第七十三話 新シフト
「では、朝礼を始めます。大変遅くなりましたが、深夜営業開始に伴う改訂版のシフト表が出来ているので配ります。各々、自分の出勤日時を確認してください。あと来月の休み希望は十八日までにお願いします」
これの見方はまだよくわからないが、え~っと、今は十二日の二十一時四十五分だから……十二日の欄か? いや、仕事中に十三日になるから十三日の欄か?
「なぁ、ソーダイ。今日のは、どこの欄を見ればいいんだ?」
「あぁ、シフト中に日付が変わるタイミングがあるとわかりづらいですよね。今日は十二日だから、そのまま十二日のところを見れば良いんですよ」
そうか。え~っと……あれ? ソーダイは休みになってる。
「タツキさん。今日のシフト、俺が休みになってるんですけど、間違いじゃないですか?」
「間違えてないよ。出張ストアーの発動を決めた時に言ったでしょ? そうだい君とルネが交代で休みを取るって。今夜は朝礼の後は明日の夜までそうだい君はお休みだから。三階にいてもいいし、転移する前に自宅に帰ってもいいし。ゆっくり休んで」
「でも、今日は予約のお客様が多数いらっしゃるので……」
「そうだいさん。予約リストは昨夜のうちに作ってくれたじゃないですか? あのリストと注文票の控えと品物があれば俺らで捌けますから大丈夫ですよ。今夜はスタンド付きの焼き網とトングもあるし、干物はルネ君が下ごしらえしてくれたし。先は長いですから、ゆっくり休んでください」
「わかりました。では、お言葉に甘えて今夜は休ませてもらいますね」
「はぁい、オーナー!」
珍しくユーゴが声を上げた。
「なに?」
「俺っち、めためたシフト入ってんだけど?」
「うん。だって、希望休とか言わなかったでしょ?」
「聞かなかったでしょお⁉」
「まぁまぁ、頼りにしてるんだからさ。Sランク冒険者の魔法戦士が従業員で本当に助かるよ」
「Sランク冒険者⁉ 魔法戦士⁉」
ジュンが目を光らせてユーゴに擦り寄る。
「ユーゴさん! 本当っすか? マジで魔法戦士? 冒険者? Sランクって最高ランクじゃないっすか! まじパネェ!」
「まぁまぁ、落ち着けって。そぉんな大したもんじゃねぇのよ? なんか? ちょいちょいってやったらよ? ポンポンポンって上がっちゃっただけで?」
ニヤついた口元が隠せてないな。
嬉しいのか。ユーゴはわかりやすいな。
あらゆるサーチスキルが効かないって話だったが、スキル使う必要ないじゃないか。
「うっわ! すげぇ! チートじゃないっすか!」
「なんだ。同室なのに自己紹介もしてなかったのか。そのチーターでSランクで魔法戦士のユーゴさんには、異世界トレーナーとして君たちにこの世界の事や魔術を教えてもらうからね。仕事と平行になっちゃうけど、しっかり学んでね」
「ハイスペックな仲間との出会いキターーーーーー‼ 俺も習って良いんすよね? 魔法使いになれるんすよね?」
「もちろん。習得したら、ルネの代わりに魔方陣を扱ってもらいたいしね」
「やったー! ユーゴさん。いや、ユーゴ師匠! よろしくおねがいしますっ‼」
「あ、あぁ、うん。……そうね」
完全に目が泳いでいる。
チヤホヤはされたいけど働きたくはないって事か。
本当にこれが永世名誉魔法騎士なのか? 魔術の技量は確かに目を見張るものがあるが、この性格がなんともなぁ……。魔王様はなぜ、こんな奴に褒章をお与えになったんだ?
「とにかく、そういう事だから。今後の各人のタスクを説明するよ。今夜はそうだい君が休み。俺が店番。ルネはオスカーと一緒に荷運びと調理。立木君は販売担当。ユーゴは列整理兼警備。明日はルネが休みになるから、荷運びと移動の担当をユーゴにやってもらう。今夜のうちに関所前広場のどこかに着点陣を用意してくるのを忘れないでね」
「あれ? ユーゴさん、人混みは大丈夫なんですか?」
「あぁ、そうだい君。こいつの事情って『めんどくさい』ってだけだから、大丈夫だよ」
「へぇ~」
ソーダイが冷めた目でユーゴを眺めまわす。
そういや、杖の盗難に関わってるって話は何だったんだろう? Sランクの冒険者が、そんな依頼を受けるとも思えないし、そもそもユーゴは杖を持ってないんだろう? 冤罪? でも首謀者と一緒にいたのは本当っぽいし、カヌセーヌ軍に追われていたんじゃないのか? カヌセーヌ軍が、トロキオの永世名誉魔法騎士を捕縛なんて出来るんだろうか?
やっぱり、こいつもタツキも、何か隠してる気がする。
「明日はルネが休み。俺が店番。立木君が調理。ソーダイ君は販売。ユーゴは荷運びと警備と列整理。明日は魔方陣じゃなく炭焼きでやろう。倉庫の中に残ってる炭はまだ使えるよね。着火剤がないけど、ユーゴが魔法で着火して」
「着火⁉ 炭に⁉ 俺が⁉」
「今日、明日で立木君が魔法を使えるようになるわけないだろ? 魔石もまだ買いに行ってないし。お手本を見せる機会だと思ってさ。……まさか、ランクSの魔法戦士が着火出来ないなんて言わないよね?」
「お、おぉん……。任せろぃ」
「タツキさん。タツキさんのシフトがちょっと……、これはさすがに無茶じゃないですか? 九連勤中の六日間が昼から翌朝までなんて……。いくら何でも倒れちゃいますよ。俺、何日か日勤もやりますから」
「大丈夫、大丈夫。この店のオープンの時に比べたらさ。あの時は半年休みが無かったし。睡眠時間は毎日三時間くらいだったし。その前の店の開店の時は、それこそ三日くらいは徹夜が当たり前だったし。昭和、平成、令和ときて、着実に楽になってきてるからね。ライフワークバランス? いい時代になったもんだ」
ジュンがソーダイに何か耳打ちしている。なんだ? 内緒話か? くそ、僕も混ぜろよ。




