第36話 勧誘
「ちょっと君、大丈夫⁉︎ びっくりしたー!」
テッドが慌てて近くに走り寄ってくる。
その言葉を受け、アルスは思わず言い返した。
「驚いたのはこっちだ! お前それ、魔法銃か」
「そうだよ。かっこいいでしょ」
「かっこいいって、そういう問題か! 普通の武器とは訳が違う! 俺はてっきりお前が……っ」
「ん?」
「……いや、なんでもない」
伝えたい内容の適切な表現が思いつかず、アルスは発言をやめた。
代わりにぼそりと悔しさを滲ませつぶやく。
「それなりに強いなんて、大口叩いた割にすまなかった」
「いや、ちゃんとみてたよ。本守るのは立派だけど自分を大切にしなよ。巻き込んだオレがいうのもなんだけどさ」
やれやれと苦笑したテッドは、その後少し考える素振りを見せる。
そして、くすりと楽しげに微笑み、再び口を開いた。
「ねえ、アルス。君、赤の守護者に入らない?」
「は?」
アルスは目を瞬かせた。
「……なんだそれは」
「正義の味方ごっこしてるって言ったでしょ。オレたちのチームの名前。……っと派手にやっちゃったしここは目立つね。詳しい説明はあとにしようか」
街の様子は先ほどの騒動で依然落ち着きがない。
いくら喧嘩に慣れた王都とは言えども、街で剣を振り回し銃まで発砲している。
二人の周りには人が集まり始めていた。
足元には盗賊の男が気絶し転がったままだ。
テッドはすっと男の横に座り込んだ。ごそごそと彼の衣服や身の回りを探り始める。
「お前何を……」
アルスは咎める空気を言葉に含める。
「お、あったあった」
すぐに目的のものを探し当てたらしく、テッドは立ち上がりアルスの方を見た。
「さて、また役割分担だ」
テッドが、今しがた男から取り上げたものをアルスへと放ってよこす。
小さく硬いなにかが、金属の擦れる音とともに、アルスの手におさまった。
「これは……?」
くすんだ赤銅色の小さな鍵だ。
「オレは今から裁判所にいってこの男を引き渡してくる」
「はあ……」
「オレの仲間、この先の川を右に曲がってしばらくいったところの酒場にいるんだけど」
テッドが道の先の奥に見える川を指差す。
「それ持って、その酒場に先に行っててくれない?」
「なぜ俺が……」
当然、アルスは渋る。
テッドはその態度に構わず、話し続ける。
「実は今朝仲間の一人がこいつらに逃げられててさ。盗られたその鍵取り返すのも今回の目的だったんだ」
事前に伝えられなかった話だ。どうであれ、アルスが関与するところではない。
「店に鍵届ける役と、盗賊らを裁判所に引き渡す役。君が裁判所でもいいけど正直オススメしないな。あ、一応、宣誓して神官とやり取りするだけだからやることは単純。ただ、あそこ結構曲者の神官多くてね」
テッドはどこか演技じみた大ぶりな仕草で首を振る。
「うちのリーダーなんて泥棒捕まえただけなのに、神官と喧嘩になったらしくてさあ。なんでか自分まで牢に放り込まれてて、オレ迎えに行ったことあるもん」
「ともかくだ。用事を済ませた後自分で行けばいいだろう」
なんとか割り込んだアルスの抗議を、テッドは無言の笑顔でかわす。
追加でアルスへ一枚の紙片を押し付けてきた。
「その絵と同じ看板を探すといいよ」
戸惑いと不満をあらわにしたまま立ち尽くすアルスを放置し、テッドは男を担ぎ上げた。
そのまま近くの人間から借りたらしき荷運び用のロバへと盗賊の男を乗せる。
手綱を引き、歩き出したテッドが半身で振り向いた。
「さっきの鍵、店の食糧庫のものなんだけど。そろそろ彼女が焦れて扉が破壊されそうな時間なんだ。頼んだよ!」




