第五十一話 異世界、大好き
「こんなのドラゴンじゃない‼」
ようやく出発できるかと思ったタイミング、またジュンの絶叫が響く。
「ファラミーヌだ。上半身は熊だが、れっきとしたドラゴン族だ」
「熊⁉ こんなフワモコおめめクリクリの熊がいるか!」
「オスカーは、まだ子どもだからだ! 成獣になったらかっこよくなるんだ!」
「キュギュー」
「鳴き声が変!」
「変とか言うな!」
オスカーをバカにしやがって、こんな奴をオスカーに乗せてやるもんか!
「ソーダイ! お前がオスカーに乗れ! ジュンは僕が連れていく!」
「それは良いですけど、時間が押してるんですからケンカは止めてください」
「ドラゴンライダーかと思ったのに!」
「何がドラゴンライダーだ! お前は僕が『お荷物』として運んでやる!」
あぁ、もう!
やっぱり異世界人は、わけわからん!
「スゲー、本当に異世界なんだ」
眼下を見下ろしながら、ジュンは感嘆の声を上げる。
ソーダイみたいに暴れないのは助かるな。
「お前、この世界が好きなのか?」
「そりゃあ好きだよ! 異世界大好き! 俺たちの世界はクソだからさ。生まれた環境で人生が決まるのに、それを現実として認識されてない。努力すればいい人生が手に入ると嘘をつかれ、良い人生になってないのは怠けてるからだとレッテルを張られる。異世界は良いよ。チートの能力と魔法で人生逆転できる」
「ジュンがいう異世界は、たぶんこの世界の事じゃない。いい人生とかなんとかってのはわからないけど、生まれた環境で人生が決まるのはこの世界も同じだ」
「でも、魔法でどうにか出来るんじゃないの? ルネ君だって空飛んで、すごいじゃん!」
「飛べない奴からしたら、そうかもしれんがな。種族によって出来ることと出来ないことが違うだけで、飛べるから秀でているわけじゃない。魔法は万能じゃないし、この世界で魔法を使える奴は多い。お前達の世界のカガクと同じだ」
「でも、この世界には俺の邪魔をする奴はいないよ。それだけで、何でもできそうな気がする」
飛んでいる間、僕にはジュンの顔が見えない。
こいつは色々と勘違いをしてるし、こいつの言葉は信用できない。
でも、この世界を好きだと言ってくれる言葉は信じたいと思った。
「遅くな~い⁉ 魚以外のは、全部売っちゃったよ⁉」
ふてくされるのは、昨夜出会った冒険者の女だ。
名前は確か、リンカとか言ったな。
「すみません。お待たせしました。魚はいくつ残ってますか?」
「小さめのが十二と、大きいのは七だよ。全部で千三百リビーでいいよ」
「え? 良いんですか? 昨日の金額より安いですけど」
「うん。その代わりさ、あたいにもフレイムエイルの魔方陣使わせてくんない? 生活魔術は苦手でさ、あたいがやると焼けすぎちゃうんだよね」
「ルネ君、いいですか?」
「あぁ、構わない」
失神魔法を扱えるレベルの魔術師は、傍にいるだけで他者への牽制になるからな。
人が多い場所での一番の脅威は人だ。味方は多いほうが良い。
「じゃあ、準備を始めましょう。ルネ君、魔方陣をお願いします。潤君は魚に竹串を……」
「待って、そうだいさん。俺、ちょっと周り見てきたい」
はぁ⁉
「何言ってんだよ! 時間がないんだぞ?」
「わかりました。ただ、ここは危険なので……。リンカさん、彼と一緒にいてもらえますか? 代わりにパンと調味料を使ってごちそうするので」
「いいよ! お兄さん、どこが見たいの?」
リンカを連れて、ジュンが広場の中をふらふら歩いていく。
「おい! 良いのか⁉ あいつ、この世界が初めてで観光気分なんじゃないのか⁉」
ソーダイは『自信』と『信頼』をまとって笑う。
「いいんですよ。潤君には、ちゃんと考えがありますから」




