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死に戻りに疲れた傾国王子、生存ルートを模索する  作者: 沓子
第二章

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魔王(仮)と国王(仮)




「想いを封印ねえ。不完全だな、きみは自我があるし」

 黒縁眼鏡の青年とアレスターは隔絶された空間にいた。青年はルービィたちと意思を交わし現状を把握したようだ。



「僕の魔力を勝手に奪ったなおまえら。だから誤作動したんだろうけど。これなんで意思があるの」

 アレスターがルービィを小突くと不満げにガチャガチャと面が乱れた。先程はトミーを捕まえようと走り回ったが逃げられてしまった。



「転移時にコレクションの一部が一緒に来たんだよ。小学生の頃に夏休みの課題だった昆虫採集の標本や玩具。そしたらルービィたち何個かがこうなってた。変になったのは帝国のせいだけど」

 僕が死んだ時に盗まれたんだよねと言う青年に、アレスターが改めて礼を述べる。



「ところで助けてもらってありがとう。話からしてグレイシアだよね?」

「うん、俺はしゅ……、シュウだよ。かなり昔の人間だ」

「先祖とか興味ないから名前聞いても分からないな」

「アレスの興味は〝ツェリ〟にしか無さそう。あ、だからか! 想いを封じようとしたら本人の大部分を封印せざるを得なくて、でも彼らの力じゃ無理で。それで切り離したみたいになってるの」

「何がしたかったんだあいつらは」

「きみは妹皇女、ツェリは皇太子のものにする予定だっ、───ちょ!」



 魔力が膨れ上がる。実体もなくそんな真似ができるのだろうかとシュウは訝った。

「……ツェリをモノにする? 僕の最愛をあのゲスが? ふ、面白い冗談だ」

「ストップ!! 僕の仮想領域が壊れちゃう! ツェリには奴ら届いてないってば!」

「殺ろう。うんと苦しめて。手足を捥いで目を抉り出し舌を焼いて、薄汚いアレは一ミリずつ削いでやろう。魔物に嬲らせ強制的に孕ませる。男に産ませられるのがいるんだ、腹を食い破り出てくる異形に最後は喰われて終わり。ああ、まずヤツを捕獲して」

「ツェリ、ツェリはどこ!? 座標軸ーっ、ルービィ正気に戻ったなら手伝って!!」

「ねえ」

 急に冷静に話しかけられシュウは戸惑う。

「ツェリは僕だけの呼び名だから」





 一方、帝国では嵐が起きていた。

「陛下、グレゴリー罷り越しま……、っつ!?」

 グレゴリーは自分の見たものが信じられなかった。



 わざわざ謁見の間に来いと父に呼ばれていた。これは魔道具を使ったのがバレたかと身構えていたかれは、いざとなれば妹に丸被せするつもりでいた。

 実際、ルレイリアが欲しい男を得ているのだから言い逃れは難しい。

 そう算段しながら訪った先に、異様な絵画のような悪夢の光景があった。



 玉座には父ではなくアレスターがいて、肘掛けに肘をつき顎を乗せ不遜な態度で足を組んでいる。よくある悪の親玉ポーズだ。

 そしてその片足で踏みつけているのは、床に臥した父皇帝の頭。

「父上!!」

「黙れ」

 アレスターの一言で何も言葉を発せなくなる。



「貴様もこの豚と同じく鳴き喚くのか、鬱陶しい」

 見回せば複数の手や足が転がっており辺り一面血に塗れていた。

 そのなかで重鎮の数人が平伏している。

 部屋の隅にはそれらを欠損した近衞騎士たちがまとめられ、痛みに呻いている。

「───!! ───!!」

 驚愕と恐怖で叫んでも声にならない。



「お、お兄様……、逆らわないで、」

 ぼろ切れのようになったドレス姿の妹が平伏したまま話しかけてきた。髪はざんばらに切られている。

(な、なんだこれは。一体何が!? アレスターはルレイリアに惚れたのではないのか)



