第六十三話 自動販売機
「ルネ、ちゃんと拭かないと! まだ背中が濡れてるよ」
「羽根元を触るな。痛い」
「あぁ、ごめん。ここ敏感なんだっけ」
「お前の拭き方が力任せで雑なだけだ。うちのメイドはもっと丁寧だったぞ?」
身体を拭くのにも上手い下手があったのか。
グレッツェンがいかに有能なメイドだったか……、身に染みるな。
もっと至福の生活を堪能しておくんだった。なんでも、なくなってから気づくんだ。
「……ごめんな」
なんだ? 急にしおらしくなったな。
「別に、飯が食えりゃいい」
「そうだね。早く食べに行こう。その前に牛乳を買ってあげるよ」
「牛乳?」
タツキは戸棚だらけの部屋の隅に置かれたガラス張りの陳列棚へ向かった。
「この棚はなんだ? 品物が取れないじゃないか」
「これは自動販売機。昔は番台で買ったもんだけどね。最近はどこも自動販売機だな。風情がないよな。蓋も紙じゃなくなっちゃったし」
「なぁ、ジドーハンバイキってなんだ?」
「やらせてあげるよ。棚の商品の前に数字が書いてあるでしょ? 欲しい商品の数字をこのボタンから選んで押すんだ」
「選ぶったって、どれが何やら……」
「ルネはフルーツ牛乳の方がいいかな? 八番のボタン押して」
八番……。たしかこの鎖みたいな形の字だったな。
「次はこのボタン。購入って書いてある」
この大きいやつか。ずいぶんややこしい文字だな。
「そしたら、この黒いところが光ったでしょ。ここに受付でもらった鍵のケースを当てる」
「やる! 鍵貸せ!」
「はいはい」
この何か書いてある部分を当てたらいいんだな?
ピッ
うん? なんか音がしたけど、扉は開かないぞ?
取れないじゃないか。
「ほら、出てくるよ」
瓶が動いてる! なぜだ? どうなってる? せり出してくるぞ?
ガコン。
「ここの蓋を押すと落ちてきた瓶を取れるよ」
「本当だ。すごい! 出てきた!」
「じゃあ、俺はコーヒー牛乳にしようかな?」
「僕が買ってやる! どれだ? コーヒー牛乳?」
「二十三番だよ。この茶色のやつ」
面白いぞ。こんなの初めてだ。
次は二十三番だな。二はフックみたいな形のやつで、三は八の出来損ないみたいなやつ……。
「数字は覚えたんだね」
「アイからレジを教わった時に覚えた。数字が読めなきゃレジが打てないからな」
ピッ
ガコン
よし、出てきた。
「ほら、コーヒー牛乳だ! 買えたぞ! 次はどれ買う?」
「じゃあ、店のみんなにお土産で買って行こうか」
「わかった。前田は何がいいかな? あとソーダイと、ジュンと、アイとユメ……他にいたか?」
「古川さん。あとは、ルネはまだ会ってないかな? 弓岡さんと日向さんがいるよ。一応ユーゴも忘れないであげて。あいつ、拗ねると面倒くさいから」
そんなにいたか。
え~っと、何人だ?
……九人か。何を何本買おうか?
「普通の牛乳と、フルーツ牛乳、コーヒー牛乳を等分に買って行って、選んでもらえばいいんじゃないかな?」
「そうか。じゃあ、三本ずつだな」
よし、牛乳から買おう。
この真っ白いやつだな。
ジドーハンバイキってのは面白いな。
エステルにも教えてやろう。
「次は飯だな!」
「約束だからね。ちょっとエコバッグ出すから買った牛乳を入れてくれる?」
タツキは畳んであった白い布袋を床に広げた。
「エコバッグ? ただの布袋じゃないのか?」
「実際、ただの布袋だよ。資源を無駄遣いしないための袋。使い捨てのビニール袋や紙袋を使わずにすむ袋って事。おかしなもんだよなぁ。こんな袋にエコバッグなんて大層な名前つけちゃって。昔は、袋や風呂敷を持ち歩くのが常識だったのに」
何だか知らんが、ただの袋か。
牛乳を持って帰れれば、なんでもいい。
とにかく、ステーキだ!




