第17話 古代遺跡
リンデル王国の王城は、ポレ湖に浮かぶ島の中にある。
城砦の背景に映る、ターミゼル山脈の山々。
そこから流れ込む川や地下水を水源としてできたポレ湖の最大の特徴は、巨大な古代湖底遺跡だ。
古代人の生きた証である古代遺跡は、世界各地に点在している。
その中でもこのポレ湖の湖底遺跡からとれる魔石は、透明度の高い良質なものが多いことが特徴で、魔法国家の維持には欠かせない資源の一つである。
遺跡への入口のいくつかを城砦内に配置し、国が管理していた。
アルスたちは、街へと渡る橋に最も近い場所にある遺跡の入口で管理の兵へと書類を渡した。
遺跡侵入前、まだ不慣れな新兵のために装備の確認を丁寧に行った。
ひとしきりジャックが口うるさくギルバートを指導したために、さっそく足止めを食らう。
ようやく済むと、ジャックを先頭に新兵二人をアルスと挟み、地下へと下る道を進んだ。
ポレ湖湖底遺跡は、実態として強固な木や煉瓦で補強された湖底洞窟である。
普通のそれと違うところは魔力が充満していることと魔石や石魔獣の存在だ。
「まだ降りるのかあ……。魔法ってやつがあるんだし、ぱっと行き来できたら楽なのにな」
ギルバートの独り言に、アルスが岩壁に設置されたオイルランプに魔法で火を灯しながら反応する。
「それができるのは古代人だな」
「古代人? なにそれ、どこいんの!」
ジャックは、声を弾ませて反応したギルバートの方を振り向く。
「阿呆! 二千年以上も前の人間がその辺にいるわけないだろう」
「なんだよ……つまりできないってことか」
つまらなそうに口を尖らせたギルバートに、もう一人の新兵であるチャーリーが呆れた目線を送る。
アルスは苦笑しながら、話を付け加える。
「そうでもない。転移っていうんだが、四大古代魔法の一つで、特殊な魔石や、設置された魔法陣で可能なこともある」
「四大古代魔法?」
ギルバートが目を白黒させ聞き返した。アルスは薄暗い洞窟に目を凝らしながら説明した。
「通常現代人では扱うことができない代表的な四種の魔法のことだ」
かつてこの世界で繁栄していた古代魔法文明の時代から失われたものは多い。
「一応言っておくが、魔法陣を見つけた場合は危険だから踏まないように。発動したら何が起こるか分からない。今から向かう場所は探索され尽くした場所だから、基本的には問題はないはずだが」
特に遺跡未経験である、ギルバートとチャーリーの方をしっかりと見ながらアルスは付け加えた。
「さてと――」
階段状になった道の最後の段を降り切ったところで、アルスは一度隊の進行を止めた。
辺りは薄暗く全てを見通すことはできない。それでも平坦でひらけた空間が広がっていることはわかった。
「ここからは石魔獣が出てくる場所になる。以降気を引き締めるように。いつでも戦えるよう武器は構えておけ」
アルスは自身の剣を抜いた。
ジャックも続き剣を構えると、柄の石に触れ宣言する。
「――祖国」
アルスは剣に魔力を込め、近くの壁にあるオイルランプへ灯りを灯したあと、ジャックと同様に呼称をつぶやく。
「――青」
「それいっつも思うけど何?」
ギルバートが首を傾げて尋ねる。
ジャックがすぐに、むっとした表情で指摘した。
「何じゃないだろ、なんですか」
「……なんですか?」
ギルバートは不満げに言葉遣いの直しに応じると質問の答えを待った。
「魔法はお前にゃまだ早い」
返ってきたジャックの言葉に、ギルバートは反発する。
「なんだよ、教えてくんねえのかよ!」
「口の利き方もなってないやつに危険なこと教えられるか」
音の反響する洞窟内で騒ぎ出す二人に少し呆れながら、アルスがぼそりと話した。
「……魔法を使う前のおまじないみたいなものだ。なくても使えるが、やっておくと魔法が遠隔で使えるようになる。言葉は何でもいい」
「ふうん」
ギルバートはすっと興味を失ったらしく、深くは追求してこなかった。
詳しく聞いたところで難しい話が始まりそうなことを悟ったのだろう。