「俺を操ろうとしたらしいな。身の程知らずの虫けらども」

「──────」

「貴様らは奴隷だ。逆らえば殺す」

 知らなかったとはいえ、帝国は最悪を招き入れてしまったのだ。





『ノエル』

「なんだソウジュ」

 イケメンボイスでソウジュに話しかけられノエルは書類から顔を上げないまま応える。

『魔王(仮)が帝国を支配した』

「───魔王(仮)が帝国を、そうか。祝いを贈る手配をしないと。魔王(仮)は何を好むか知っているか。よくあの皇帝が譲位を承諾したものだ。ところで名前は───、」



 忙し過ぎてマリアのヒールもなく長兄は頭が働かないが、遅れてその意味を理解し始める。

「………魔王とは、あの魔王か、私の、おと、」

『(仮)だ』

「大変じゃないか」

 


 ガバリと立ち上がれば立ち眩みがした。朝から何も食べていない。いや、いつから食事してないだろう。マリアがいる時は口に突っ込まれていたような。マリアはどこだ。

 文官たちは目も向けず書類に没頭している。執務室には大量のゾンビしかいなかった。

 王太子に指名した少年は「◯◯を覚えないと出られない部屋」に一週間閉じ込められたままだ。生きてるだろうか。



 マリアたちが招かれた鍋パのあと、ツェーレンと共にふたりに呼ばれ、ノエルもまたアレスターについて遅れて知らされていた。

 魔王(仮)と国王(仮)がいる一家とか意味が解らないとマリアがぼやいていた。ツェーレンが「魔王とかかっこいいなアレス……」と頬を赤らめていたのに三人はハシビロコウ顔となる。自分の伴侶が魔王(仮)で思う事は他にないのだろうか。

「ツェーレンって最強厨……?」

「色んな意味で似合いの夫婦ね……」

 カズサとマリアがこそこそ話していたのを思い出す。



『大変でもあり、そうでもない』

「どちらだ」

『まず何か食って休め。部下もだ。死相が出ている』

「そんな悠長にしている場合では、───そうだな」

 守護たるソウジュがここまで言うなら聞かざるを得ない。



 大量の食事が運び込まれたが粥とサラダ、スープ、フルーツくらいしか受け付けない者が多かった。食べ終えた順に床に臥していく。

 ゾンビ改めただのしかばねが横たわる様子にノエルは嘆息した。

「無理をさせ過ぎた」

『お主は従わせる力が強く王になり増幅されている。留意せんと死人が出る。マリアもそこまで急かしてはおらぬ』

「……肝に銘じる」

 夢中になると周りが見えなくなるのは悪い癖だ。



「何があってそうなった。アレスは無事なのか」

『無事でないのは皇帝一家だな』

 頭を抱えながら野菜ジュースを飲む。

「戦争にならないといいが……」

『戦争好きは皇帝だ。今は犬だが』



 今は犬とは。深く聞けば疲れそうだからノエルはスルーを決め込む。

『楽しみだの』

「……? ツェーレン、、を動かすことは出来ないな。身重でさえなければ頼みたいが」

『ああ、そう言えばツェーレンが襲われたな』

「!!! 何故それを言わないんだソウジュ!!」

『無事だったぞ。吸血鬼の要請でアルテが護りに向かった』

「アルテ様が、そうか───」



 父の守護獣アルテ。最年長の蛇神は女性だ。彼女の真の姿にビビらない者はいない。

 百葉もガーシュもいる筈だしひとまず義弟は大丈夫だろう。弟は、アレスは元に戻るのか。

 守護獣の要領を得ない話し方は毎度だが、詳しい説明が欲しい。

 マリアかカズサを探そうと決めた次の瞬間、限界に達しノエルは気絶するように眠りに突入した。




『ぬしの子孫は面白いのう。退屈せん』

 ソウジュが誰にともなく語りかけた。



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