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死に戻りに疲れた傾国王子、生存ルートを模索する  作者: 沓子
第二章

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招かれざる客



「カズサ様、私どもが」

 使用人の分まで茶を用意するカズサに侍女頭シーラが恐縮している。

「紅茶と蒸し時間や葉の量が違うんだ。二番茶って言うお代わりも淹れるから」



 この世界、紅茶はあっても緑茶は無いから日本で製造工程を見て土産に買ってきた。こちらで作ってみるつもりだ。

 茶葉は同じだが地域ごとにどう風味が異なるか実際飲まないと分からない。

 茶葉を使用した和スイーツ製作はマリアに一任したが、多忙すぎて中々難しい。今は隣で即興の抹茶アイスを作っているが。



「渋いけど砂糖なしならダイエット効果あるわよ。美白やアンチエイジング効果も」

「アンチエイジング?」

「肌が年齢に抗う。あ、カズサ。ツェーレンには焙じてあげて。フライパンで焦がさないよう炒ればいい」

 マリアの言葉にシーラの目がキラリと光る。売り出すならその辺りアピールするか、と考えてからそれどころではない今の状況を思い出す。




 ほうじ茶をツェーレンに渡しに来てからカズサは大事なことに気づいた。

「ごめん忘れてた! 悪阻だった、鰻はちょい重いよな……、あれ?」

「これ美味い!! 食べられるよ義兄様、ホントありがとう!」

 笑顔で鰻を味わう義弟にほっと安心した。久々のちゃんとした食事だとか。悪阻とは不思議なもので、くどいから一概に駄目という訳でもないらしい。



「異世界食だからか? なんにせよ良かった」

「このスパイスが強すぎるかと思ったけど不思議と合う」

「山椒は好みが別れるんだよな」

『我を讃えよハヤテに百葉。今回は炒飯とカレーの激ウマを発見したのだ。カツカレーは至高ぞ。次はスイーツ探索を遂行する』

 抹茶アイスを食べながら得意げなガルムと無言で鰻重をがっつく他二柱。

「私の分もどうぞ」とガーシュが差し出したのを挙って食べている。

『うむ、この氷菓子はうまいぞ聖女マリア』

「ありがとう。聖女は無しでお願い」




 食後にカズサからなんとも間の抜けた話を聞きガーシュはどんな顔をすればいいか分からない。マリアはげんなりし、ツェーレンも目をパチクリしていた。

 カズサ自身、ソウジュ経由でノエルから聞いた時には呆れるしか無かった。



「魔王になったと言うから驚きましたが、なんとも……」

「帝国兄妹アホだよなあ。間抜けな話、もとい実際に〝魔の抜けた話〟つうか」

『上手いことを言うの。魔アレスが抜け色ボケアレスがどこぞに残ったのだからな』

「えーと、色ボ……、いやそれほぼ通常版じゃん。そっちはどこへ?」

 肝心なことを聞き忘れていたのに気づき尋ねるカズサ。ガルムは他と比べ思わせぶりな言葉が少ない。西洋人(?)だからか。



『もう一人、我が直接は知らぬ男とお笑い芸人のようなやり取りをしておる。あまり会話が成り立っておらぬが』

「「「??」」」「誰」

 


 ガルムはそのままを伝えているのだが、聞いた者たちは更に困惑しただけだ。

 おかしい。魔王(仮)が爆誕したのにこの緩んだ空気はなんだとカズサは戸惑う。世界の終末どこ行った。自らの一大事にあの弟は何をやってるのか。一緒にお笑いやってるのはどこの誰。



 当事者の皇帝たちは大変に違いないが知ったことではない。

 守護獣は落ち着いているし、魔王とは言え能力は弟の半分だという話だ。

「迎えに行こうかと思ったけど不要かな」

「いやさすがに行くべきでしょ。帰り道で他の国獲りしてきたらどうするの。あ、鰻重組はアイス駄目。お腹壊す、……神獣ってどうなの。ツェーレンには今度ほうじ茶フィナンシェ作ってみるわ」

「ありがとう。このお茶もいい香りだ。あ、お客さん」



 西洋の館に合わないピンポンが鳴り響き、ツェーレンが真っ先に向かう。

 考えに耽っていたガーシュが慌てて後を追った。

「襲撃されたばかりですよ、私が」

「嫌な感じしないから大丈夫だよ。食べたから元気出たし」

「私もいるし大丈夫。むしろ暴れたい」

 アイス片手にマリアとカズサが続く。

 ハヤテはまだ鰻重を貪っているが、百葉はツェーレンの肩に鎮座している。




「こここんにちは。はっ初めます、して。ぼ僕アレアレスのしし親友でっす結婚祝いに、に。キレキレイですねけ結婚しましょう」

 扉を開ければ不審者がいて、いきなりツェーレンにプロポーズしてきた。

 フードを深く被り顔はほぼ見えず、挙動は怪しくそわそわ落ち着かない。収納から何かを取り出そうとしていてガーシュは警戒するが、手には雑草のような束があった。

 辛うじてぽつぽつ花が混ざっているそれをツェーレンに差し出してきた。



 親友? 結婚祝いに来て新妻に求婚? 突っ込みどころしかないが「アレスに親友どころか友達いないんじゃ」と名言するのは身内でもさすがに憚られる。この魔術師も見るからに友達がいないから同類か。



