罪の告白と、反逆の徒たち
第7話:罪の告白と、反逆の徒たち
異界の荒野に吹き荒れていた蒼き炎と黄金の光が、しだいに収まっていった。
高田の放った冷酷な刺客たちは、葵の凶暴なまでの怪力と、篠田が振るう青い燐光を纏った木棒によって完全に沈黙していた。
「へっ、口ほどにもねえバケモノどもだぜ」
肩で激しく息を吐きながら、篠田進がボロボロになったジャージの袖で額の汗を雑に拭った。彼の肌に鮮烈に浮かび上がっていた『天微星』の蒼い竜の紋様は、戦闘の終息とともに、ゆっくりと皮膚の下へ沈むように消えていく。
ふと手元を見れば、刺客の刀を受け止めてボロボロに削れていたはずの太い木棒が、青い脈動の余韻を残したまま、まるで三つの節目を持つ戦棍――三節棍のような歪な形状へと変質を遂げていた。
智也、葵、篠田、そして傷ついた武芸者の大野。
奇跡的な合流を果たした仲間たちを前にして、しかし恵太は乾いた赤土の上に膝をついたまま、深く深くうつむいていた。
「……ごめん……っ」
夜風が吹き抜ける荒野に、恵太の搾り出すようなかすれ声が響いた。
「松江……?」
「僕のせいだ……! 僕が、あの山の底で……『伏魔殿』の封印を解いてしまったから……! 僕の独りよがりな善意のせいで、お前たちをこんな狂った世界に巻き込んで……呪いみたいな星を背負わせたんだ……!」
恵太の両拳が土を強く掴み、爪の間から滲んだ血が泥にぽたぽたと滴り落ちる。
自分が大好きな仲間たちを、取り返しのつかない地獄へ突き落としてしまったという、重すぎる原罪の告白だった。
だが――その場を支配したのは、怒りや責め苦の叫びではなく、静まり返った奇妙なまでの静寂だった。
ズレた眼鏡のブリッジを指先で静かに押し上げ、智也がいつもの冷徹な声で口を開いた。
「……推測はついていたさ。お前のあの異常なまでの自己犠牲精神なら、得体の知れない声に騙されて扉を開けることなど、僕の計算の範疇内だ」
「呉原……」
「だがな、今ここで僕がお前を殴り飛ばしたところで、僕らに宿ったこの魔星の力も、消え去った元の世界も元には戻らない。感情に任せた責任追及など、コンマ一秒の価値もない非合理的行為だ」
智也は恵太の前に歩み寄り、眼鏡の奥の眼光を強く光らせた。
「元の世界へ全員で帰還する確率をコンマ一パーセントでも上げるためには……お前のその『どんな奴でも手を伸ばす』という狂気的な行動力が、今の僕たちには絶対に必要なんだよ」
それは、徹底して理屈の鎧で包み隠された、智也なりの不器用で温かい許しの言葉だった。
――ドンッ!
直後、背後から葵が遠慮のない強烈な平手打ちを、恵太の無事な方の背中に叩き込んだ。
「あぐっ!?」
「うじうじしてんじゃないわよ、バカ恵太!」
葵は両腰に手を当て、仁王立ちで怒鳴りつけた。
「私と呉原が崖から落ちたのも、勝手に私が身を乗り出した結果よ! あんた一人が世界の責任を全部背負った気になってんじゃないわよ!」
「そうだぜ恵太」
篠田が手の中で三節棍をクルリと回し、獰猛な笑みを浮かべて肩に担ぎ上げた。
「俺たち不良の間じゃな、喧嘩の原因が誰にあるかより『今誰をぶっ飛ばすか』のほうが100倍重要なんだよ。俺たちをバケモノ扱いして追い回そうとする、その『高田』とかいう総督……まずはそいつの面頭をブチのめす。違うか?」
誰も、恵太を責めなかった。
彼らが宿した魔星は、日常を奪った呪いであると同時に、この理不尽極まりない異界に抗い、生き残るための唯一の「牙」なのだと、全員が理解していた。
大野が進み出で、恵太の前にしゃがみ込むと、その折れた右肩の関節を手際よく検分した。
「……歯を食いしばれ、少年。骨を入れ直すぞ」
「ぐ、あっ……! ガハッ……!」
ゴリッという鈍い音とともに激痛が走り、恵太は涙を散らした。だが、大野の熟練の施術によって右腕の麻痺した痛みが引いていく。
恵太は溢れ出る視界の涙を、血のついた左腕で乱暴に拭い去り、力強く顔を上げた。
「……ありがとう。僕が……僕が必ず、全員を連れて現代へ還る。高田に捕まっている残りの同級生たちも……絶対に全員救い出す!」
「その意気だ、若者たちよ」
大野進は血の滲む外套を強く締め直し、一尺の竹棒を手に取り立ち上がった。
「高田総督は、空から降ってきた魔星……君たちの友人を兵器として回収・収容し始めているはずだ。これに対抗し、州兵の追撃を凌ぐには、州軍の手が届かぬ自然の要害へ逃げ込むしかない」
大野は西の地平線、漆黒の湖の影を指し示した。
「かつてこの山陰の地で『梁山泊』と呼ばれた、水上に浮かぶ巨城の廃墟――そこを我らの血と肉の拠点とする」
「梁山泊……」
恵太の瞳に、二度と消えぬ反逆の炎が灯った。
無自覚な加害者であった一人の少年と、百八の魔星を宿した哀しき仲間たち。
奪われた日常を取り戻すための、血と泥に塗れた「壮絶なる反逆の旅」が、今この赤銅色の月が照らす荒野から産声を上げた。




