第五十三話 出店場所
「たっだいま~‼」
リンカとジュンは出て行った時と同じようにふらふらと帰ってきた。
何かをしてきたようには見えない。本当に、ただ歩いてきただけみたいだ。
「そうだいさん、出店する場所なんですが……」
ジュンがそこまで言うと、ソーダイは「わかりました。移動しましょう」と荷物をまとめ始めた。
本当に場所を探しに行ってたのか。
ソーダイは人間だからサーチスキルが使えないはずなのに、なんでジュンが考えていることがわかるんだろう?
なんで、ジュンが見つけた場所がどんなところかわからないのに『その場所でやろう』と思えるんだろう?
この計画は、僕とソーダイで考えたのに……。
ジュンが店を出す場所として提案したのは関所の横に設けられた冒険者ギルドの出張受付カウンターの向かいだった。
すぐ裏は茂み。巨木も岩も苔むしている。
数日前に降った雨がまだ乾いていないのか。地面がぬかるんでいるじゃないか。
買ったばかりの靴が台無しだ。
「なんでここ? さっきの所の方が広いし、登山道から来た奴らからすぐに見えるのに」
地面も乾いていたしな。
「自分が山を越えてここへたどり着いた旅人になったつもりで考えてみて。登山道から降りてきて、広場に入る。ようやく関所に着いたと思ったら、あちこちにテントが建ってるのが見える。門前には人だかりで『これはおかしいな?』と思うでしょ? すぐ横にある店に立ち寄るより先に、門の様子を見に行きたいはず。まずは状況を確認して、今後の計画を立て直す。引き返すのか? 門があくまでここで待つのか? それとも、街の中での用事を冒険者ギルドに委託するのか? そんな事を考え始めるのがこの場所なんだよ。ここに店を立てれば『何か食べ物が売ってるようだから買ってみよう』という選択肢が生れるでしょ?」
「広場の入り口じゃあダメなの? 絶対に通るところだから必ず目に留まるし、通り過ぎても戻ってくるんじゃないの?」
リンカが不満げに声を上げる。
自分が店を出してた場所はダメだと言われたようで気分が悪いんだろう。
もっと言ってやれ!
あっちの方が広くて魔方陣も書きやすかったし、地面も乾いてたってな。
「ここに店があれば、掲示板の前や受付に並んでいる人たちに店の様子をじっくり見せられる。ただ並んでいるのは暇だからさ。どうしても見慣れない物に興味を惹かれるでしょ? 凝視せずに居られないはずだ。周囲の人間がそうしていれば余計にね。その間に魚が焼ける匂いや調味料の香りで引きつける。門前に集まった人たちが必要な情報を手に入れて『さあ、これからどうしようか?』ってタイミングには、この店は焼き魚を売っているんだという事がわかっているんだ。いくつもある選択肢の優先順位の上位に入れる。リンカが売ってたのは生の食材だから、さっきの場所でいいんだよ。テントを張った後に落ち着いて買いに行くだろうし、入口付近の方が獲ってきたばかりで新鮮な感じがするでしょ?」
「そっか! あたい、まちがってなかったんじゃん! さっすが、あたい!」
なるほど、理にかなってるわけか。
「じゃあ、設営始めましょう! 俺はテーブルを組み立ててカウンターを作るので、ルネ君は魔方陣をお願いします。リンカさん、周囲の警戒をお願いできますか?」
「いいよ! どっからでもかかっておいでぇ~。バチカスにしちゃうから♡」
かかってこられないようにしろよ。
てっきりジュンは、僕が魔方陣を描く様子を見たがるものと思っていたが、ずっと腕を組んで周囲を見ていた。
その横顔にあるのは『思案』。
あんなに大きく浮かんでいた『歓喜』も『高揚』も、『好奇心』さえ今は無い。
そういえば、あの変な匂いが今夜はしないな。
約束通り、香水をつけないでくれたのか。




