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第19話 帰還後

 訓練から帰ってきた後、リブラル城の図書室でジャックと共に本の整理をしていたが、アルスはいつも以上に口数が少なくなっていた。


 見かねたジャックが、やれやれと微笑し声をかけてくる。


「なんかへこんでます?」


 アルスはジャックと目があったが、ジャックの揺れる耳飾りの方へと目をそらした。


「……皆を危険な目に合わせた。任せられたのに俺の判断が悪かった」


 ジャックはいつもの軽快な口調で笑い飛ばす。


「こんなの失敗のうちに入らないですって」


「そうか?」


「いやそもそも側にいる上官の指示に従わないなんて、あいつらがありえねえ……。この兵団、ブライアン大尉たいいはともかくギブソン団長が甘すぎるんだよなあ」


 新兵二人への指導を内々で済ませ、ブライアンに報告せずに終わらせた誰よりも甘いジャックがぼやく。


「いや、その話は今はいいか。まあ、失敗は失敗としても、こんな程度だったんだからよかったじゃないですか。何事も経験ですよ」


「そうか……そうだな……」


 納得がいっていないアルスの様子に、ジャックは少し考えた後問いかけた。


「というか、アルス様、俺の階級知ってます?」


「……? 少尉しょういだろ?」


「そうですね。で、貴方、剣の腕は確かにあるけど、軍人としてはちょーーっと学校で指導受けた程度の伍長ごちょう相当でしたね? 王族という立場で特殊ですけど。士官学校も出てない」


 アルスはジャックの言葉の意図が把握しきれず次の言葉を待った。


「あの現場の一番の責任者俺なんですよ。貴方の顔立てて活動してますけど、なんならアルス様の護衛も含んでるってのに突き飛ばして鼻血出させたんだから、本来へこむの俺。俺の失敗。わかります?」


 なんとなくわかったような気がしたが、アルスはまだ浮かない顔のまま黙っていた。


「あ、鼻血」


「え?」


 アルスは慌てて袖口で拭おうとしたが、はっとして気づきハンカチを取り出す。

 しかし拭ってもハンカチは白いままで血に染まる様子はない。


「嘘ですよ」


「は?」


 ジャックは顔を背けて肩を震わせていた。


「お前な……」


「素直ですね、アルス様。なんかもう……そのままでいてください」


 ジャックが、やっとそれだけ言うとそのまま笑い転げる。


 困ったように、ジャックをみていたアルスも次第につられ、ついには一緒に笑ってしまった。


「そういえば、今回ちょっと、ギルのやつを見直しましたよ」


「ギルバート?」


 意外な言葉にアルスは目を瞬かせる。

 ジャックはむしろ遺跡内外でことあるごとにギルバートを叱り飛ばしていたからだ。


「あの二層の魔獣との戦いのとき、あれ、チャーリーが先に距離を取らずに剣を構えたんですよね。それに反応して狼が襲ってきたら、本人びびっちゃったみたいで」


 ジャックが嬉しそうに笑みを浮かべている。


「腰のぬけたチャーリーの代わりにギルが魔獣に向かっていったんです。意外に根性座ってますね」


「戦いながら、よくそこまで見てたな」


 自分自身の戦い以外に目を向ける余裕のなかったアルスは感心した。


「魔法発動待ちで暇だったんで」


「お前またそんな冗談……」


「はは、まあ、経験の差でしょ。これでも第一近衛出身の少尉ですからね。部下連れての実践はそれなりにあるんですよ」


 視野の広さと面倒見の良さに、上官から信頼され、部下からは慕われる。


 アルスは自分の従者(ヴァレット)としてそばにいるジャックに対して、申し訳なさを覚え複雑な思いが湧き上がってきたが、気づかなかったふりをした。






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