四話
「やっぱりやめておきますわ。このデザインは、私には似合いませんもの」
ノース・ブティックの店内で聞こえるのは、女性の深いため息だ。
「で、ですがお客様近年の帝都ではこういったものが流行りでして……」
「結構よ。それに、本当に私に似合うと思って勧めているの? デザインよりも値段の話ばかりされたってねぇ」
引きつった笑顔で引き止めるデリックに構わず、夫人は退店していく。
彼女の姿が消えてから、デリックは舌打ちをした。
「なんなんだ……!? あんな地味顔、何を着たって同じなんだから一番高いものを買えばいいだろ……!」
酷い悪態をついていると、従業員が恐る恐るといった様子でデリックに近づく。
「デリック様、またドレスの返品が……」
「はぁ!?」
「縫製の質があまりにも悪いと……それに、以前と違う型紙のせいで、スタイルが悪く見えると仰られて」
「またか! もう何件目の返品だ!? このままじゃ評判を落とす一方だぞ……!」
このところ、ノース・ブティックはクレームが殺到していた。
どれも縫製の悪さや品質の悪化が理由で、パトリシアがいなくなってからもうずっとこんな調子だ。
接客をしても上手くいかず、パトリシアがいた頃のデザインに戻して欲しいとまで言われるほど。
デリックは我慢できず、アトリエにいるアシュリーの元へ怒鳴り込む。
「アシュリー! 一体どうしたと言うんだ! 新作のデザインだっていつまで経っても仕上がらないし、型紙も形が悪いと言われ、とにかく不評続きだぞ!?」
「デリック、その……新しいアイディアが出てこなくて……」
「そんなもの、売れ筋の商品から似たようなものを作ればいいだけじゃないか! 流行りものを適当に真似ておけば売れるんだから、簡単なことだろ!?」
デリックの怒鳴り声に、アシュリーはびくりと肩を跳ねさせて怯える。
その目元はくまができていて、疲労しきっていた。
「ね、ねぇデリック落ち着いて。私たちは恋人でしょう? そんなふうに声を荒らげないで、ちゃんと話しましょうよ」
「今日は不眠不休でデザイン画を作れ。必ず売れる新作を描けるまで帰宅は許さないからな」
「そんな……!」
「パトリシアなら簡単にやってのけたことなんだぞ!? パトリシアにできてお前に出来ないはずがない!」
デリックはドンッと机を叩いてアシュリーに威嚇する。
最初の頃はあんなに可愛かったはずのアシュリーが、今や足手まといの邪魔者に思えて仕方がなかった。
(こうなったのも全部パトリシアがいなくなってからだ……クソッ、こうなったらあいつを連れ戻してなんとかさせるしかないのか……!)
デリックがそう思いかけた時だ。
「出来ない……私には、デザインなんて作れないわ!」
「……は?」
アシュリーが突然ペンを投げ捨て、顔を覆って号泣し始めたのだ。
「私のデザインをパトリシアが盗んだ話は、全部嘘よ! 前の店にいた時、パトリシアみたいなデザインを作れって命令されたけど上手くいかなくて、給金をどんどん減らされて……それで……」
「それで、パトリシアに成り代わろうとしたのか……!?」
デリックは目を見開いて声をあげる。
目の前で被害者ぶって泣いている女が信じられなかった。
「ちょっとした出来心だったのよ! それがこんなことになるなんて、思わなくて……!」
「ふ、ふざけるな! 僕を騙したってことか!?」
「あんなもので騙されるあんたが悪いのよ! でも結局、結局世間はあの女ばかりチヤホヤして、私には見向きもしない! こんなに頑張ってるのに、あなたまで私を奴隷みたいにこき使って……!」
アシュリーは憎々しげにデリックを睨む。
つまり、アシュリーは私怨でパトリシアを陥れたかっただけで、本当は仕立ての能力なんかない人間で、なおかつ自分はその嘘を簡単に信じ込んだわけで……。
「うそ、だろ……」
デリックが現実に気づいた時には、もう遅かった。
「こんな労働に耐えたあの女の方がどうかしてるのよ! もううんざり!」
「待てアシュリー……!」
アシュリーは脇目も振らず駆け出していった。
残されたデリックは、絶望の中、必死に策を考える。
「クソッ……パトリシア、今すぐあいつを取り返さないと……!」




