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第八十四話 やらかしの後始末

「なぁ、ルネ。お前、今夜予定ある?」

「特にないが……」

「じゃあさ、一個頼まれてくんない?」

「ユーゴの頼みは思ったより面倒だからなぁ」

「そう、言わないでさぁ。お前しか頼めんのよ!」

「……何してほしいんだ?」


 ユーゴは尻のポケットから紙を一枚取り出した。

「ここにさ、エステルパパのサインをもらってきてくんない?」

「エミールの? この用紙はなんだ? 調査依頼書?」

「話はあらかた通ってるからさ、あとはここにサインもらえばOKだから」

 軽薄な笑い方だ。こいつ、なにか後ろめたいことを隠しているな?

「詳しく話せ。ベルゼビュートとして、配下の者にたやすくサインをさせるわけにはいかん」

「ルネってさ、ベルゼビュートとして話すとき、さすがの威圧感あるよね」

「おだてても誤魔化されんぞ? エミールを使って何を企んでるんだ?」

「そぉんな、企むだなんて……。ただのお願いだってぇ」

「言わないならやらない」

「……わかった、言います! 言いますよ。言うけど、ジュンとかソーダイとかには話さないでよ?」

「さっさと言え」


「ソルディアの杖って知ってるか?」

「あぁ、お前が盗んだ奴だろ?」

「なんで知ってんの⁉ え? うそでしょ⁉ なんで⁉」

「タツキから聞いた」

「あいっつ! 自分の事は言わねぇくせに、俺の事はゲロりまくり⁉ マジ、なんなの?」

 親友にもこの調子なのか。ユーゴの苦労が偲ばれるな。


「まぁ、いいや。知ってんなら話が早い。俺っち、実行犯の一人として事情を聞かせろって迫られててさ。まぁ、言ってもSランクだから、王国側もギルド側も、穏便に済ませたいわけよ。もちろん、俺もね? だからさ『犯人グループに加わったのは潜入捜査でした』ってことにしたいわけ」

「それで、エミールからの依頼だった体を装うつもりなのか」

「まぁ、そう言う事よ」

 う~ん。辻褄が合いそうで合わないよな。

 なんでここにエミールが出てくるんだ? とツッコまれてもおかしくない。

「ちょっと無理がないか? カヌセーヌ国内のカヌセーヌ国宝が盗まれた話だろう? 主犯は司教の息子だったか? テンテラ大聖堂って事は、司教以下関係者はみんなラーク帝国の国民じゃないか。ここにトロキオ国民のエミールが依頼を出すなんて流れは出来ないだろう?」

「やっぱ、そう思う?」

「例えばだが、依頼を出したのがベルゼビュートならどうだ? ドラクール領はリヴーサと友好的な関係を築いてはいるが、カヌセーヌ王国に対して直接働きかけるような立場にはない。だが、ベルゼビュートならトロキオ内外の治安維持に努める使命がある。カヌセーヌとトロキオは表向き隣国ではあるが、遥か昔から密な協力関係があった。先の大戦でその関係性は若干揺らいだものの、魔王庁は一貫してカヌセーヌを連携国として協力体制を崩していない。ラーク帝国民である司教の息子がカヌセーヌ国宝を狙っているとなれば、トロキオでもっともカヌセーヌに近い守護であるベルゼビュートが調査に乗り出しても不思議ではないだろう?」

「そりゃあ、そうだが……。その時点で俺に依頼できたベルゼビュートなんているか? リシャールはもういなかったし、お前は行方不明だったし……」

「それを言うなら、余計にエミールじゃダメじゃないか。エミールはおじい様が亡くなる前に、お前が殺した事になってるんだから。ベルゼビュートの知り合いが何人かいるって言ってただろう? そっちに当たってみたら、どうなんだ?」


「うぅぅ~ん……」

 ユーゴは腕を組んで、唸り始めた。

 そんなに難しいことなのか? 

「リシャールの死後、本家派のベルゼビュート達は姿を隠し、トリスタンから屋敷を奪いかえす機会をうかがっている。下手に接触すれば、こっちの動きがトリスタン側にバレかねない。あと、たぶんスッゲェ怒られるから、出来れば言いたくない」

 怒られるのが嫌って、こいつは子どもか?


「じゃあ、お前が独自に調査してたって事にすればいいじゃないか。カヌセーヌのSランク冒険者だろう? 自国のために行動してもおかしくない」

 ユーゴは頭をボリボリ搔きながら、大きなため息をついた。

「俺さぁ、頼まれりゃ働くけど、自分から何かしようってスタンスじゃないんよ。それはギルドの連中が一番よく知ってるからさぁ。その設定が一番嘘くさいと思われるんだわ。実際嘘だし。俺、他国籍冒険者だし」

「カヌセーヌ国民じゃないのか。じゃあ、この手も無理だな」

「あぁ~、めんどうくせぇな! 関所前に来てるような下っ端には俺が関与してるなんて知らされちゃいないが、ギルドマスターに居場所バレるよなぁ……。口止めはしたけども……」


 なんでもいいが、僕の部屋から出てってくれないだろうか?

