとの事情もある。

人によって見ている荷物も違う。

だからこそ、同じ条件を見て判断できる材料を残そうとしてきた。

だが、現実は必ずしも、こちらの考えた順番では動かない。

そして、しばらくして。

求人が出た。

夜勤。

22時から翌6時30分。

募集人数、1名。

募集理由。

「欠員補充」。

……。

俺は、その言葉を見た。

欠員補充。

ずいぶん簡潔な言葉だった。

俺たちは、荷物の到着時刻を記録してきた。

個数を数えた。

重量を集計した。

便ごとの偏りを調べた。

夜勤と日勤の処理量を比較した。

時間帯ごとの集中を調べ、必要人数を試算した。

その結果を資料にまとめ、提出した。

そのあとに出てきた求人票には、理由が一言で書かれていた。

「欠員補充」。

もちろん、この求人だけで、過去の判断がすべて誤っていたと証明できるわけではない。

募集の背景には、その時点での人員事情もある。

求人票は、俺たちの分析結果を評価するために作られた資料ではない。

そこは分けて考える必要がある。

ただ、それでも。

夜勤の人員を確保する必要が生じ、実際に募集が行われた。

その事実は残った。

人員は、必要になったときに募集すれば、すぐに完成するものではない。

募集する。

応募がある。

採用する。

仕事を教える。

構内の配置を覚える。

荷物の流れを覚える。

便ごとの特徴を覚える。

実際の作業を経験し、判断できるようになる。

そこまで来て、ようやく一人の戦力として運用に組み込める。

人を一人入れることと、一人分の稼働能力がすぐに得られることは違う。

求人票の一行には、そこまで書いていない。

書いていないが、現場では、その時間も必要になる。

その後、夜勤一名、早朝帯一名、合計二名の募集も出ていた。

これも、日勤の募集ではない。

夜勤と早朝帯の募集だった。

早朝帯は、夜勤と日勤の間をつなぐような位置にある。

荷物が集中する時間帯をどう処理するか。

夜勤から何を引き継ぐか。

日勤が始まるまでに、どこまで作業を進めるか。

そこを考えれば、夜勤だけを切り離して人員を考えることにも限界がある。

夜の仕事は、朝になった瞬間に消えるわけではない。

夜に来た荷物は、誰かが処理しなければならない。

夜勤を減らせば、その分がどこかへ移ることもある。

だから、必要なのは単純な人数の増減ではなかった。

どの時間帯に、何人必要なのか。

その人数で、実際に運用が成立するのか。

そして、欠員が出た場合にも仕事を継続できるのか。

そこまで考えなければ、配置を決めたことにはならない。

俺たちが資料に残そうとしていたのは、そういうことだった。

求人票に書かれた「欠員補充」という四文字。

それだけで、すべてが分かるわけではない。

だが、現場の運用を考えるうえで、人員確保が現実の課題になっていることは読み取れる。

俺は、そこで一つのことを考えた。

人員が足りないと訴えた人間がいた。

数字を集めた人間がいた。

配置について議論した時間があった。

そして、実際に人を募集する段階が来た。

ならば、次に問われるのは、募集した人数そのものではない。

その人が入ったあと、どうやって仕事を覚え、どうやって運用を維持していくのか。

人を採用することは、改善の完成ではない。

そこから、また運用が始まる。

俺たちが見ていたのは、目の前の一日の忙しさだけではなかった。

荷物が来る。

人が作業する。

人が休む。

誰かが辞める。

新人が入る。

仕事を教える。

そして、翌日も荷物が来る。

その繰り返しを、どう成立させるか。

夜勤の問題は、結局、そこに戻ってくる。

人を一人募集した。

それと、明日から一人分の能力が増えることも、同じではない。

現場の仕事は、そんなに都合よくできていない。

俺は、そのことを、ずっと数字にしてきた。

そして今度は、数字とは別の形で、現実が動き始めていた。

求人票は、何も語らない。

ただ、募集人数と勤務時間と理由が書かれている。

それだけだ。

だが、余計な説明がない分、かえって分かりやすいこともある。

必要になったから、募集する。

現場を動かすには、人が必要だからだ。

その先に何が待っているのか。

採用された人が、どれくらいで仕事を覚えるのか。

配置した人数で、実際の荷物を処理できるのか。

欠員が出ても、運用を維持できるのか。

それは、求人票だけでは分からない。

実際に運用してみなければ、答えは出ない。

だからこそ、俺は思った。

改善というのは、資料を提出した時点で終わるものではない。

決めた体制が、現場で続けられるかどうか。

そこまで確かめて、初めて意味がある。

そして、俺の手元には、もう一つ考えなければならない問題が残っていた。

人員を確保することとは別に。

人が入れ替わっても、仕事を回せるようにすること。

つまり、誰か一人の経験や頑張りに頼らず、運用を続けられる仕組みをどう残すか。

次に考えるべきことは、そこだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。