六話
「そもそも、あの時アシュリーさんが着ていたドレス、あれも私のものを真似た粗悪品だったじゃない」
パトリシアが呆れたように言えば、デリックは愕然としてしまう。
「だいたいね、あのデザイン画だっていつ描いたのかも分からないのに私が盗んだなんて一方的に思い込んじゃって。自分の店の商品も覚えてないなんて、信じられる?」
「そ、それは……」
目を泳がせて必死に言い訳を考えている様子だ。
だが、今更何を言われたところでパトリシアがデリックの元に戻ることはない。
「私はもうあなたに失望したの。店を救ってくれたことは今も感謝してる。それは変わらない」
「だったらもう一度僕とやり直して……!」
「でもあなたは、私のデザインを貶したわ。私のことも傷つけた。その謝罪すらしないで、どうして私が戻ってくると思えるのかしら」
パトリシアは堂々と事実を突きつける。これ以上店の軒先で騒ぐのなら、力づくでも追い出したかった。
「お前ッ! そんなことを言っていられるのも今のうちだ! お前の居場所は、僕の店にしかないんだぞ、ここだってすぐに潰れるはすだ!」
「ほう、聞き捨てならない言葉だな」
「ッ、リングフォード伯爵……!」
パトリシアの背後に現れたのはキースだった。騒々しい声を聞いて様子を見に来てくれたのだろう。
「我が家が支援する大切なデザイナーに、それ以上の無礼は許さない」
「い、いや、そんな……これは……」
デリックは突然現れたキースに驚くばかりで、すっかり萎縮している。
「この店が、直ぐに潰れると言ったね。我が伯爵家が全面的に出資している、この一流のブティックが。面白いね、そこまで言うのなら貴殿の店とこの店のどちらが優れているのか、勝負をするのはどうだい」
「……え?」
「次の夜会、貴殿も招待してあげよう。そこで、ノース・ブティックの一番の衣装を披露するといい。パトリシアと貴殿、どちらが優れているのか社交界に判断してもらうんだ」
突然勝負なんて提案したキースに、パトリシアは驚いて言葉が出なかった。
次の夜会、というのは今しがたパトリシアが招待されたばかりのものだ。
そこで衣装の勝負をするなんて、今までのキースらしからぬ発言ではないか。
(伯爵様、急に一体何を……!?)
しかし、デリックは目の色を変えて食いついた。
「いいでしょう! ではその勝負に勝ったら、パトリシアを返していただけますね」
「彼女を物扱いとは頂けないな? だが、考えてやらないこともない」
キースの言葉を聞いたデリックはにやりと笑って引き返していく。
どこに勝算があるのか知らないが、すっかりその気でいるらしい。
一方で、困惑したままのパトリシアにキースがその意図を説明する。
「大丈夫。あれは罠にはまったことにすら気付いてない。それに、何があろうとも私がパトリシアを手放すものか」
「伯爵様……」
「当日、ここへ迎えに来るよ。待っていて」




