第三十五話 ユーゴと酒
次はユーゴか。部屋にはいないみたいだな。タツキの所か?
僕たちの部屋からはオスカーとソーダイの声が聞こえる。
どうやら、ちゃんと部屋に戻ったみたいだな。
僕も店から晩飯でも持ってきて、食ったら少し休むとするか。
「だぁ~かぁ~らぁ~、オーナーにつけといてって言ってんじゃん。なぁ、頼むよ、これだけ! これだけでいいから!」
ユーゴがカウンターのユメに向かって縋り付いている。
いないと思ったら、ここに降りてきてたのか。
恩人は恩人なんだが、どうにも威厳がないというか……、実力があるのもわかるんだがなぁ、こうしているとタダの阿呆にしか見えん。
「だから! 何度も言ってるでしょ! オーナーへのつけはオーナーから事前に通達が無いとできません!」
「じゃあ、俺の名前でつけていいから。絶対払う! 俺は絶対に払う男ですよ? 踏み倒したことなんて一度もありません! 信用第一!」
「つけを払うのは当たり前です。あと、うちは信用取引はやってないんで! オーナー自払いでの購入は、ルネ君がその条件で契約した従業員だからなんです!」
「はい! 俺、従業員です! 従業員なりました! 昨日から!」
「ですから! 何度も何度も言ったセリフを繰り返しますけど! オーナーからの許可がないとダメです!」
「なぁ~んでぇ~? いいじゃあ~ん。俺も従業員なったしぃ、ルネは良くて俺はダメとか贔屓だとおも~う。俺も、ルネみたいにつけで飲み食いしたい、したい、したいぃ~」
なんだ、ユーゴの奴、酒が欲しいのか。
「おい」
「ルネじゃあ~ん! ねぇ、聞いてよぉ。このお嬢ちゃんたち酷いんだぜ? 酒しか楽しみがない哀れなオッサンがさ、一杯で良いから恵んでくれって言ってんのに、けんもほろほろに追い返そうとすんのよ? 慈悲もなにもありゃしない!」
「ロング缶のストロングチューハイをワンケースは『一杯』とは言いません」
ユメは穏やかに見えたが、意外と気が強いな。
『嫌悪』に『不審』か。ユーゴは完全に嫌われてるじゃないか。
アイの方には『恐怖』が浮かんでいる。
こいつにも人間らしい感情があったんだな。
「ユーゴ。酒なら僕が土産に買ってきたのがあるから、それで構わないか?」
「え⁉ 俺に酒買ってきてくれたの? 土産? まっじ、神なんですけどぉ~‼ 愛してる! ルネ様、大好き!」
「あと、つまみがいるのか?」
「はい! つまみ、いります! 感謝感激ぃ~‼ チューしたげよう!」
「いらん! 寄るな!」
「ちょっと、ルネ君! オーナーにつけられるのは、ルネ君とエステルちゃんの分だけだよ? オーナーからはそれしか聞いてないもん」
そうなのか。じゃあ、やっぱりオスカーの分も自分で払わないといけないんだな。
出張ストアーの営業中は自分で餌を狩って食うように言ってあるから、しばらくは用意しなくても大丈夫だろうが、今後どこで調達するか考えないといけないな。
オスカーは僕に似てグルメだし、美味いものを食べさせてやりたい。
「わかった。じゃあ、このカゴに入れたのは僕の晩飯だからタツキの払いにしておいてくれ。ユーゴ、カゴ持って選びに行こう。お前の分は僕が払う」
「ちょっと待って! ルネ君が奢ってあげるの? この変なオジサンに?」
変なオジサン……、確かにそうとしか見えないか。
「ユーゴはこう見えて、エステルの命の恩人なんだ。エステルの恩人は僕の恩人だからな」
二人でコソコソと何を話してるんだ?
『歓喜』『興奮』『高揚』『好感』
アイの感情はいつも通りに意味不明だが、全く同じ感情がユメにも表れている。
嫌な感じだな。女が集うといつもこれだ。
「わかった‼ ルネ君の意思を尊重するよ! こっちのカゴの分は会計通しておくから、好きなの選んできて!」
「許嫁ムーブ、テラ尊す!」




