第10話 団長ギブソン
アルスとジャックとの間で、話がひと段落したのを見計らい、ギブソンが声をかけた。
「アルス様、少し兵たちの様子を見て行きませんか。皆の紹介をしたいと思います」
「わかった」
アルスは頷き、歩き出したギブソンの後をついていく。
ギブソン、ブライアン、ジャックとともに兵舎から出て、兵を集めた広場へとやってきたが、そこにいるものはみな一様に覇気がなく、目に光がないように見えた。
第六近衛兵団は率直に左遷先だ。
新兵や、問題を抱えたもの、何かしらの要因で能力不足と判断されたりと、基本的は邪魔と判断された人間の集まりである。
そのため、やる気がないのは想定内ではあったが、すでに先が思いやられる。
ギブソンたちは一足先にこの光景を見ているはずだった。
訓練や軍務そのものは指導の専門家であるブライアンに任せておけば問題ないだろうが、この鬱々《うつうつ》とした空気も改善できるものなのかアルスは心配になった。
「整列!」
ブライアンの掛け声にも反応は鈍く、そろそろと気迫のない集団が目の前に集まった。
ブライアンが、目の奥を鈍く光らせ、眉間に皺を寄せたのが横から見てわかった。
長年兵の指導にあたってきたブライアンにとっては我慢のならない光景であっただろう。
しかし、今この場ではブライアンは彼らに何も言わなかった。
ブライアンは手本となる隙のない姿勢で腹から通る声を張り上げる。
「皆に改めて紹介をする。こちらがアルス王子だ。我々第六近衛兵団は、アルス王子の配下で活動する。王子の隣に立たれているのが団長のアーサー・ギブソン大佐。私が副官のトーマス・ブライアン大尉だ」
兵たちからの視線が集まり、値踏みされるようにじろじろと見られ、少し居心地が悪い。
「アルス様、何かお言葉はありますか?」
アルスは、左上から降ってきたブライアンの声に虚を突かれる。
「え、ああ……」
準備をしていなかった。
言うべき言葉に迷い、焦りながらとっさに頭を捻る。
「皆期待している。よろしく頼む」
言わなければよかったとでも思うほどの凡庸な一言を、なんとかブライアンを真似て声を張り上げ発言する。
若干後悔しながら、周りの様子を窺ったが、特別関心を持たれた様子はなかった。
アルスの横からのそりと大きな影が動き、一歩前に出た。
「——皆! よく聞け!」
よく通るブライアンの声よりも一段と大きな、ギブソンの吼えるような声が、辺り一面に木霊した。
その響く言葉が体内を震わせる。
ぼんやりと気だるげに立っていた兵たちも、目が覚めたようにはっと驚き、ギブソンに視線が集まった。
「集団に馴染めなかったもの。上長と反りが合わず冷遇されたもの。能力不足として切り捨てられたもの。ここにはあらゆる理由で落ちこぼれとされたものが、流れ着いた」
ギブソンは数十人の集団の顔を一人一人確認するように見渡すと、再び声を張り上げて続けた。
「近々数年内に大規模な戦争が起きるだろう。——無論これは私の勘であるとはいい置いておく。だがそれが現実となった時、その時お前たち落ちこぼれどもはどうなるかわかるか。間違いなくつまらん状況下で捨て駒にされる。その時、うまく切り抜けられる手段を今すぐ身につけねばならぬ」
ギブソンの不穏な煽りに周りの兵たちがびくりと反応する。
「やる気のないものには強制はせん。だが、やると決めたものには、私が必ずお前たち自身を――そしてお前たちが守るべきものを守り切るための力を授ける。今の与えられた時間を無駄にしてはならん‼︎」
ギブソンは一層強く目に力を込めて叫んだ。
「——お前たちを馬鹿にしたものたちの鼻を明かしてやれ‼︎」
アルスはぞくりと鳥肌が立ち震えた。
周りの兵たちも、昔から付き従ってきたブライアンですらそうだっただろう。
兵たちは各々頭を木槌で殴りつけられたかのように衝撃を受けた表情をしていた。
アルスは、この兵士たちを鼓舞するためのギブソンの言葉が、決して目の前の兵たちのためだけではないことを悟っていた。
腰に下げた剣を強く握りしめながら、己の未来について考えを巡らせずにはいられなかった。




