第33話 オレと君との仲
「はあ……犯罪者をなんとかしたいなら王都警察にでも駆け込むべきじゃないのか……」
先日はいっそ親切な青年に出会ったとばかりに好意的に感じた記憶がある。
だというのに、今日に至っては面倒ごとを持ってきた邪魔者に近い気分だ。
居場所を認識されている以上、ぼんやりと街を眺める生活も、やり方を変えねばならないかもしれない。
「話は聞くと言ったが……」
青年の話自体は単純なものだった。
界隈で悪名を馳せている盗賊二人組が、近くの貸本屋で盗みを行うという情報を得た。
それを捕まえる協力をして欲しいとの相談だ。
「なぜ俺に助けを求める? お前は何者だ? お前自身が王都警察の類いには見えない。お人よしの延長か?」
アルスは疑問を矢継ぎ早にぶつける。
「オレが何者かかあ……うーん、オレに見せられるのは石狩人証くらいしかないからな」
(この男石狩人だったのか)
——石狩人
魔石の採取を目的とし、古代魔法文明の遺跡に潜るものを示す言葉だ。
貴重な魔石を狙い、一攫千金を夢見る冒険者も数多くいる。
アルスは青年の腰辺りの膨らみに目を向けた。
そこにはホルスターに収まった拳銃が見える。
(となると、ある程度は戦える人間か……? 腰の銃は護身用かと思っていたが……)
魔石採取時にはどう足掻いても石魔獣との戦闘は避けられない。
近年では銃火器の発達により、魔法の制御が苦手なものも、遺跡で魔石を手に入れることが可能となっている。
現に第六近衛兵団内にもそういった銃火器部隊が存在する。
とはいえ、石魔獣の退治には魔法が効率的なことも確かで、装備が銃の石狩人はとても珍しいはずだ。
青年は顎に手を当て考えるそぶりを見せ、話を続ける。
「なぜ、この盗賊たちを捕まえようとしているかと言われると、依頼を受けたからだね」
「依頼……?」
「警ら外で起きる犯罪や、上流階級相手でもない小物相手なんて、さぼり魔の王都警察じゃそうそう追ってはくれないものでさ」
「儲けのいい仕事なのか?」
「いいや、まさか。そんな金が払える身分なら王都警察が相手にしてくれるはずでしょ」
青年の軽快な話しぶりに調子を狂わされる。
アルスは苦笑して額を抑える。
「……見上げた社会貢献には聞こえるが、危険を考えるとまた随分なお人よしだな」
「そのお人よしはオレじゃないんだけどね」
「はあ?」
「オレはそうやって正義の味方ごっこしてる奴を手伝ってるだけ」
「……」
ますます訳がわからない。
「ああ、オレはテッド。君は?」
「……アルス」
青年――テッドと名乗った男が差し出してきた手を握り返し、アルスは自分の名を素直に返した。
「テッド、お前の社会貢献への意識は理解したが、なぜ俺にからむ」
「オレと君との仲じゃないか!」
何を根拠に自信満々に発言できるのか。
満面の笑みを浮かべたテッドに対し、アルスは心底呆れた表情を作ってみせた。
「……この前少し会話しただけだろう。理解できない。本音を言え」
腕を組みそっぽを向くアルスの対応に、テッドは悪びれずあっさり吐いた。
「ちょっと人手が足りなくてさ。そういえばここに、暇そうで腕に自信がある『お人よし』がいた。ちょうどいいでしょ?」
「……」
アルスはこれ見よがしに大きくため息をつき、しばらく黙った。
「……盗賊には盗賊の事情があるのかもしれない、とは考えたりしないのか?」
「ん?」
心底意表をつかれたのか、テッドは戸惑いの表情を見せてきた。
アルスは、以前捕まえようとしたスリの男との出来事を説明する。
新聞売りの少年から、病気の弟のためにと、ちょっとした小遣いを奪い去ろうとした男の話だ。
話に丁寧に向き合い、頷きながら聞いていたテッドは最後にあっけらかんと言い放つ。
「いや別に悪いのはスリでしょ。人の物奪ってるんだから。それと貧困は別問題。というかオレからするとそいつ、おなじ低層の労働者階級から奪ってるし、さらにタチ悪くみえるけど。プライドなさすぎ」
テッドのあまりに迷いのない断定っぷりに、アルスは言葉を失った。
「君、そういうふうに考えて疲れない?」
「……真面目とはよく言われてきた。やはり考えすぎは良くないだろうか」
テッドは、アルスの反省するような落ち込みを察知したのか、困ったように微笑する。
優しげな声色でゆっくりと言葉をかけてきた。
「でもまあ、そうやっていろんなことを慮れる想像力を持ち、迷うことも本当は大切なことなのかもしれないね」
穏やかに見守るようなテッドの表情を目の前にし、アルスの中から安堵感にも似た感覚が湧き出てきた。
その感覚をよく知っている気がする。
ほんの気まぐれのように、心が動いた。
「——で? なんだ? 本を盗もうとするやつがいるんだったか?」
「そうこなくっちゃ!」