 よく見れば花束は毒草で纏められていた。ガーシュが咄嗟に焼こうとするがツェーレンが止める。

「貴重な毒草ばかりだ、薬が出来る。求婚は受けられないからガーシュが受け取って」

「ももらうだけ貰い求婚は無視の合理しゅ主義。きキライじゃなない」

「折角だからな! ありがとう」

 明らかな不審者でもツェーレンの態度は普段と変わらない。



 ガーシュが構築したのはツェーレンに害意ある者を排除する結界。JJに悪意はない。無邪気な邪気の塊なだけで。



「改めてようこそ。悪いが結婚は間に合ってるんだ」

「え笑顔でさわ爽やかにこ断られぼ僕はジュヌ」

「……あなたまさかあのJJですか。ツェーレン様、お下がりを」

「あ! アレスが師団から叩き出したっていうマジキチ魔術師!? うちの邸の肖像画が話しかけてきた時は心臓麻痺起こすかと」

「きききみもすごくキレイ。けけ結婚ししょう。えっと確かこここに着けたら外れないい呪われたゆび指輪が、───ぶべっ!?」

 秒でカズサに乗り換えるJJを後ろから膝カックン攻撃が襲った。

 倒れ込むJJからさっと身を引く一同。




「なあコレなんじゃ? やたら凶々しいが」

 蹴りを入れた幼女は両手一杯に食べ物を抱えている。

「アルテ様、お手数おかけしました。すぐ捨てますので」

「遅うなってすまんの。街歩き久々じゃから楽しゅうなってしもて」

 着物生地を使いレースやフリルをあしらったゴスロリ風ドレスにロングブーツの、お洒落で可愛らしい美幼女がいた。



「わざわざお越し頂きありがとうございます」

「堅苦しいのはやめじゃガーシュ。妾に小童の妻を紹介するがよい」

 顔を合わせたのはささやかな結婚式でだけ、それも蛇体を取っていた。屋敷も別、グレイシア当主はとかく忙しい。

 基本的に当主から離れないアルテときちんと対面するのは初めてだった。



「改めて、俺はツェーレン・グレイシアンですアルテ様」

「もっと気安く話すが良い、ツェリちゃん」

「じゃアルテ、でいいのかな? 聞いてたけど本当に人型とれるんだ」

「うむ。妾の真の姿を披露しておこう」

 ガーシュに屋台飯を押し付け変化を始めるアルテにカズサが慌てる。

「ちょ、アルテ! 家が壊れ、……ん?」



 現れたのは掌サイズの蛇だった。ただし頭が八つに別れている。

「──────」

『実際はこの邸くらいの高さじゃ。どうじゃ、恐ろしかろ』

「───かっ」

『ん?』

「かわいいい!! 百葉たちみたいなモフモフもいいけどソウジュやアルテも可愛い!!」

『そうじゃろそうじゃろ。ツェリちゃんは分かっておるな』

 ツェーレンの手に飛び乗りアルテはご機嫌だ。



 皆がアルテに気を取られ忘れられていたJJが呻きながら立ち上がる。

「だだ誰も倒れたまままの僕を気にしない。放置プレプレイよくある、な慣れてる」

「今すぐ去りなさい、地の果てに転移させますよ」

「へへ、ぼ僕は魔術耐性たか高いんだ。永遠えんのライバルあ、アレスに対抗するためめ修行ししたんだもんね」

「では試しましょう。安全性を捨て確実性をとります。四肢がバラバラでも別に」

「待てガーシュ、このタイミングだ。そいつなんか知ってるんじゃ?」



 カズサの一言で一斉に注目を浴びるJJ。

「みみ皆がみ見てる、ひひ、は恥ずかしい」

「アレスの親友! 何か知ってるなら教えてくれ、頼む!!」

「ツェーレン様、しかしこいつは」

「びび美人には逆らえないい。し親友だし」



 そう言って自分が原因とは告げずに帝国の現状を話したが、切り離されたアレスターの行方はJJも知らない。

「ま魔道具もきえ消えたし」

「魔道具? どんな」

「あアーティファクトって言って言ってたけどあれググレイシアのだよね、アレアレに似た魔力のざ残滓あった」



 紙を取り出しさらさらと何かを描くとツェーレンに渡す。

「ここんな形」

「なんだろう、ガーシュ分かるか? ……ガーシュ?」

 ガーシュが固まったまま動きを止めている。紙を覗き込んだカズサも驚いていた。

「これ、日本の玩具だよ」

『お、あいつらか』

 鰻重を堪能し終えたハヤテが来て会話に加わる。

『挨拶くらいせぬか、ハヤテ。百葉は無口だから仕方ないが』

『すまんアルテ。つい懐かしくてな』 

『お初にお目にかかる。我はガルム。アルテ殿に比べれば若輩者だ、よろしく』

『礼儀を心得とるな、北方の産まれか』

「うわしん神獣がよ四体、ささすが変態一家」



「待て待て、あいつら? 懐かしい? 説明してくれ」

『カズサ、吸血鬼に聞くがよい』

 ガルムの言葉にガーシュを見やれば、輪から離れ紙を手に立ち尽くしていた。

 ツェーレンが心配そうに気遣っている。

「どうしたガーシュ?」

「───これは。いえ、彼らは」



「グレイシアの宝物庫にいます、───いる筈でした」



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