第34話 作戦会議
「さて、まずは作戦会議ね」
テッドはどこか慣れた調子でべらべらと淀みなく話し始めた。
「捕まえたいのはさっきも言ったように二人組の盗賊だ。最近は、よく貸本屋の客をねらってるみたいでね。ほら、きみも本持ってたし、文字を読む人間ならわかるだろうけど――」
テッドは、アルスの手元にある新聞に目を向けた。
「本に気を取られている人間は大抵、注意力散漫になる。財布なり貴重品なり奪いやすいのは想像できるんじゃない?」
アルスは頷いた。自分の無防備さを指摘されている気分にもなったが、今は考えないことにする。
「だけど、彼らの小狡さは、むしろこの盗みに気づかれたときにでてくる」
「気づかれたとき……?」
「スリの騒ぎで当事者も店員も、周囲の人間全てが気を取られる」
「ああ、つまり……その間にもう一人が貸本屋にある本を盗むのか」
「そのとおり! バレなくてもあえて騒ぎを起こしてみたり、めちゃくちゃやってるみたい」
ただし、と前置きし、テッドが続ける。
「二人はこのあたりの裏道を熟知していて直ぐに見失う。取り押さえようにも、武器持ってて反撃だってしてくるし、逃げられることは多いみたいだよ」
テッドの話を聞く限りでは、随分と犯罪にこなれている上に悪質そうだ。
アルスは少し考えた後、テッドへ質問を投げる。
「しかし貸本屋の本なんて、そんなの盗んでどうする? 蔵書票だってついてるだろう」
一般的に貸本は、表紙裏に所有を証明するための印である蔵書票が貼られてある。
貸本屋の店名が目立つはずだ。
当人たちが本を楽しむような人間とは思えない。
あからさまに盗品とわかる本について、それをどうやって金に変えるというのか。
「蔵書票? そんなのそこだけ破り捨てればいいでしょ」
あっさりと言ってのけるテッドの返しに、アルスは唸った。
全くもってもっともな話だ。
自分の想像力のなさと、本をそのように粗雑に扱う人間がいること。
二つの意味で頭がくらくらする。
動揺するアルスに対して気を使う素振りを見せながら、苦笑してテッドが言う。
「んーと。多分君には衝撃的な話かもしれないけどさ。本って、まあ売れるんだよね」
「娯楽として需要があることは知っている。だから、貸本屋が盛んなことも」
むっとし、言い返すアルスを、テッドが宥め諭すようにして話を続ける。
「それは正当な本の使い方」
「本の使い方なんて読む以外に何が……」
テッドは、困惑するアルスを目にして、どこか楽しくなってきたようだ。身振りをそえながら説明する。
「成り上がりの背伸びしたい中産階級なんかが、見栄張って本を飾りたがる時代でさ。とはいえ大量の本を集めるのはお金の工面がどうにも苦しい。そういったときに使い古しを手に入れたり、もしくは……バラした本の表紙だけ集めて飾ったりとかね」
「本を……バラす……」
「中身は読み手に売れるし上手くやれば、一冊売るより金になるかもね」
アルスはついに絶句した。
自分にとって本は知識を得るか娯楽のために読むものでしかない。
権威を示すための飾り付けとして使用するという発想がまるでなかった。
(だめだな……どうにも俺には理解しきれない世界が多い)
世の中に蔓延り、皆が飛びつく権威とは一体何物なのか。
アルスはテッドから顔を背けたまま嘆息すると、疑問を口にした。
「……しかし、わからない。計画を把握しているなら、あらかじめ貸本屋の人間に警戒させればいい」
「そうしたいのは山々なんだけど、どこの貸本屋なのかわからなくてね。——二人組、いまそこの路地にいるんだよ」
「は?」
テッドが目線と共に、そばの路地を手首を捻って指し示す。
「ついさっき立ち聞きして、犯罪計画聞いたばかりなんだ。仲間呼びに行く余裕ないから君に頼んでるってわけ」
「いま彼らを捕まえるのは?」
アルスは思わず声の調子を落とす。
「事を起こしてないときに捕まえるのは流石に厳しいかな。一応犯罪者は証人と一緒に裁判所へ引っ張っていくことにしてて……——って言ってる間にちょうど動き出したね。後をつけるよ、行こう」
「お、おい⁉︎」
肩を叩かれ、慌ててアルスはテッドの後を追った。




