表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死に戻りに疲れた傾国王子、生存ルートを模索する  作者: 沓子
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/26

事態は更に混迷を深める




 二時間後に目覚めたノエルの脳はなんとか正常に戻っていた。マリアはガーシュに連れていかれたのを思い出す。ツェーレン襲撃の件は聞いていない。あの状態のノエルが役に立たないと判断されたからか。



「みんな、今日はもう終わりだ。明日は休みにする」

「休み? 持ち帰りですか」

「休み? 王宮の書類整理をするので?」

「あ、法改正に関して貴族に根回しですか」

「あちらの執務室の掃除も?」

「庭師のジョンの犬の散歩を?」

 掃除は文官の仕事ではないし犬の散歩に至っては全く関係がない。

 


 社畜。彼らの言動に、カズサが漏らしていた言葉を思い起こす。社畜ウイルスが蔓延するこの異様な状況は、ノエルに責任がある。

『ばぶる崩壊前のリーマンのようだの』

「ソウジュ……、彼らに医者を呼ぶ」

『じきにマリアが戻る。癒しの力が良い』

 従わせる力とやらを使おう。しっかり言い聞かせて休ませる。〝王太子〟もあの部屋から出してやらなくては。それが可能かは判らないが。





 ツェーレンは夢を見ていた。どこかの庭園らしいが見覚えはない。

 見知らぬ黒髪の青年と……ガーシュ? 十五、六歳くらいの見かけだ。



「だから、俺は誑かしてなんか───、」

「気安く話しかけるな! 異世界人というだけで持て囃されるがおまえは平民だと聞く。僕は公爵令息だぞ、本来なら平伏すべきだ」



(ガーシュが、ガーシュが僕だって! マリア義姉様が話してた『悪役令息』みたいな意地悪言ってる!)

 わくわくしながら眺めていると、眼鏡の青年が華麗に土下座を決めていた。



「な、何を、やっている!!」

「だって平伏すのが本来なんだろ? 俺この世界の常識知らないし。エディシル君に学ぼうかなあって。大丈夫、厄介な客の来るバイトで慣れてる」

「ものの譬えというのを知らないのか! あと呼び方が気安い!!」

「ごめんガーシュイン君、それで次の式典なんだけど」

「気安いと言っているだろうが!」

 立ち上がりぱたぱた服をはたきながら続ける青年と再び怒るガーシュ(若)。



 ガーシュがプンスカして噛み付いて振り回されている。あのガーシュが! ものすごく人間っぽい。

(あ、これもしかしてまだ人間の時?)

 だとすれば三百年以上前だ。

(夢だよな? リアルだけど……)

「ツェーレン様」

 ガーシュが呼んでいる。

 もう少し見たいから待って。あ、でもなんか今、寝てる場合じゃなかったような?───そうだ!!



「!!」

 がばりと起き上がると自分の寝台に寝かされていた。そばでハヤテと百葉が爆睡している。

「良かった、ご気分は」

「ガーシュ……、ぷっ、」

 心配事を一瞬忘れ思わず吹き出してしまう。先程のかれはとても愉快だったから。

「?」

「わ、悪い。夢でもガーシュが地団駄踏んでるのなんて見れるとは思わなくて、」

「───どんな夢ですか。私はそんな真似は」

「だよなあ。真っ赤になって怒鳴ってたし一人称僕だし。面白かったけど。黒髪で眼鏡の───」

(ん? あのひとって)