 今夜、何をしようか考えられないじゃないか。


「そもそも、なんで盗みなんてしたんだ? お前みたいな立場の奴がそんな事をして、面倒になるに決まってるじゃないか」

「……。お前のせいだよ」

 はぁ⁉

「なんだよ、僕のせいって! 僕は関係ないじゃないか!」

 ユーゴは床にどっかりと腰を下ろしてソーダイのトランクに肘をついた。

 なに、くつろいでるんだよ? クソ邪魔だな。


「大人になるとな、何に取り組むにしても終わらねぇのよ。受けたクエストを『クリアしました。じゃあ、次ね』ってわけにいかないの。何をしても遠回りばっかりで、途中、途中、保留だのやり直しだのってさ。その間に別の仕事が入るでしょお? それがまた、あっちで保留。こっちで担当者不在。通行止めに、書類の差し戻しに、伝達ミスに、紛失! 中途半端にクリアできてない仕事ばっかり溜まっていって、タスクは滅茶苦茶。ストレス限界。そんなんしてるとさ、サクッとクリアして達成感得られるような何かをしたくなるんだよ」

「それと僕に何の関係があるんだ?」

「お前の捜索依頼が一番難航してたんだよ! 十年もウロチョロしやがって。なんで、大人しく学園の寮に逃げ込まなかった⁉」


「お前が僕を探してるなんて知らなかったし、知ってたとしてもヴァンパイアハンターだと思ってたんだから仕方ないだろう⁉ あの時は、グレッツェンがカヌセーヌへ行けって言ったんだ。カヌセーヌで何かを探せと言われたけど、慌ててたしうまく聞き取れなくて……」

「おい、まて。グレッツェンってのは、ルネの世話係の奴隷だろう? なんでそいつは、お前にそんな事を言ったんだ?」

「知るか! 何を探せと言われたのかわからない以上、探しようがないし。でもカヌセーヌへってところは聞き取れたから、まずカヌセーヌへ向かったんだ」

 ユーゴは無精ひげを撫でまわしながら考え込んだ。

 はやく、いなくなれよ。ムカつくな。


「ルネ。それ、探そう」

「だから! 探すって言ったって、何を探せばいいのかわからないんだ!」

「調べりゃいい。グレッツェンが何を探せって言ったのか。お前の力になる物か、お前を守る物か。どちらにせよ、重要な意味があるはずだ」

「それは、そうかもしれないけど……。でも、何かわからないんじゃ……」

「グレッツェン本人に聞ければ早いな。消息をつかめるか探ってみる。ひとまず、トロキオ国内に戻るか。それにしてもカヌセーヌの出国制限が邪魔だな。シルンコリヌの航路はトロキオが贈った商船の動向次第で再開されるだろうから、こっちは問題ないだろうが、ミッレフォーリア周りで行くと遠回りすぎるし……。やっぱりカヌセーヌは自由に行き来できた方がいい」

 何だかわからんが、することないなら部屋でゴロゴロしていたいんだけどな。

 このところ、ゆっくり過ごすこともなかったし、たまにはオスカーのブラッシングもしてやらないと。


「ちなみに、ルネが言ってたボクーマで会いたい奴ってのは、関係ないのか?」

「たぶん、関係ないと思う。ボクーマは僕がベルゼビュート家に連れてこられる前にいた町なんだそうだ。グレッツェンはそれを知らないはずだから……」

「……だれ? その会いたい奴って」

 ユーゴの目が覗き込むように僕を見る。

「僕もよくは知らないんだが……。当時、僕と一緒に住んでいた悪魔がいるそうなんだ。名前がスロークということしか僕はわからないんだが……。以前、一人で訪ねた時は何の情報も得られなくて、会えなかった」

「スロークか……。男の名だな」

「それが何か関係あるのか?」

「いや、ちょっと……。その口ぶりだと、お前はそのスロークの記憶はないんだろう? なぜ、儀式の前に会いたいと思うんだ?」

「父上の手記を持っているかもしれないんだ。僕がスロークと住んでいたのは、父上が研究室として借りていた家だそうなんだ。そこにはたくさんの研究資料があったって」


「リシャールから聞いたのか?」

 おじい様から? いや、そんなはずはない。おじい様は父上の話をしたがらなかった。僕が聞くと、少し怒ったような顔で黙り込んでしまったから、聞いてはいけないんだと思うようになった。だから、僕はおじい様の前で父上の話題は出さないようにしてたんだ。

 じゃあ、誰から聞いたんだっけ?

「覚えてない。おじい様じゃないと思うけど、でも、他にそんな事を知ってるのなんて……」


「わかった。その件も含めて、まずはベルゼビュート州とボクーマだな。ルネ、お前の捜索依頼。一年前倒しで解決してた事にしよう」

「なんだ、それは」

「シナリオはこうだ。俺は去年、お前を発見した。お前はベルゼビュートの跡取りだ。ベルゼビュート家の屋敷が占拠されている今、身の安全を確保するために俺が所在を隠す。そこで、お前から『グレッツェンから探せと言われた何か』の捜索依頼を受ける。んで、俺はあちこち探し回った結果、カヌセーヌテンテラ大聖堂の宝物庫に目を付ける。そこで大司教の息子からの依頼を利用して宝物庫に入ったが、目当ての物はなかった」

「ずいぶんと都合のいい話だな。探し物がなんなのか詰められたらどう答える気なんだ?」

「そんなもん。答えねぇよ。クライアントからの依頼には守秘義務があるからな。特にお前はトロキオのVIPだ。ギルドも軍も、お前の情報はツッコんでこられないさ」

「僕はお前の弁明のために軍幹部の前に連れ出されるなんてまっぴらだぞ?」

「大丈夫。お前はただ、架空の捜索依頼書にサインをしてくれればいい。血判付きなら尚いい。あとは俺がどうとでも言いくるめる。それで、お咎めなしだ」

「そんなにうまくいくのか?」

「まぁ、任せろって。お前の次の休みにはボクーマ観光に連れてってやるよ。じゃあな」

 ユーゴはさっぱりとした顔で立ち上がると、ようやく部屋から出て行った。

 さて、今夜はオスカーのブラッシングをして、飯も食わせないといけないからな。少し狩りにでも出るか。


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