第六十八話 老害三銃士
「お、オーナー……、ルネ君。お、お、おかえり……なさい」
「お疲れ様。栗木田さん」
店番はアイだったか。
もう一人は……、キッチンの掃除をしてるのか。知らない奴だな。
「今戻った。変わりはなかったか?」
「は、はい! 変わりござらん!」
ん? なんだかイートインスペースがにぎやかだな。
珍しく客でもいるのか?
「おぉ~! たっちゃん! やっと帰ってきたか」
「待ってたぞ。水割り作ってくれや」
「どうしたい? 外人の子どもなんか連れて。たっちゃんの隠し子か?」
イートインスペースから三人のジジイが口々に声をかける。
うるさいジジイどもだな。
「俺は、これから仕事の話があるんだよ! 水割り作って欲しかったらスナックにでも行ってこい」
タツキはコマキを押し込むように事務所へ入っていった。
「なぁ、愛ちゃん! こっち来て酌してって!」
「ダメだよ、ワタさん。この子は愛想ない方だから」
「夢ちゃんの方だったらなぁ」
「いやいや、やっぱり花ちゃんだろう! あの子に酌してもらえるなら毎日通っちゃうのになぁ」
随分と不躾なジジイどもだな。
下品な笑い方が実に耳障りだ。
「わ……、私は……」
「アイ? どうした? 震えてるぞ?」
「わ……、わた……わたし……」
アイは両手で膝のあたりのエプロンを握りしめ、大粒の涙をボロボロとこぼして震えている。
その眼前に浮かぶのは大きな『恐怖』。
大きな『恐怖』がアイのうなじ辺りから頭頂部と目を覆い、こめかみに突き刺さっている。
この『恐怖』は以前どこかで見たことがある。
これはマズいやつだ。うなじから出た『恐怖』が思考を支配して、頭痛を呼び『苦痛』と『混乱』を引き起こす。
もう、目が完全に覆われてしまっている。僕の事は見えないな。声が届けばいいが……。
「おい! アイ! 聞こえるか?」
「る、ルネ……君?」
よし、反応した。
「お前、あのジジイどもが怖いんだな? もう大丈夫だ。僕が守ってやる。お前は、倉庫にでも行ってろ」
「ルネ君……、なんで……?」
なんでと言われると困るな。
スキルの事は話せないし。
「なんでもいい。お前は自分が落ち着くことだけ考えてろ。店の事は僕がやっとく」
「あ、あ、あ、ありが……とう」
「いいから、早くいけ」
さてと、何がどう怖いのかはサッパリわからんが、アイはあのジジイ三人組が怖いんだな。
とっとと帰ってもらおう。
「おい! お前ら、アイが怖がってるだろうが。消え失せろ」
「おぉ? 威勢がいいな。坊主。日本語しゃべれんのか」
うわ、だいぶ酒臭いな。
いつから飲んでるんだ?
「言葉が通じてるなら、帰れと言われてるのはわかっているはずだな?」
「別になんもしてねぇよ。なぁ? みっちゃん」
「そうそう。ここで大人しぃ~くお話してるだけだよ?」
「金もちゃんと払ってるしなぁ」
確かに、アイが一歩的に『恐怖』を感じているだけで、こいつらは別に何もしてないな。
しかし、アイがあの状態なのはマズいし……。
仕方ないな。僕がシフトするか。
「わかった。そんなに酌してほしいなら僕がしてやる。だから、お前らはここから一歩も動くなよ?」
「おぉ~! たっちゃんの隠し子が酌してくれるってよ」
「こりゃあ、いいや」
「じゃあ、まず焼酎持ってきて。水と氷とグラス三個ね」
「わかった。エプロン付けてくるから待ってろ」
エプロンは……、三階か。僕が行くとオスカーが起きてしまうな。アイから借りるか。