「……黒髪で眼鏡……?」

「ツェーレン!!」



 ノックもなく走り込んできたカズサに会話が半端に途切れた。

「カズサ義兄様! おかえり」

「大丈夫か!? あ、これ土産。ガルムお薦めのなんとか庵の特上鰻重。ガーシュにハヤテと百葉にも……、って寝てんなあ」

「お気遣いありがとうございます」

「いやもうびっくり。さっき兄さんに鰻重配達しに行って聞いたけど」

「ええ、大変でした」

「手伝ってくれるか義兄様。俺の旦那さん、取り戻さないと」

「あれ、ふたりとも割と冷静?」

「……子どもたちもいるし、俺動けないからな。あまり考え過ぎないようにしてる」



「そうだよなー。いや、夫とあるじが魔王(仮)になったんだしもっと大騒ぎしてるかと思ったからさ」

「「は??」」

 なんだそれは。

「しかし一家にふたり国王はないよ、魔王だけど。俺も海賊王とか目指すべき?」

「カズサ様、詳しく」

 驚くのは後にして、ひとまず現状把握に努めようとガーシュは決めた。




 当のアレスター※2分の1※はまだ異空間でご先祖と呑気に駄弁っていた。

「本家にはあるけど僕の家には代々の肖像画置いてない。人物画を飾ると媒介にして話しかけたり呪ってくる狂人がいるから。ツェリの絵だけは厳重に結界を施してある」

「魔術師らしいなあ、友達?」

「雑魚のくせに友達ヅラの赤の他人以下」

 最近見ないが死んでるといいなあと言うアレスターにシュウはどん引いていた。



「やっぱりね、帝国は悪なんだよ」

 気を取り直し話題を戻す。

「全員始末したい。あの僕は手ぬるい」

「きみマジヤバいね。昔からあそこは覇権主義で困った国だ。こんな話がある」

 シュウが語り始める。



「流行りのラーメン屋が開店前から大行列していた。待ちくたびれた客がひと言。〝開くの定刻?〟──悪の、帝国──、ほらね!」



 しーん。

 走り回っていたトミーも固まって動かず、ルービィは何故かプヨョ~ンという効果音と共にバラバラになった。

 アレスターに至ってはノーリアクション。先祖接待でウケてやろうなど毛ほども思わない。



「ああああゴメンずみまぜん!! 誰かが言って受けてたから魔が差しましたあ出来心ですう!! また滑ったぁあ恥ずかしい!」

 蹲り頭を抱えて真っ赤な顔で叫ぶシュウに何も無かったようにアレスターが言う。

「僕が戻る作戦だけどさ」

「えっ、完スルー!? 俺の子孫が冷たい! 激寒!」

「え、今の僕、冷徹クールかなあ!?」

 遅々として話が進まない。



「そ、そういえば俺死んでるんだけど驚かないね?」

 明らかな誤魔化しだがアレスターは普通に答える。

「魔術師なら出来るんじゃない? 死んだことないから知らないけど理論上はできるね、アストラル体使った?」

「俺は感覚でやって来ただけだから理論は分からない……。アレスは賢いな」

「うーん、でも実体もあるし? 興味深い、今度バレルたちで実験、、───!! それどころじゃない! 僕を僕に戻さないと!」



 普通にアレスター(仮)の所に行けば消滅させられそうだ。あっちは自分にも容赦はなさそうに見える。

「多分、勘だけど。かれがツェ……ツェーレンへの想いを思い出せば融合すんじゃないかな」

「えっなんかヤダ、あれと合体は」

「元々きみなんだけどね」

「僕の偽物にツェリは渡さない!!」

「ひとの話聞かない子だなあ」




 一方その頃、帝国の城の謁見室。

 往生際悪く抵抗を見せていた皇帝は犬にされていた。顔だけ人間という、日本の妖怪にそんなのいたなって感じの異形だ。

 足や腕をなくした騎士には代わりに獣の四肢が生えている。自分の毛むくじゃらな手足に、精神に異常をきたした者もいた。

 元より倫理観の薄いアレスターだが今のかれはそれさえ皆無。皇子と皇女、重鎮たちは震えながら大人しく這い蹲るしかなかった。



「何が想いを封じるだ。今の俺には俺の記憶がほぼ無い。随分と質の悪い術師だな」

 命惜しさにペラペラ吐いた兄妹に吐き捨てる。

「お、お、恐れながらアレスター様。我々を唆した魔術師が───、ひいっ!」

 飛ばされた火球に頬を掠められ、グレゴリーは悲鳴を上げる。

「誰が喋っていいと許可した」



 地獄が現出したような部屋に、空気を全く読まない男が入ってきた。黒ローブ黒尽くめの、いかにもな魔術師スタイルの陰気な青年だ。

 人間もどきが泣いたり笑ったり、皇族が平身低頭で服従する様子に目をやりもしない。



「や、やあ。ひさ、久しぶり。げげ元気そうだね我が友アレアレス」

 返事の代わりに百を超える氷槍が男に襲いかかるが全て結界に阻まれる。

「きっ、きみと会うのにじゅ準備しないわけないだろ。へへ、え、偉そうになった割に魔力量は、ず、ずいぶん落ちたな」

「貴様、よくも嵌めてくれたな!」

 グレゴリーの顔が怒りに染まる。

「ば、ば、バカを騙すのってつまらなかったよ、ひひひ」



 その間にもアレスターの繰り出す様々な魔術に襲われているが、男は気にも留めない。

「こ、今回のイタズラは、きに気にいいいってくれたかな? けけ結婚祝いだよ、おめでと」





 魔術師ジュヌビエーヴ・ジョサイア。通称JJ。娘が欲しかった親に付けられた女名前が全然似合わない見た目に育ってしまった。

 彼こそアレスターに狂人呼ばわりされ死んでいればいいと願われた元同僚。

 現在行方知れず扱いの性格破綻者かつ特級魔術師だった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