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第五十五話 潤一郎の手腕

 こっちにも魚サンド一個!」

「こっちはサンドを三個もらおう」

 ジュンの提案で、串に刺せなかったブヨブヨの魚は、網で焼いてパンに挟むことにした。

 バターロールとか言う丸いパンに切れ込みを入れて、焼いたブヨブヨとケチャップを挟む。

 バターロールはこっちの世界のパンと比べるとフンワリ柔らかくて甘みがある。ここに焼いたブヨブヨのプリッとした歯ごたえとジューシーな魚肉に、ケチャップの酸味と香りが加わって、これが食べやすくて美味い。

 ジュンとソーダイは物足りないと言っていたが、こいつらの世界には美味い物がたくさんあるせいで舌が肥えてしまっているんだろう。

 僕はすごく美味いと思うし、現に売ってみたら大人気だ。


「おい、焼き魚まだか⁉」

「サンドを二個待ってるんだけど!」

 焼き網で焼けるブヨブヨは一度に六切れだけなのに、まとめ買いが多くて焼きあがった瞬間に売れていく。

 これじゃあ、いくら焼いても追いつかないぞ。

「おい! いつまで待たせるんだ!」


「うるせぇ~‼」

 ジュンの大声が響き渡った。

「買いたい奴は大人しく並べ! 嫌なら買うな!」

 まったくだ。

 誰のために焼いてやってると思ってるんだ。

 人間風情が、偉そうにしやがって。


 ジュンは店の前の中央に立ち、大きく手を広げた。

「注文は向かって右側へ並べ。料金は先払い。出来たら渡すから、金を払った奴は左側にずれて待ってろ!」

「なんだと⁉ 偉そうに!」

 一人の剣士がジュンに掴みかかる。

「おっと、兄さん! 売って欲しいならルールは守った方が身のためだよ?」

 リンカが空かさずロッドを構えた。

 意外と、ちゃんと働いてるな。


「ルネ君、ホッケを三枚追加です。ブヨブヨは焼けましたか?」

 ホッケ三枚⁉ これ以上は持てないぞ?

 ブヨブヨは……、良さそうだな。

「ブヨブヨは焼けた! ホッケはちょっと待て。網焼きを先に出す」

「魚サンドお待たせしました!」

 ジュンはソーダイが出した魚サンドを取り上げて「魚サンド一個はこっちが先だ」と、後ろで待っていた爺さんに渡した。

「サンド三個は、あんただったな。お待たせ」

 並べと言ってもオロオロと立ち尽くしたり、好き勝手に歩き回る客たちの間で、ジュンはソーダイから受け取った商品を手際よく受け渡していく。

 あいつ、自分が注文を受けてるわけじゃないのに、誰が何を注文したか覚えてるのか。


「干し魚を二つと焼き魚一つ、あと魚サンドってのを二つとパンを六個たのむ」

「干し魚二枚、焼き魚一本、魚サンド二個にパンを六個。千六十リビーです。千二百リビーですね? 百四十リビーのお返しです。左側へズレて、お待ちください」

 えっと、干し魚ってのはアジってやつのことだったよな?

 それが二つと、焼き魚は……。

「ルネ君! アジが二枚とサバ一本です。サンド用のブヨブヨは網に焼けるだけ焼いといてください。お待たせしました! ご注文どうぞ!」

 え? えっと、アジが二枚? サバはもう大丈夫か? あとホッケと網焼きが……。

 向こうの世界の魚の名前じゃこっちの奴らに売りにくいからって、とっさに考えた商品名がややこしい。僕だって馴染みのない魚ばかりなのに。

 網焼きが焼けた。串焼きは一旦地面に刺しといて、網の中身を入れ替えて……。

 あぁ! 手が足りない!

 ソーダイはなんであんなに注文を受けるのが早いんだ⁉

 レジは持ってきてないのに、計算が早すぎる。

 僕がレジを使って計算するよりも早いじゃないか。


「切り身の魚につけてたマヨネーズってやつ、ケチャップってのに変えてくれないか?」

「かしこまりました。出来上がるまで、お待ちください」

 え? 切り身って? ホッケをもう一個焼けばいいのか?

 どれを先に出せばいいんだ?

 アジか? サバは……まだ焼けてないな。

「ルネ君、このトレーに焼く順番に魚を並べておくから、手前から取って焼けばいいよ。焼けたらこっちのトレーにもらうから、慌てないで」

 ジュン? いつの間に後ろにいたんだ?

「ソーダイさん、焼きが追い付かない。そのお客さん受けたら、いったん止めましょう。リンカ! 注文列の先頭に立ってて!」

「了解! さぁ~て、悪い子はお仕置きしちゃうからねぇ~?」


 手前から順番に、焼けたらトレーに……、

「これは良さそうだね。こっちにもらうね」

 僕がトレーに置く前にジュンが取り上げた。

 そうか、右手で次に焼く魚を取って、左手でトレーに移せばいいのか。

「いったん注文は中止します! 再開まで列はそのままで、お待ちください!」

 客に向かって大声を上げるソーダイに、手前の客が「どれだけ待ったと思ってんだ‼ まだ待ってってのか⁉」とこぶしを振り上げた。

「フライム‼」

 リンカが放った火球が、男の両足の間に着弾。

「お仕置き……されたいみたいだねぇ?」

 リンカの狂気じみた笑みに、周囲の客がそそくさと並び列を整えた。



「リンカさん、手伝ってもらっちゃってすみませんでした。約束の魚サンド。特別サイズです」

「うわ~! でっかぁ~い‼ いっただきまーす!」

 リンカ用に特別に作った魚サンドは、僕がおやつに持ってきたメロンパンで作った奴だ。いくら甘みのあるバターロールの代わりとはいえ、甘すぎじゃないのか? 

 とにかくデカいやつが良いって言うから差し出したが、ちょっとオエッだな。


 リンカから買った魚も、店から持ってきた魚とパンも、全部売り切った。

 目標を大きく上回る八十八食。

 時刻は四時四十八分。

 焼き網があったおかげで、予定よりたくさんの魚を一気に焼くことが出来たからだ。

「腹減った……」

 こんなに疲れたのは、久しぶりだな。

 とにかく肉を大量に食いたい。


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