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残ったもの、残らなかったもの

運用の話をしていると、どうしても人の話になる。

誰が何と言った。

誰が納得していない。

誰が、どの配置を必要だと思っている。

そういう話だ。

でも、俺たちが積み上げてきたものは、誰かの発言だけじゃなかった。

便別台帳があった。

到着時刻の記録があった。

個数と重量のデータがあった。

夜勤と日勤の勤務比較表があった。

一日だけの印象ではない。

一週間だけの偶然でもない。

何か月にもわたって記録し、比較し、数字を並べた。

だから、意見が変わっても、記録は変わらなかった。

もちろん、数字を並べれば、すべてが自動的に解決するわけじゃない。

数字を見ても、どう判断するかは人間に委ねられる。

同じ資料を見ても、必要だと思う人間もいれば、そこまで必要ないと思う人間もいる。

データは答えを示す。

だが、その答えを採用するかどうかまでは決めてくれない。

そこには、また別の問題があった。

俺は、少しずつそれを理解していった。

現場の実態を数字で示すこと。

その数字を使って運用を改善すること。

そして、改善した運用を維持できること。

この三つは、似ているようで違う。

最初の二つが進んでも、三つ目が自然についてくるとは限らない。

人員を配置する。

仕事の流れを整える。

新しい方法を現場に定着させる。

どれも、一度決めれば終わりというものではなかった。

人が変わる。

勤務が変わる。

荷物の量も、到着する時刻も変わる。

だから、本来なら、運用も実績を見ながら調整していく必要がある。

一度出した数字を、都合のいいときだけ使うわけにはいかない。

必要なときには見る。

不都合なときには見ない。

そんな使い方をしていたら、何のために記録したのか分からなくなる。

俺たちがやっていたのは、誰かを言い負かすための資料作りではなかった。

現場を継続して回すための材料を作ることだった。

ただ、それを続けるには、記録する人間も必要だった。

そして、その人間が、いつまでも同じ場所にいるとは限らなかった。

相方は、来なくなった。

それまで一緒に数字を取り、資料を作り、現場で起きていることを確認してきた相方だ。

二人で話しながら、考えを整理したこともあった。

一人では見落としていたことを、もう一人が見つける。

自分の考えが正しいと思い込まないためにも、そういう相手は必要だった。

だが、現場に残るかどうかは、データの正しさだけで決まるものではない。

仕事がある。

人間関係がある。

毎日の勤務がある。

その中で、どこまで続けられるかは、それぞれの事情による。

俺は、相方が来なくなったことを、単純に一つの理由だけで説明するつもりはない。

ただ、結果として、一緒に記録を取ってきた人間が現場からいなくなった。

それは事実だった。

そして、記録は残った。

二人で集めたデータも、そこに残っていた。

相方がいなくなったからといって、過去の到着時刻が消えるわけではない。

荷物の個数が変わるわけでもない。

夜勤と日勤の処理量を比較した結果が、なかったことになるわけでもない。

人は現場からいなくなる。

でも、記録は残る。

……なんだか、仕事の話をしているのに、妙に当たり前のことを確認している気がした。

人間のほうが、よほど不確かなものだった。

だからこそ、記録していたのかもしれない。

俺は、まだこの時点で、最後にどこへ行き着くのかを知らなかった。

ただ、一つだけ分かっていた。

ここまで積み上げたものを、途中でなかったことにはできない。

誰かがいなくなっても。

誰かの考えが変わっても。

運用の方針が揺れても。

記録した事実まで、消えるわけではなかった。

そして、その記録は、俺たちが現場を離れたあとにも残ることになる。

その話は、もう少し先だ。


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