「じゃあさ、石魔獣ってのは、地上の動物とほとんど見た目が一緒ってのは知ってんだけど……」
ギルバートがよたよたと剣を抜きながら話し出す。
「この辺ってさ、どんな動物が出てくんの?」
「お前よくそんな基本的な知識なしに遺跡へ飛び込んだな」
ジャックが言葉遣いの指摘も忘れ、呆れて脱力する。
頭を抱えながらも、丁寧に説明を始める。
「いいか、石魔獣の強さはその空間の魔力に比例する。空間内の魔力の濃さっていうか……。まあ、それは大抵遺跡の奥深くに行けば行くほど濃い」
「つまりこの辺だと弱い動物しか出てこないってこと?」
ギルバートの質問にジャックは頷く。
「まあ、栗鼠や鼠といった小動物から始まり、せいぜい猫や小型の犬程度までだな」
「そうだな。今回予定している第一層と呼ばれる範囲についてはそんなものだ」
アルスがジャックの話を受け同意する。
「なーんだ、思ったより大したことなさそうだな」
「お前さあ! なんで、そのへっぽこな剣の構えでそこまで自信持てるんだよ? 犬や猫だって本気で襲ってきたらそれなりに厄介だろうが」
ジャックがギルバートの頭を引っ掴み、ぎりぎりと締め上げるような真似をしながら怒鳴った。
「私たち、一応第二層まではいけるんですよね?」
後ろから静かに着いてきていたチャーリーがアルスに確認してくる。
「ああ。リンデルの兵なら経験者に伴われれば行ける。それより深くなると実力次第にはなるが。ただ、今回はそこまで行くことはないだろう」
二人の新兵を背後に従え薄暗い洞窟を進んでいく。
時折飛び出してくるほんのりと光る鼠のような小動物がいた。
アルスとジャックはその石魔獣を草を分けるように剣で軽く蹴散らし歩いた。
その核である魔石は、小指の先ほどに小さすぎるためわざわざ回収はしない。
「あ、あの……」
遠慮がちに新兵のチャーリーが、アルスの吹き飛ばした小鼠が消滅したのを見ながら話しかけてくる。
「私たちは、なにもしなくていいのですか?」
チャーリーの疑問に、アルスとジャックは顔を見合わせる。
「これはこれで小さすぎて初心者向きじゃないんだ」
アルスが少し説明に悩みながら答えた。
ジャックがにやりとしながら思いついたように続ける。
「いや、そうだな……試しに切ってみろ」
「え? やっていいの?」
先ほどまでつまらなそうについてきていたギルバートが、にやりと八重歯を光らせる。
ギルバートは早速、アルスたちを真似て剣を振り回したものの、鼠一匹手応えのない様子にすぐに動きが止まる。
「ん?」
正確に言うと、切った感触はあるのに切れていないという不思議な感覚に陥っているはずだった。
チャーリーも恐る恐るだったが試したところ、やはり同じ結果だったようで不気味そうに後退りする。
ジャックが魔力をためて、剣を振り上げると数匹の固まった鼠が吹き飛んで消えた。
「石魔獣ってのは魔石を核にした生物だっただろ。触れるし反応も返すが、核以外の部分は魔力によって再現されてるだけで、実体がないわけ。だからこいつらを倒すには、魔法による攻撃で、構成する魔力を吹っ飛ばすか――」
「物理攻撃なら核に衝撃をぶつけるしかない」
アルスはジャックの仕留め損ねた一匹の鼠に剣先を向ける。
その頭にある小さな魔石の一点を正確に剣で撃ち抜いた。
「アルス様、すみません。鼠ほど小さい相手にそれは、俺にもできません」
一発で霧となった鼠を見て、ジャックが、半分呆れた様子で突っ込む。
若干気まずくなり、アルスは付け加えた。
「……まあ、あんまり小さければ足の裏全体で踏み潰すくらいで案外核に当たって消えたりもする。二人は魔法はまだ難しいだろう。剣で戦う以上、もう少し核が大きい魔獣から挑戦するといい。だんだんやり方がわかってくるはずだ」
「魔石を回収するのに核である魔石を攻撃していいんですか?」
「お前ら程度の攻撃じゃ壊れることはないさ。思いっきりやれよ」
チャーリーの疑問に、ジャックが笑って答えた。




