七話
そして迎えた当日の夜、パトリシアは自身も着飾り夜会へ赴いていた。
パトリシアが選んだのは、ワインレッドの落ち着いた上品な色合いのドレスとショールだ。所々にあしらったリボンやカメオ付きのジャボタイ、ふわりとレースをあしらった袖周りなどに可愛らしさが現れている。
「そろそろリリーの入場だね」
「はい——————」
固唾を飲んで、キースと共に扉を見つめる。
そして、予想通り扉が開くと自身の兄にエスコートされるリリーの姿が。
一見すると淡い灰色のように見える生地、だがシャンデリアの光の下で歩く度、光を反射してドレスがキラキラと輝く。まるで、ドレスその物が宝石のような美しさを放つのだ。
光沢のある生地には花模様をあしらい、繊細なレースを幾重にも重ねてボリュームを出す。
大きく空いた首元にはアクセントとなるネックレスを着用し、サファイアが煌めいている。
レースグローブを着用することで、派手さの中にも少女らしい可愛らしさも忘れてはいない。
リリーの純真無垢さを惜しみ無く詰め込んだ、最高の一着だ。
「まあ、なんて綺麗なの……!」
「あのドレス、一体どのデザイナーが作ったのかしら。私も注文したいわ!」
「まるで水晶のようだわ!」
リリーが歩く度、誰もが彼女たちに視線を集めていく。
「素敵よリリー!」
「さすが、パトリシアお姉様のデザインね!」
すかさず双子姉妹が駆け寄り、リリーを口々に褒め称える。
その様子を伺っていた人々はすぐに気づいた。
「あのドレス……リングフォード伯爵家の双子令嬢のデザイナーなのね!」
「確か、ルピナス・ブティックよ。あの双子が推薦するだけありますわね。それに、今日の二人もとても麗しいですわ」
クロエとクレアも夜会の為に美しく着飾り、ますます注目が集まる。
「上手くいったな。狙い通りじゃないか」
「いいえ、私だけの力ではありませんわ。クロエ様とクレア様が一緒にアイディアを出してくだいましたし、何よりリリー様が自信を持って着こなしてくださっているからこそお洋服がこれほどまでに輝くのです」
デリックとの勝負のこともすっかり忘れて、パトリシアはリリーたちの姿を夢中で見つめる。
(そう……服が輝く、この光景が何よりも見たかったの)
もう十分なくらいに満足させてもらっていた。
だか、このままデリックの事も忘れたまま良い気分でいたかったが、そうはいかない。
「そんなブティックより、我がノース・ブティックの方がよほど高品質だと約束しますよ!」
主催者である公爵夫人にそう熱弁しているのは、もちろんデリックだった。
「ノース・ブティック? そういえば、ノース子爵とリングフォード伯爵が、二つの店をめぐって勝負をしていると聞いたわ」
主催者には話してあるとキースは言っていたが、公爵夫人にもしっかり伝わっていたようだ。
夫人は勝負と聞いて目を輝かせており、周囲も興味をなおのこと引かれた様子。
だが、デリックが連れている令嬢のドレスは、何とも残念なものだった。
「あれがノース・ブティックのドレス?」
「パッと見は良いけれど……なんだか、不格好じゃないかしら」
ひそひそと令嬢たちが囁く。
デリックの選んだ衣装は、夜会らしい華やかなピンク色のドレスだった。
しかし、華やかさはあるものの、着用者に合わせて作っていないのか丈は妙に長く引きずっている。
その上、スカート部にリボンの飾りをつけすぎてかえってアンバランスになっている。
(それに、何? あの胸元。大きなリボンを付けたのに、その上に飾りの大きいネックレスを重ねたら、どっちも引き立たないじゃない。大体、デコルテ部分の布が不自然に余ってしまっているわ。既製品を流用したせいで、彼女のサイズに合わせきれなかったのが丸わかりよ!)
言いたいことが山ほど溢れてくる。
パトリシアが内心で大暴れしているのを察して、隣のキースが笑っていた。
「伯爵様、この勝負……」
「ああ。こんなに呆気ないとはな」
デリックと話していた夫人がキッパリと告げる。
「高品質、ねぇ……そちらのお嬢さん、裾がほつれているようだけれどそれはどういった意図のデザインなのかしら?」
「……っ、こ、これは……」
指摘されるまで気付かなかったのだろう。デリックは慌てて誤魔化そうとしているが、令嬢は何も知らされていないのかおろおろと不安そうだ。
「何、あれ」
「確か、ノース・ブティックって近頃評判が悪い店じゃなかったかしら」
「ほら、パトリシアが独立してからボロボロだっていうあの店よ」
クスクスと嘲笑が広がっていく。
「ああもう、見てらんないわ!」
パトリシアは思わず飛び出して、デリックが連れてきた令嬢の前に歩み出る。
「怖がらなくても大丈夫。前を向いて。私があなたに相応しい姿にしてあげるから」




