五話
「デビュタントのお衣装ですか!」
その日、双子姉妹とキースがブティックへ連れてきたのは、社交界デビューを控えた一人の令嬢だった。
親戚筋の令嬢で、今回のデビュタントのため地方から帝都へ出てきたのだと。
「お姉様にぜひ、お願いしたいの」
「お姉様なら絶対に、素敵なものを作ってくれるもの」
今日の二人はジャボタイが華やかで目を引く、花模様をあしらった色違いのドレスだ。もちろんパトリシアが仕立てたものである。
「リリーと申します。私も、クロエとクレアみたいにおしゃれをしたいなって思って……」
人見知りなのか、リリーはパトリシアを前に気恥しそうにしている。
「もちろん、お任せください。必ず、あなたの魅力を引き立たせる衣装を仕立てみせましょう」
「よかった……、以前に訪ねたブティックだと、あんまり好みじゃないものを強く勧められてしまって、帝都のお店は私には向いてないのかもって思ってたんです」
「まあ、そうだったのですか? ご安心ください。ルピナス・ブティックは、全てお客様第一の接客です。どんなご意見も遠慮なく伝えてくださいね」
パトリシアが出した紅茶を、リリーはホッとした顔で飲んでいる。
客の足元を見て強引な接客をする店はごく稀にある。
彼女がブティックに苦手意識を持ったままでは悲しい、今日は楽しい思い出を作ってあげようと意気込む。
それからしばらく、双子も混じえてデビュタントのドレスの構想を練り始めた。
店内の既製品を持ち出してリリーの好みの路線を探り、好きなモチーフ、似合うカラーを選んでいく。
気づけば何時間も熱中してしまい、キースが声をかけてやっと休憩時間になったぐらいだ。
「パトリシア、少しいいか?」
「はい、伯爵様」
ケーキスタンドを前にきゃっきゃと楽しむ令嬢たちを見ながらスケッチブックに筆を走らせていると、キースがケーキを取り分けてくれる。
「楽しそうだな」
「ええ。私、このお店を開いてから毎日が本当に楽しいです」
満面の笑みを浮かべるパトリシアに、思わずキースは見とれていた。
「それで伯爵様、お話とは?」
「あ、ああ。リリーのデビュタントなんだが……もし良ければ、パトリシアも来ないか?」
「え!?」
「せっかくの晴れ舞台だ。君も、自分の仕立てたドレスが輝くところを見たいだろう?」
「で、でも私、エスコートして頂く相手もおりませんし……」
「何言ってるんだ。目の前にいるだろう?」
キースはにこりと微笑んで、パトリシアに招待状を差し出す。
「言っただろう。私は君のデザインだけじゃない。君自身に惚れているんだって」
「……!」
いつになく真剣な眼差しに、パトリシアはいつものように冗談めかすことはできなかった。
(私が、伯爵様と……)
長い付き合いではあるが、キースのことを好ましく思っていないといえば嘘になる。
彼はパトリシアのことを誰よりも理解してくれている。
そしてなにより、パトリシアを一人のデザイナーとして尊重してくれている。それこそ、デザイナーとパトロンというだけでは物足りないぐらいの熱量で、だ。
(で、でもお客様にそんな感情を抱くなんて……!)
パトリシアがどう断ろうか必死に考えていた、その時だ。
ドアベルが鳴って、扉が開く。新しい客かと思い席を立てば。
「——————パトリシア、見つけたぞ」
「……デリック?」
店に入ってきたのは、変わり果てたデリックの姿だった。
髪はボサボサ、スーツはよれてだらしない。
表情も見たことがないくらいに険しく、暗い目をしている。
「パトリシア、帰るぞ。僕たちのブティックに」
その気迫にパトリシアは思わず後ずさる。
「急に何を……あなたが私を解雇したんじゃない。それに、見ての通り私はもう新しい店を開いたの。第一、あなたはアシュリーさんとノース・ブティックを経営しているでしょ」
「あの女は詐欺師だったんだよ!」
デリックは大声で怒鳴り散らした。
「僕に見せたあのデザイン画……あいつ、パトリシアのデザインを盗んで書き写しただけだったんだ! それ以外も全部、他のデザイナーのものを盗んでバレないように組み合わせただけのまがいものばかりで……!」
「え? 今更気づいたの?」




